[FT]中国「宮廷政治」 習近平氏の忠臣らが権力闘争へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2613M0W3A120C2000000/
『2023年1月26日 17:51
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月に開く「両会(2つの会議)」を使って、世界最大級の人口と強大化する軍事力を擁する国家の中枢を担う人事を一気に承認する。両会は中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)と国政の助言機関である全国政治協商会議(政協)を合わせたものだ。
中国共産党大会の開幕式に到着した習近平氏(2022年10月)=ロイター
任命される人物の大半は、習氏にとって旧知の仲の男性部下や、数十年ともに仕事をしてきた信頼する高官で占められる。そこに毛沢東以来で最も強力な指導者となった習氏に忠誠を示す期待の若手も加わる。
権力固めの総仕上げ
今回の人事の承認は、昨年10月の党大会で異例の3期目(1期の任期は5年)入りを果たした習氏にとって権力固めの総仕上げになる。
さらには習氏の信奉者や忠臣の間に新たな派閥が誕生することが明らかになるものでもある。
中国の趙紫陽元首相の顧問だった呉国光氏は最近、米研究グループ「チャイナ・リーダーシップ・モニター」によって出版された論文で「派閥政治の新時代が幕を開けた」と評した。
「最高指導者としての習氏の地位と権威が中国共産党幹部から挑戦を受けることは考えにくい。だが、習氏の追従者のさまざまなグループの間で派閥競争がすでに始まっている」と呉氏は指摘する。同氏は現在、米スタンフォード大学と米シンクタンク、アジア・ソサエティーに所属している。
習氏によるこれまで10年間のリーダーシップの特徴は、意思決定の中央集権化であり、自分以外の幹部指導者の影響力をそぐことだった。すでに前国家主席の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏、元国家主席で昨年11月に死去した江沢民(ジアン・ズォーミン)氏に連なる、かつて権勢を振るっていた人脈を根こそぎにした。
新たな派閥は習氏の後任争いにも
新たな派閥は習氏の鉄壁の権力を脅かすことはないものの、支配力や影響力、さらには党トップとしての習氏の後任の地位をめぐって争うことになる。
不透明で予測不可能な中国の政治を解明するには、習氏周辺の幹部の経歴や人柄、思想傾向、政策の好み、個人的な人脈を知ることが非常に重要だと専門家は指摘する。
「今後数年間、派閥競争は避けられない。内部でのエリートの入れ替えや権力の継承という意味での世代交代は、形成されつつある習氏の下部派閥間の権力闘争も加速させるだろう」と呉氏は論じる。
呉氏は論文の中で4つの重要な派閥として、習氏が福建省、浙江省、上海市、陝西省でそれぞれ共に働いた高官の集団を挙げている。陝西省は習氏の家族にとって縁の深い場所でもある。
呉氏はさらに5つの派閥を挙げる。軍産部門の高官、名門の清華大学の学閥、中国共産党幹部の養成学校である中国共産党中央党校の関係者、習氏の夫人である彭麗媛氏に関係する複数の高官、そして公安関係者だ。
「より大きな構図で見ると、(軍産)派閥の台頭は、習氏による経済や技術開発の新たな戦略を示唆しているようにみえる。国家が技術進歩を促進させる能力を強調し、中国経済での民間部門の比重を減らそうとするものだ」と呉氏は説明する。
中国エリート政治の専門家である米カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー氏は、最も重要な派閥として、習氏が福建省と浙江省の幹部だった時代にそれぞれ形成した集団と、党の強力な腐敗摘発組織に任命された陝西省出身の高官の集団に絞り込んでいる。
習氏が10年以上を過ごした福建省
福建省時代からの習氏の側近には、大方の予想では劉鶴(リュウ・ハァ)副首相に代わって経済政策の責任者に就くとみられる何立峰(ハァ・リーファン)氏や、党のプロパガンダや思想を担う中央政治局常務委員に新しく選ばれた蔡奇(ツァイ・チー)氏、公安相の王小洪氏がいる。いずれも1999〜2002年に福建省の幹部だった際の習氏とつながりがある。
「非常に強力な組み合わせだ。(福建省時代は習氏の)経歴で最も長い期間だという点を忘れてはならない」とシー氏は話す。「習氏は福建省で10年以上を過ごした。この場所は習氏の中に深く刻み込まれており、その逆もまたしかりだ」
習氏が02〜07年に浙江省トップの党委員会書記を務めていた時代とのつながりでは、中央政治局常務委員で次期首相の最有力候補である李強(リー・チャン)氏や、広東省トップの党委員会書記を務める黄坤明氏、新しい国家安全相の陳一新氏がいる。
習近平氏(中央)に続いて歩く李強氏(2022年10月)=ロイター
米ブルッキングス研究所の中国政治専門家の李成氏は「非常に複雑な」中国の新たな政治状況について、専門家らの理解は「端緒についた」ばかりだと指摘する。
つまり指導部の広大な人脈のほか、政策や思想、影響力の違いを新たに分析し直す必要があるという意味だ。
しかし中国人エリートや旧ソ連政治が専門の米アメリカン大学のジョセフ・トリジアン氏は、中国ウオッチャーはこれまでも秘密めいた北京の共産党内部の動きをうまく予測できてこなかったと語る。一方で同氏は、独裁者が同世代の指導者を追放し、より若手の幹部を登用した毛時代との類似点を指摘する。
「『大掃除』で登用される異なるグループの間では確実に競争が起こるだろうが、彼らが主にやってきたのは最高指導者に対する忖度(そんたく)合戦だ」とトリジアン氏は説明する。
派閥は習氏の怒りを買うリスクも
中国共産党の上層部で形成されつつある派閥は、どこも習氏の怒りを買うリスクを負っている。習氏は政治的に対立する相手や、自らの支配にとって脅威とみなした相手を厳しく取り締まってきた。
22年10月に開かれた中国共産党大会の前の数カ月間で、司法省や公安省の元幹部らが、国家主席に背く「政治ギャング」の一味だとして長期の懲役刑を言い渡された。
トリジアン氏は、こうした中国における政治集団について「派閥と呼べるほど結束することはまれだ」と語る。
「他の誰かとあまりに協調して動いているようには見られたくない。そんなことをすれば習氏は即座に警戒すべき兆候と受け止め、粉砕しようとするからだ」
By Edward White
(2023年1月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
(c) The Financial Times Limited 2023. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』