中国「秘密警察」世界に100カ所超 言論監視、秋葉原でも

中国「秘密警察」世界に100カ所超 言論監視、秋葉原でも
民間装い立証困難
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2005M0Q3A520C2000000/

『中国政府が在外の中国人や華僑の活動を監視する秘密警察に各国が警戒を強めている。米ニューヨークでは中国系米国人2人が米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。人権団体によれば、中国が海外に展開する警察拠点は少なくとも日本を含む53カ国、102カ所に達している。

「活気に満ちたチャイナタウンの中心にあるオフィスビルに暗い秘密がある。米国市民を監視するため、中国国家警察がここに出入りしていた」。4月17日、…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『4月17日、摘発を発表したニューヨーク東部地区のブリオン・ピース連邦検事は憤りをあらわにした。

ニューヨーク雑居ビルの4階 ノックに返答なし

司法省が捜索した「警察署」は男性専門の治療院や会計事務所などが入る雑居ビルの4階にあった。フロア案内板には福建省の福州市長楽出身者向けの集会所を意味する「美国長楽公会」との文字が書かれている。入り口には鍵がかかり、記者がノックしても返答はなかった。

逮捕状によると、逮捕された2人は中国政府と共謀して拠点を運営。カリフォルニア在住の反体制派の人物への嫌がらせなどの活動に使われた。司法省は同日、自国政府に批判的な中国人を監視するなどした中国公安当局の職員ら約40人も訴追した。

米司法省が捜索した「警察署」が入っていたとされるビル(米ニューヨーク)

中国による国外での警察活動が世界で知られるようになったきっかけは、スペインの人権団体セーフガード・ディフェンダーズが2022年秋に公表した報告書だ。これらの拠点は「海外110番」と呼ばれ、地方警察によって運営されていた。

当初は中国人旅行者や華僑にサービスを提供する場として始まり、次第に当局が目をつけた在外中国人に帰国するよう圧力をかけたり、反体制派を攻撃したりする弾圧の拠点になっていったという。

報告書には福建省の警察当局が公開していた拠点リストが掲載されている。今回摘発されたニューヨークの拠点も含まれ、22年12月に公表された追加報告書によると英国やカナダ、日本や韓国にも広がっている。

日本の拠点には東京・秋葉原の住所が記されていた。建物は以前、民泊施設として運営されていたが、現在は予約を停止している。記者が訪ねてみたところフロントにスタッフの姿はなく、営業していない様子だった。

中国外務省「存在しない」 違法行為立証難しく

米国の非政府組織(NGO)「南モンゴル人権情報センター」によると、5月中旬、モンゴルに滞在していた中国・内モンゴル自治区出身の作家ラムジャブ・ボルジギン氏が中国警察に拘束され、連れ戻された。国外での警察活動の一端とみられる。

ただ、秘密警察の拠点とされる場所は表向きには民営の施設や互助組織となっており、違法行為の立証が難しい。刑事告発に至ったのはニューヨークの事例が世界でも初めてとみられる。

中国外務省の汪文斌副報道局長は5月の記者会見で「中国の海外警察署というものは存在しない」と強調した。こうした拠点については「新型コロナウイルスの感染拡大期に帰国できない中国人の運転免許更新の申請を支援したものだ」と説明。活動の担い手も地域の熱心な華僑であり、警察官ではないと主張した。

日本での拠点として住所が記載されていた施設(東京・秋葉原)

カナダ政府は5月上旬、中国系の国会議員と香港に住む親族を脅迫しようとしていたとの報道を受け、在カナダの中国領事を追放。中国側も在中国のカナダ領事を追放し、報復合戦に発展した。英国でも内相が懸念を表明し、調査を始めたと報じられた。

FBIは今回の摘発で、国境を越えた弾圧が違法行為と知らせるウェブサイトを開設した。追跡や脅迫、暴行、資産凍結などの違法行為に直面した場合はFBIに連絡するよう求めている。

取り締まりの法整備を求める声は強まっている。カナダでは脅迫被害を受けた議員が所属する野党保守党が、米国やオーストラリアと同様に、外国政府から援助を受けて外国の利益のために活動する個人や組織を登録させる、「外国代理人登録法」を整備するようトルドー内閣に求めている。

(ニューヨーク=朝田賢治、北京=田島如生、川上宗馬)

阿古智子東大教授「事情聴取や拘束、明確な主権侵害」

東大の阿古智子教授

中国政府は警察拠点と認めていないが、海外で暮らす中国人に対して事情聴取や拘束など実質的な警察活動を海外で実施している。外国政府との間で犯罪人引き渡し条約や捜査協力などの協定を結ぶことはあるかもしれないが、あくまで活動するのは自国の警察組織。明確な主権侵害だ。

中国は在外国民の運転免許更新など行政サービスを提供している拠点と主張しているが、そもそも届け出をしていない時点で国際法に違反している。

主な役割は中国政府にとって脅威となり得る海外在住の中国人の活動を調べたり、警告を発したり、帰国を促したりすることとみられる。以前から国内で言論統制の動きがある中国では在外国民を監視する動き自体はあったが、最近になって動きが強くなっていると感じる。

新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題や米中対立で国際社会からの視線が厳しくなり、外国での批判的な活動に敏感になっている。3期目に入った習近平(シー・ジンピン)国家主席が、国内の不満が高まっているかもしれないとの警戒感を強めているとみられる。

ゼロコロナ政策や金融・不動産など経済政策もうまくいっていない。小さな不安要素も取り除きたいという中国政府の思惑が働いている。

最近の報道であった中国・内モンゴル自治区出身の著名作家、ラムジャブ・ボルジギン氏の拘束もその一環だ。現時点でそうした動きはないが、独立運動の機運を高めるかもしれないという不安が働いたためとみられる。

(聞き手は千住貞保)

【関連記事】

・FBI、中国の「警察署」運営で2人逮捕 ニューヨークで
・民主主義に忍び入る脅威 中朝「工作疑惑」に揺れる韓国
・[FT]米当局、中国の工作員5人を起訴 在外活動家を妨害 
ニュースレター登録

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー

ひとこと解説 こういうのは今始まったことではない。岸田首相がバイデン大統領を接待した料亭八芳園に蘭の間があり、日本に亡命してきた孫文を接待する際、清朝の秘密警察の追跡から逃れるための孫文の抜け穴がある。こういうことを実行する考え方は、海外ではあるが、外国人を捉えるのではなく、自国の反政府分子を捉えるから、内政であるということである。むろん、今は100年前と違う。こういうことが明るみに出ると、中国にとって大きなマイナスになる
2023年6月6日 6:53』