冷戦後の米対中関与「戦略的大失策」 ミアシャイマー氏

冷戦後の米対中関与「戦略的大失策」 ミアシャイマー氏
ニクソン訪中50年
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN115QT0R10C22A2000000/

『2022年2月22日 0:00

米中国交正常化のきっかけとなったニクソン米大統領(当時)の中国訪問から21日で50年となった。米国は中国がいずれ民主化すると期待し、国際秩序に取り込む「関与政策」を長く続けた。2001年初版の著書「大国政治の悲劇」で「関与政策は失敗する」「米中は敵同士となる運命」と断言したシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授に米中関係の半世紀と今後を聞いた。(聞き手はワシントン=大越匡洋)

――50年前、中国との国交正常化への道を開いたニクソン大統領、キッシンジャー大統領補佐官の決断はそもそも間違っていたのでしょうか。

「そうではない。米国の過去50年の対中政策は冷戦時代と1990年前後から2017年までのポスト冷戦期、それ以降を区別して評価する必要がある。冷戦時代の米国は中国に関与し、ソ連に対抗する関係を結んだ。非常に理にかなったことだ」

「89年に冷戦が終結し、91年にソ連が崩壊すると、米国はソ連を封じ込めるために中国の力を必要としなくなった。米国は愚かにも中国が経済的に強くなるのを助ける『関与政策』を追求した。中国は当然、成長した経済力を軍事力に転換した。米国は同等の競争相手を創り出す戦略上の大失策を犯した」

――米国は中国が台頭する潜在力を過小評価していたのですか。

「違う。米国は中国が経済的に強大になると予測し、中国を世界経済に統合しようと努めた。同時に冷戦への勝利から、欧米の政策エリートは共産主義やファシズムがもはや実行可能な政治形態ではなく、中国もロシアもいずれ自由民主主義国となると考えた。米国に限らず、欧州、日本、台湾、みなが中国を支援しても地政学的脅威にならないと考えた。中国は米国に挑戦することをめざし、新冷戦が始まったのだ」

――中国の「封じ込め」は実行可能ですか。

「トランプ前政権は基本的に関与政策を放棄し、バイデン政権も封じ込めを追求している。まず軍事的側面として米国と同盟国は中国が南シナ海を占領したり、東シナ海の現状を変えたりするのを阻止しようと決意している。経済的に狙っているのは中国の成長を可能な限り抑え、同時に欧米の成長を加速させること。最先端技術を中国に支配させないことが主になる。問題は誰がより多くの損害を被るかだ」

――米中の武力衝突の可能性をどうみますか。

「米中の新冷戦は米ソ冷戦より『熱戦』に至る可能性が高い。地理的な理由が大きい。米ソ冷戦は欧州が中心で、北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の衝突は瞬時に核戦争に発展する可能性が高かった。代償が大きい分、米ソ間の抑止力は非常に強固だった。一方、東アジアの現状からは米中が台湾や南・東シナ海を巡って限定的な戦争に至る事態が想定できる。限定的な分、可能性は高まる。冷戦時代の米ソ戦争の可能性との比較で考えれば、米中戦争の可能性の方が高いという意味だ」

――限定的衝突でも核戦争につながる恐れがあります。

「たとえば中国が台湾をめぐる争いに負けた場合、海上で核兵器を使用する事態が想像できる。米国による逆のケースもある。核兵器が海上で選択的に使われる事態だ。慎重な表現が必要だが、米ソ冷戦時の核戦争の可能性よりも、海上における米中の戦いで核が使われることを想像するほうが容易だろう」

――中国は「時間は中国の味方」と考えています。

「正しいかもしれない。中国が台湾を統一しようと考えれば、米国に対してはるかに優位になるまで待ったほうがよい。だが今後30年、中国経済がどうなるか知ることは難しい。だから最悪のケースに備え、米国は中国の封じ込めに全力を尽くさなければならない。軍事力は結局、経済力に基づいている」

――93年の論文でウクライナの非核化に反対しました。ロシアの脅威を抑止できなくなるとの理由でしたが、米国はアジアと欧州の問題に同時に対処できますか。

「正確を期そう。米国は欧州とアジアの問題に同時に対処する能力がある。しかし、双方で同時に良い成果を上げる能力はない。米国は愚かにもロシアを中国側に追い込んだ。 中国に対抗するためには米国はロシアと手を結ぶことが自然だ。 NATOを東に拡大したことでロシアとの間で危機を招き、アジアに完全に軸足を移せずにいる」

――バイデン政権が昨年開いた「民主主義サミット」は中国など権威主義国家の台頭を抑えるために有効でしょうか。

「思わない。いまの争いは地政学的な競争であり、イデオロギー的な競争ではない。日本や米国が民主主義国家であることは素晴らしいが、イデオロギーと関係なく、中国は両国にとって脅威である。私はリアリストなので地政学的な考察を重視したい」

――日本の役割は。

「日本は対中連合の主要プレーヤーとして米国に対し、なぜ東欧でロシアと争うことが不合理か、なぜ米国は東アジアに集中すべきか、徹底的に説明すべきだ」

John J. Mearsheimer シカゴ大学教授。大国間の力関係から国際関係を分析する「現実主義者(リアリスト)」の代表的理論家。米コーネル大で博士号。米ウエストポイントの陸軍士官学校を卒業し、空軍に5年間勤務した。1947年生まれ 』