EU、エンジン車容認で合意 合成燃料限定で35年以降も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27BN30X20C23A3000000/


『【この記事のポイント】
・2035年以降、エンジン車を全く認めない方針を転換
・水素とCO2でつくる合成燃料に限り利用可能
・普及にはコストや技術に課題が残る
【ブリュッセル=辻隆史】欧州連合(EU)は28日のエネルギー相理事会で、2035年にゼロエミッション車以外の販売を原則禁じることで正式に合意した。内燃機関(エンジン)車の新車販売を全て認めない当初案を修正し、温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料の利用に限り販売を認める。
【関連記事】独運輸相「技術的に中立な解決策」 EUがエンジン車容認
自動車業界の主張を受けたドイツ政府の意見を踏まえてエンジン車の部分容認に方針転換した。EUは今後、合成燃料の利用に向けた制度設計に乗り出すが、燃料の基準や利用条件などを巡って難航する可能性もある。一方でEUはバイオ燃料を利用した車については35年以降の販売を認めない方針だ。
エンジン車の販売禁止は昨秋に欧州理事会と欧州議会、欧州委員会が合意に達した。その後、フォルクスワーゲン(VW)など自動車大手を抱えるドイツが合成燃料の容認を強く主張し、内容の修正を迫られた。
EUは50年までに域内の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる。電気自動車(EV)への移行を進めるための目玉政策に例外を設け、エンジン車が併存する形となった。最終合意の手前でこれまでの協議内容を覆したドイツへの他国の反発は強く、今後の他の政策でのあつれきにつながるおそれもある。
EU関係者は28日「EVへの移行をめざすEUの基本方針は変わらない。多くの自動車メーカーはEVを選んでいる」と語り、合成燃料を利用した車の販売は将来も一部にとどまるとの見方を示した。
別の関係者は「合成燃料のみで車を走らせる仕組みをつくるには技術的な挑戦がいる」と述べ、関連産業全体の技術革新が必要になると指摘した。
合成燃料は二酸化炭素(CO2)と再生可能エネルギーによる電気分解で得た水素からつくる。ガソリンと成分は同じだが、現状では生産コストが高く、乗用車向けで商用化されるかは見通せない。
自動車メーカーではVWグループ傘下のポルシェが昨年末、チリで合成燃料の生産工場を稼働させた。日本のトヨタ自動車やホンダなども研究に取り組むが、コスト面などの課題は多い。
日本の経済産業省の試算では、再生可能エネルギーが安い海外で製造すると1リットルあたり約300円、国内だと約700円でガソリン価格の2〜5倍に相当する。
独ポツダム気候影響研究所の調査では、35年までに世界で計画されている合成燃料の工場は60カ所にとどまる。航空や船舶など早期の電動化が難しい移動手段で優先的に使われ、乗用車向けの供給量は限られるとの分析もある。
【関連記事】
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NIKKEI Mobility
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深尾三四郎
伊藤忠総研 上席主任研究員
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ひとこと解説
車産業における競争力の源泉はエンジン性能から再生可能エネルギーの調達力へ移行する。
車メーカーで合成燃料の容認を歓迎しているのは、高コストの合成燃料を許容できる富裕層を客にしたポルシェとフェラーリ。当理事会でドイツに同調して反対票を投じたのはポーランドだけで、イタリアは反対という事前予想に反して棄権に回った。脱エンジンに関しては小さな逃げ道を設けたが、脱炭素の基本方針に変化はない。合成燃料で恩恵を受けるスーパーカーの台数たるや微々たるもの。欧州にとって地の利である再エネを普及させて脱炭素化を推し進めることをベースにした”2035 ICE BAN”が正式決定したという事実の重さに目を向けるべき。
2023年3月28日 22:50
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中西孝樹
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
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方針が覆ったというより、既定路線の感が強いです。ただ、貴族が駆るフェラーリやポルシェはともかく、庶民の自家用車にe-Fuelが普及できるか否かは不透明です。CO2を再利用し燃焼段階ではカーボンゼロですが、NOxなどの排ガスの課題が残ります。日本にとって世界でパワーユニットの選択肢が残ることは朗報ながら、再エネ由来の水素を合成するe-Fuelとなると、コストは高く日本に十分なリソースがあるとは言えません。ドイツは国家プロジェクトとしてe-Fuelを推進し、シーメンスとポルシェはチリで巨大なハルオニプロジェクトを動かしています。年産5.5億リッターをコスト2ユーロで生産する壮大なプロジェクトです。
2023年3月28日 22:19
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赤川省吾
日本経済新聞社 欧州総局長
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ひとこと解説
ドイツ内政がEUの産業政策を揺さぶりました。ドイツ連立与党の一角の中道政党FDPが合成燃料にこだわり、それが採用されました。FDPは医師や弁護士、中小企業経営者などの高所得者を支持基盤とする政党。高価格の合成燃料でも払える層(ポルシェなどのオーナー)を意識した露骨な有権者対策といえます。
この件が示すものは2つ
①ドイツの中堅政党がEU全体の動きを左右するほど域内ではドイツが突出した力。
②一部高級車を除けばEU内のEV化の流れは変わらず。「内燃機関の原則禁止(ドイツ公共放送ARD)」が改めて鮮明に。
ガソリン車の時代はもう終わり。日本の自動車メーカーもEV化で遅れるべきではありません
2023年3月29日 1:13 』