[FT]オーストラリア、輸出好調 中国の制裁限定的で

[FT]オーストラリア、輸出好調 中国の制裁限定的で
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『中国が経済制裁として2020年に導入したオーストラリア産品の輸入規制が思わぬ恩恵をもたらしている。資源国である豪州が他の市場に軸足を移さざるを得なくなるなか、最新の経済統計で輸出の活況が明らかになった。

鉄鉱石はオーストラリアの主要な対中国向けの輸出品目だ=ロイター

中国が豪州産の鉄鉱石や羊毛、天然ガスなどの重要品目に依存していることも、豪州の貿易収支改善につながっている。これらの品目は新関税の適用を免れており、需要の高まりで売り上げが伸びている。

2年前、豪中間の政治的緊張が高まるなかで中国が豪州からの一連の輸入品に懲罰的関税や規制を導入した当時、豪州の長期に及ぶ経済成長は継続が危ぶまれた。

豪州のモリソン首相(当時)が新型コロナウイルスの発生源に関する調査をするよう求めた後に導入されたこの措置は、豪経済の強靱(きょうじん)さに打撃を与える恐れがあった。

豪シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)によると、豪州の輸出に占める中国向けの割合は07年のわずか14%に対し、21年は42%以上に達した。制裁発動後も、鉄鉱石などの鉱物や化石燃料、商品の需要が急増したという。

ASPIのデビッド・ウレン上級研究員は「オーストラリアが単一の市場にこれほど依存したのは1938年以来のことで、当時の相手は『母国』英国だった」と指摘する。豪州は歴史上初めて、最大の貿易相手国が敵対国になった状況に対処しているという。

制裁の影響受けた品目も

その一方、制裁の犠牲となったのが、青島ビールを製造する中国の酒造業者に大麦を供給する農家、牛肉生産者、ロブスター業界などだ。また、中国の消費者にプレミアム価格で販売する高級ワインメーカーや、製品を積んだ船が中国の沖合で何カ月間も足止めを食らった石炭生産者も打撃を受けた。

制裁発動から2年がたち、変化が起きていることは明らかだ。オーストラリア統計局のデータによると、豪州の輸出に占める中国の割合は8月までに29.5%へ低下し、2015年10月以降で初めて30%の大台を割り込んだ。輸入に占める中国の割合も、21年の30%に対し、9月までの3カ月間で26%に縮小している。

輸出額は減少しているが、その一因は豪州最大の輸出品である鉄鉱石の価格下落だ。中国の鉄鉱石需要は、豪英BHPグループや英豪リオティント、豪フォーテスキュー・メタルズ・グループといった豪州を拠点とする資源大手の追い風となった。だが、他のアジア市場との貿易も活発化している。伝統的な貿易相手国である日本を除くと、現在は韓国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が豪州の輸出の3分の1以上を占める。

豪州の22年4~6月期の貿易黒字は、430億豪ドル(約4兆1000億円)に達した。好調な輸出や石炭価格の高騰がけん引した。

豪メルボルン大学のマイケル・ウェスリー国際副学長代理は「制裁は機能していない。いささか皮肉なことに、豪経済は中国の需要に支えられて好調を維持している」と語った。
「中国経済は鉄鉱石と切っても切り離せない。同国にとっては悩ましい状況だ」という。豪シンクタンクのローウィー研究所によると、豪州は21年に中国へ1750億豪ドル相当の鉄鉱石を輸出した。

高級ワインブランドは独自路線で中国販売

一方、収益性の高い中国市場で存在感を発揮し続けられている豪企業もある。世界有数のワイン生産会社トレジャリー・ワイン・エステーツ(TWE)は、豪州産ワインに175%の関税が課されたことで大打撃を受けた。同社のドル箱市場で高級ブランド「ペンフォールズ」の売り上げが吹き飛んだ。

その後の2年間、TWEはシンガポール、香港、台湾でペンフォールズの売り上げを伸ばしたが、中国本土市場をあきらめたわけではない。フランス製ペンフォールズの中国向け輸出を開始し、現在は寧夏回族自治区や雲南省産のブドウを使用した中国版ペンフォールズを発売した。

TWEのティム・フォード最高経営責任者(CEO)は、豪中関係の貿易と政治の側面は「完全に切り離されている」とし、「当社は関税が課された日以来、(中国市場から)撤退することはないと言ってきた」と述べた。

もう一つの例は、メルボルン郊外のダンデノンを拠点とする乳児用粉ミルクメーカーのバブズだ。同社は08年以来、製品の売れ行きが好調な中国への大規模な進出で利益を得ている。

バブズのデニス・リム会長は、同社製品は「必需品」であるため、輸入を禁止したり制裁を適用したりすれば、中国国内に予期せぬ影響が及んでいたとの考えを示した。「ロブスターを禁止することはあっても、乳児用粉ミルクを禁止することはあり得ない」という。
対中依存続き今後影響も

豪州のファレル貿易・観光相は10月、「貿易を阻む障壁」について話し合うため、豪政府が中国に和解を申し入れたことを明らかにした。ただ、足元の対立によって豪州が「中国にすべてを託していた」ことが示されたとしている。

地政学的関係が悪化し続けた場合、豪州が中国からさらなる仕打ちを受け損害を被る恐れはまだ残る。ローウィー研究所の報告書では、豪州の石炭産業は中国の銀行に資金繰りを依存していると指摘されている。

同研究所のリチャード・マクレガー上級研究員(東アジア担当)は、豪経済の回復力は心強いが、長期的な見通しはそれほど明るくないかもしれないとの見解を示した。

「米中間で続く地政学的な対立や、米国の強力な同盟国というオーストラリアの立場を踏まえ、豪政府は中国が何らかの形で懲罰的な貿易措置を継続すると想定しておくべきだ」と主張する。

By Nic Fildes

(2022年10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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