批判覚悟の「PayPay改悪」 楽天経済圏に対抗

批判覚悟の「PayPay改悪」 楽天経済圏に対抗
LINE・ヤフー 背水の合併(2)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC199EB0Z10C23A5000000/

『「使いづらくなる」「PayPayさよなら」――。5月1日、ネット上はZホールディングス(HD)子会社のPayPayに対する批判の投稿であふれた。ツイッターでは「PayPay改悪」がトレンド入りした。PayPayのスマートフォン決済はクレジットカード払いの場合、他社が発行するカードも利用できるが、8月から自社の「PayPayカード」に限定すると発表したからだ。

他社カード排除により自社カードの発行…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『他社カード排除により自社カードの発行数を増やし、スマホ決済、ポイント、カードなどPayPayで完結できる経済圏への誘導を狙う。だが、他社カードを使う利用者が離れかねないリスクもはらむ。

批判覚悟で囲い込みを優先するのは、ZHDとして経済圏づくりで先行する楽天グループを追うためだ。決済取扱高はPayPayの10兆円に対し、楽天はカード取扱高のみでPayPayの1.8倍、グループ電子商取引(EC)取扱高は1.5倍にのぼる。

囲い込み策に踏み切れるのは「数の力」があってこそだ。PayPayはサービス開始からわずか4年半で利用者が5700万人を超えた。スマホ決済シェアは3分の2を握る。ただ、PayPay幹部や営業現場はさらなる利用者獲得に貪欲だ。

2月中旬、東京都港区にあるPayPay本社の一室に同社幹部らが勢ぞろいした。「LINEのように、日常に欠かせない存在にならないといけない。絶対に(利用者数増の)スピードを緩めるな」。社長の中山一郎は檄(げき)を飛ばした。

「『楽天市場』でもPayPayを導入してもらいたい」。PayPay副社長の馬場一は目的のためには「敵」とさえ組みたいという本音も隠さない。2022年にはアマゾンジャパンと提携。ヤフーのECでためたPayPayポイントをアマゾンで使うこともできる。ヤフーからは「なぜ敵に塩を送るのか」との声が漏れる。

「PayPayの成長は異例の速さだ」。ZHD社長の出沢剛のPayPayにかける期待は大きい。LINEやヤフーの業績が足踏みするだけに、グループの次の成長を担う存在になりうる。9500万人が利用するLINEとの連携でさらなる利用者の拡大も狙える。PayPayを活用した囲い込み策が吉と出るか凶と出るかは、10月に発足する合併新会社LINEヤフーの行く末を占う。(敬称略)

【関連記事】

・PayPay、他社のクレジットカードの利用停止 8月から
・PayPay、スマホ決済5700万人をクレカへ 楽天に対抗
・PayPayサービス変更 他社カード利用停止に衝撃も
・「線」になれぬLINEとヤフー AIで挽回なるか
・EC決済比率、PayPayがコンビニ抜く 2年で3倍

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

楠木建のアバター
楠木建
一橋ビジネススクール特任教授
コメントメニュー

分析・考察 スマートフォン決済のように価値の差別化が難しい業界では、初期の段階は顧客への「出血サービス」でユーザーの数を増やす競争がしばらく続く。しかしそれだけでいずれもたなくなる。利便性の一部を落としてでも将来の利益につながるようなサービスの仕様変更が必要になる。
2023年5月31日 8:43』