中国の一撃、米国の中東回帰促す

中国の一撃、米国の中東回帰促す デーブ・シャルマ氏
元駐イスラエル豪州大使
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD204XZ0Q3A320C2000000/

『イランとサウジアラビアの外交正常化を中国が仲介したことは予期せぬ一撃であり、中東に新しい権力秩序をもたらした。

米国は10年以上、中東における安全保障と外交の負担を減らしてきた。中国と競争するため、アジアにより多くの資源を集中するためだ。今回、中国が中東で存在感を高めたことで、米国のアジア重視政策は複雑になる。

サウジとイランの外交正常化は双方にとって百八十度の方針転換だ。中東における主導権争い…

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『外交正常化の動きは、両国の戦略や相対的な立場の見直しを反映しているようにみえる。どちらも競争のコストが高くなりすぎたことを理解するに至った。

Dave Sharma 豪ディートン大修士(国際関係論)。豪議会の外交・援助合同小委員会の委員長、首相府の主席外交顧問を歴任

サウジは正常化により、イランが石油施設へのさらなる攻撃を停止するなどの約束をとりつけた。またムハンマド皇太子の下、中東の重要なプレーヤーとしての立場を固めることもできた。皇太子にとって、イランとの合意は米国に対して自らの影響力を高めることにつながる。

イランはサウジとの関係改善によって投資格付けが向上し、経済的利益につながることを期待している。イランは通貨安やインフレによる生活費の上昇、反政府デモの拡大に苦しんでおり、外交・経済面で一息つく余裕ができる。

中国は今回の合意実現に向けて周到な外交面での投資を行った。習近平(シー・ジンピン)国家主席は22年12月に中東を訪問し、湾岸諸国とイランとの首脳会議を提案。今年2月にはイランのライシ大統領を北京に迎えた。中国は今回の合意により、米国だけが世界の和平調停を独占しているわけではないと威信を示した。エネルギーを依存する地域の紛争リスクの低下は直接の国益にもなる。

イスラエルにとっては、今回の合意は大きな後退だ。サウジは湾岸諸国の中で最も声高にイランの封じ込めを呼びかけてきた。関係修復の動きに小国が追随するのは確実で、イスラエルが目指すイラン孤立のための地域連合に亀裂が生じる。イスラエルはイランの核開発に対抗する努力を強めなければならず、長年追求してきたサウジとの国交正常化の可能性は低くなった。

1956年のスエズ危機以来、米国は中東における不可欠なアクターだった。しかし今回の合意により権力の序列に変化が生じている。米国はアジア重視政策により、中東問題の解決は中東自身に委ねようとしていた。

安易な願い事はしない方がいいということだ。中国が米国の間隙を突いたことで、中東は米中間のグローバル競争の一部になった。米国が中東から手を引こうとしても、再び引き戻される場合がある。今回も同じだろう。』

『イスラエルがカギ握る

2013年9月、当時のオバマ米大統領はシリア内戦をめぐる演説で、「米国は世界の警察官ではない」と語った。その後、外交や安全保障政策の軸足を中東からアジアに移す動きは共和党のトランプ政権になっても変わらなかった。安保戦略のアジアシフトは中国を念頭に置いたものだが、中東に生じた空白をその中国に突かれたのは皮肉な話だ。

米国が今後中東に戻ってくることがあるとすれば、カギを握るのはイスラエルではないか。シャルマ氏が指摘するように、イスラエルにとってイランは最大の仮想敵だ。外交正常化の動きにより、イラン包囲網が緩む事態は看過できない。戦略の見直しは不可避だろう。イスラエルの次の動き次第で、同盟国である米国は中東に引き戻されることになりかねない。

(編集委員 松尾博文)』