対中国「リスク管理」新時代 「切り離し」論と一線

対中国「リスク管理」新時代 「切り離し」論と一線
G7後の岸田外交①de-risking(リスク低減)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA25CUU0V20C23A5000000/

『主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は中国との向き合い方を巡り新たな共通認識を形成する舞台となった。「切り離し」論と一線を引き、リスク管理を重視する考え方だ。覇権主義的な行動をとる中国へ実効性のある行動をとれるのか。サミット後の「岸田外交」の命題となる。

ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃来日で沸いた20日、中国を巡る新表現を盛る首脳宣言が採択された。「我々は『de-coupling―デカッ…

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『「我々は『de-coupling―デカップリング(切り離し)』や内向き志向にはならない。『de-risking―デリスキング(リスク低減)』と多様化が必要だ」

安全保障分野で台湾有事を抑止する意味合いを持つ「台湾海峡の平和と安定の重要性」は従来通り、明記した。安全保障面で中国を抑止するが、自国の経済的利益も追求していく――。書きぶりから浮かびあがるのは各国のこんな思惑だ。

日本政府関係者によると、文言を主導したのはウクライナ侵攻後、脱ロシア依存で苦しむ欧州連合(EU)だという。

口火を切ったのはフォンデアライエン欧州委員長だ。訪中直前の3月に「中国の切り離しは不可能で欧州の利益にもならない。焦点を当てるのは『デリスキング』だ」と演説で訴えた。

米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)も4月に「米中経済の『デカップリング』を求めてはいない」と続いた。大事なのはリスク軽減に向けて強靱(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)を築くことにあると説いた。

こうした姿勢は対中政策を厳格にしたトランプ前政権時代の米国とは異なる。当時は華為技術(ファーウェイ)などへの規制を強め、米中貿易戦争の様相を呈した。デカップリングもやむを得ないという強硬姿勢があった。

ロシアによるウクライナの侵攻が長期化すると、各国は困難さも認識するようになった。欧州はエネルギーの脱ロシア化を進めたものの、インフレや石炭への回帰といった副作用が生じた。米国でも共和党などに「支援疲れ」が表面化する。

経済が甚大な影響を受けるデカップリングを実行に移せば、各国は国内世論の反発にも直面しかねない。中国は名目国内総生産(GDP)でロシアの8倍ほどで、各国の依存度は大きい。より現実的な中国への向き合い方が必要との認識が広がっていた。

そこで急浮上したのが「デリスキング」だ。

首脳宣言はまず「我々の政策方針は中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩、発展を妨げようともしていない」と経済活動を認めた。

そのうえで経済安全保障を「経済的な脆弱性の武器化への防御」と位置づけた。半導体やレアアース(希土類)などの重要物資に絞った供給網を分散してリスク低減をはかる方針を明記した。

日米は主導して中国当局による現地企業への圧力にも照準をあわせた。「中国の非市場的政策と慣行がもたらす課題に対処する。不当な技術移転やデータ開示などの悪意ある慣行に対抗する」と記述した。

この路線は新興・途上国の「グローバルサウス」からも共感を得た。事前調整で経済活動を継続する路線に異論を唱える国はなかった。

一方、実効性を疑問視する声もある。中国はレアアースといった重要鉱物などを使い経済を外交・軍事の手段とするからだ。東大の佐橋亮准教授は「経済的威圧をされたときに確実に報復するというメッセージを出さないと抑止は成立しない」と危惧する。

G7前にはフランスのマクロン大統領が台湾有事を巡り「米国に追随しない」と発言するなど、中国を巡る米国との温度差も浮き彫りとなった。佐橋氏は「抑えめのメッセージとなれば、逆に中国リスクが増す可能性すらある」とも提起した。

7年ぶりの日本開催のサミット最大のテーマはアジア情勢――。関係者はこう口をそろえる。新たなG7合意をアジアの安定に結びつけられるか。「建設的かつ安定的な関係」を掲げた岸田外交の真価はこれから問われる。(随時掲載)

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察デカップリングとデリスキングのどこが違うのか。そもそも完全なデカップリングがあり得ないことについて、政治とビジネスにおいてコンセンサスを得られていた。ハイテク技術を中心とする部分的なデカップリングをデリスキングと定義するならば、わざわざこの造語を作る必要はなかろう。デリスキングにおいてハイテク技術のデカップリングはもう必要がないというなら、それでは、局面が違ってくる。実態は明らかに違う。したがって、政治家は造語でごまかすのがうまい人たちだが、問題の本質をみないといけない。問題の本質とはなにか。価値観を共有できないため、信頼関係が完全に崩れてしまったことである
2023年5月29日 7:54 (2023年5月29日 8:06更新)
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梶原誠
日本経済新聞社 本社コメンテーター
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ひとこと解説 金融市場関係者にとってデリスキングはなじみのある用語です。「リスク・オフ」とも言い、金融危機などに備えて投資先をリスクの高い新興国から安全資産の米国や先進国に移す戦略です。でもこの結果、デカップリングになるのも事実。マネーは新興国から米国などに戻るわけですから。G7の外交・対外経済政策も同じです。「その結果はやはりデカップリングであり、世界経済のリスクであり続けるのではないか」。市場関係者の多くは警戒を解きません。
2023年5月29日 7:17 (2023年5月29日 7:34更新) 』