FRB、物価と金融不安抑制に苦慮 米銀債券含み損80兆円

FRB、物価と金融不安抑制に苦慮 米銀債券含み損80兆円
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『【ニューヨーク=斉藤雄太】米連邦準備理事会(FRB)が過去1年間で計4.75%の急速利上げに動き、金融システムにきしみが生じている。預金の流出と債券の運用損失拡大で米銀シリコンバレーバンク(SVB)などが破綻し、中堅銀行の経営不安が収まらない。インフレ抑制と金融安定のバランスにFRBは苦慮している。

「SVBは流動性と金利変動に大きなリスクを抱えていた。固有の問題で、銀行システム全体の弱さから来…

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『固有の問題で、銀行システム全体の弱さから来るものではない」。FRBのパウエル議長は22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でこう強調し不安払拭につとめた。
それでも、流出しやすい大口預金が多いといったSVBに似た構造を持つ銀行に対して、投資家や預金者は厳しい目を向け続けている。

銀行不安の引き金となったのはFRBの急速な利上げで膨らんだ債券の含み損だ。2022年中の政策金利の引き上げは4.25%と歴史的なペースとなり、米国債などの利回りは大きく上昇(価格は下落)した。

米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米金融機関全体の債券の含み損は22年末時点で6204億ドル(約80兆円)と1年前の79億ドルから急拡大した。1%の利上げをするごとに、1400億ドルずつ含み損が膨らんだ計算だ。22年末の米金融機関全体の自己資本は約2.2兆ドルで、含み損はその約3割に相当する。

FRBは21年終盤までインフレは「一過性」と見誤り、22年に遅れを取り戻すように急ピッチで利上げした。利上げペースが緩やかであれば、銀行は資産や負債の入れ替えなどで対応できる。速すぎれば後手に回り、含み損を抱えやすい。低金利に慣れきって金利上昇リスクへの備えが甘かった銀行が直撃を受けた。

満期保有目的の債券の含み損は、自己資本から差し引かなくてよい。ただ、SVBのように資金繰りに窮した銀行が債券を無理に売ると損失が表面化してしまう。米国の国内ルールに準拠する地銀では、満期保有以外の債券でも含み損を反映せず、処理が遅れている銀行もあるとみられる。

SVB破綻からまもなく2週間。銀行の資金繰りを巡る緊張はなお強い。

FRBに預金を持つ金融機関同士が短期資金を融通するフェデラルファンド市場では、同行の破綻後に1日の取引額が1000億ドル未満に落ち込んだ。資金の出し手となる銀行が信用不安のなかで資金運用に慎重になっている。

米西部カリフォルニア州地盤の中堅行パシフィック・ウェスタン・バンクは金策に奔走している。22日、米投資会社アトラスSPパートナーズから資産担保型の融資で14億ドルを調達したと明らかにした。SVBの破綻後に預金引き出しが加速し、昨年末から全体の2割の預金が減った。

資金繰りに窮した銀行が含み損状態の債券を無理に売る必要がないよう、FRBは額面で評価した国債などを担保に銀行に資金を貸し出す仕組みを設けた。巨額の含み損がすぐに実現損になり銀行の資本を毀損するリスクは低下しているが、銀行の市場運用の制約になっている状況だ。

パウエル議長は22日の会見で「預金の取り付けのスピードは前例のないものだった。規制や監督を変える必要があることを示している」と語った。インフレ対応の出遅れに加え、金融システムの脆弱性への評価や対策が不十分だったことで、FRBへの風当たりはますます強まっている。

米当局は預金保護についても対応が難しくなっている。

22日の米株式市場ではパシフィック・ウェスタンの持ち株会社の株価が前日比17%安、ファースト・リパブリック・バンク株が15%安と銀行株が軒並み売られた。

きっかけは同日の米上院小委員会でのイエレン財務長官の発言だ。現在は1口座あたり25万ドルを上限とする預金保険の保護対象の拡大を「検討していない」と語り、預金流出不安が再燃した。

米財務省などはSVBと米シグネチャー・バンクの破綻対応で預金の全額保護を打ち出した。イエレン氏は他の小規模な金融機関でも深刻な預金流出が起きれば、必要に応じて全額保護を適用する可能性があると説明してきた。だがモラルハザードにもつながる一律の保護対象拡大には慎重で、預金を巡る不安がくすぶり続けている。

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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分析・考察 一週間の米国出張から帰国しました。金融市場への見方は、株式市場、債券市場、オルタナティブ市場、実業界等、その人物がどこで活躍しているかで異なることを感じました。

証券化商品を一緒に組成してきた長年の友人は、金融危機では金融の常識がチャレンジされるが今回は預金の定義がその対象になったと指摘。

従来から預入期間に定めがある一方、ある程度の期間はそれ以上滞留し銀行の資金調達手段になると信じられてきた預金。テック象徴の地を震源地とし、テックに精通した預金者がテック速度で連携して動いたことで預金の常識が破壊されたと指摘。

米国の金融混乱は想像以上にデフレ効果をもつものになるのではないかと感じた出張でした。
2023年3月24日 5:50 』