コラム:「国際金融のトリレンマ」からみた円安、150円目指す動き濃厚

コラム:「国際金融のトリレンマ」からみた円安、150円目指す動き濃厚=内田稔氏
https://jp.reuters.com/article/column-minori-uchida-idJPKBN2R907P

 ※ なるほど、この局面で、「トリレンマ理論」の有用性を検証してみるのか…。

 ※ 興味深い話し、ではある…。

 ※ しかし、まあ、理論はあくまで理論でしかない…。

 ※ 学者先生の理論の「有用性」が「実証」されたところで、世界各国の、腹をすかせて憤っている民衆の「怒り」が解消されるものでもない…。

 ※ 「学説よりも、今日のパンを!今日の飯(メシ)を!」というのが、正直なところだろう…。

『[14日 ロイター] – 予想を上回った9月の米消費者物価指数(CPI)を受けてドルが全面高となる中、13日のNY市場でドル/円相場も1990年8月以来の高値となる147.66円を付けた。以下では、ドルと円の状況をそれぞれ整理し、改めてドル/円相場を展望する。

<破壊的なドル高リスクの顕在化>

国際決済銀行(BIS)が算出する実質実効為替レート(Narrow)でみると、ドルはプラザ合意のあった1985年以来、37年ぶりの高値圏に位置している。ドルは高金利通貨であるだけでなく、原油・石油関連製品の純輸出国であり、資源国通貨の側面も併せ持つ。

世界的なインフレを前に、取引需要や予備的需要といった基軸通貨固有の増価圧力も加わっている可能性が高く、この点は6月22日付のコラム、「破壊的なドル高の予兆、円売り加速のシナリオ」で指摘した。

また、10月12日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によれば、引き締めが足りない場合の方が、引き締め過ぎた場合よりもコストがかさむとの考えで、多くの参加者が一致していたことも示された。

予想を上回った9月の米雇用統計やCPIに照らせば、政策金利のピークが現在の市場の織り込みを超えて5%台に達する可能性も高まりつつある。もちろん、米経済は徐々に減速に向かうとみられ、いずれインフレの収束とともに利上げ打ち止め観測が台頭しよう。それがリスク選好地合いへと通じれば、ドルの反落も見込まれる。

ただ、その場合も、相対的にみて米国の金利が高い限り、ドルが調達通貨になり下がって、下落トレンド入りするわけではないだろう。

そのほか、ドル高が新興国の通貨安などを通じて、金融市場の無秩序な不安定化を強める場面にも警戒を要する。米国が各国と協調してドル売り介入に踏み出す可能性がゼロではないからだ。

とは言え、イエレン米財務長官は今のところ、市場の動きを容認する構えを崩していない。ドル高のクライマックスは先のこととなりそうで、ドル高基調がまだ続くとみるのが自然だ。

<見込みにくい円の反発>

これに対し、円は依然として主要通貨の中で最大の対ドル下落率を記録している。改めて言うまでもなく、日銀による異次元緩和の長期化見通しと拡大傾向にある貿易赤字が円安の主因だ。

このうち、金融政策について言えば、来年4月に黒田東彦日銀総裁の任期を迎える。ただ、デフレ脱却に向けて政府と交わした2013年1月の共同声明、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」が残る限り、緩和路線が大きく変わるとは考えにくい。

貿易赤字に関しても、原油価格が一時に比べて値下がりしたが、今年の赤字額は20兆円に迫る勢いだ。

その点、訪日外国人の受け入れ拡大に伴い、旅行収支の黒字拡大による円安抑止力が期待されている。しかし、訪日外国人の数が過去最高を記録した2019年でさえ、旅行収支の黒字は通年で約2.7兆円と、今年8月の貿易赤字を埋め合わせるのがやっとだ。

未曽有の円安とあって、日本全体がバーゲンセールにさらされており、インバウンド消費は大いに期待される。ただ、旅行収支改善が円安に歯止めをかける救世主になるかと言えば「役者の器が違う」といったところだろう。円の反転を期待できる環境にもほど遠いようだ。

<円買い介入、常に臨戦態勢へ>

こうした状況下、財務省・日銀による円買い介入がいつ行われても不思議ではない。しかし、鈴木俊一財務相は13日、特定の水準ではなく、ボラティリティに注目していると改めて発言した。これは9月22日、米財務省が日本の単独介入に対し、ボラティリティーを下げるための行動として早々と理解を示したことと合致する。アメリカのスタンスは明白だ。

例えば、2011年3月の東日本大震災の後、ドル/円が84円台から76円台まで急落した場面では協調介入に参加した。一方で、80円割れで日本が実施した単独での円売り介入については、その年の為替報告書で、支持しないと明記。米国が容認するのは、無秩序な場面での実施に限られる。

今後についても、投機的かつ急激な円安に対する介入は容認される一方、ドル高主導によるドル/円上昇に対する介入がいつまでも理解を得られるわけではないだろう。こうした見方が市場で強まるに連れて、介入による円安抑止効果も逓減していくおそれが強い。

<円安が止まる条件>

今後のドル/円相場を展望する上で、国際金融の「トリレンマ理論」が参考になる。

トリレンマとは、3つのことが同時には成立しないことを意味する言葉だ。そこから派生した国際金融のトリレンマとは、1)為替相場の安定、2)金融政策の独立性、3)自由な資本移動──の3つを同時に満たすマクロ経済的な枠組みや制度は存在せず、どれか1つを放棄しなければならないことを指す。

例えば、先進国の多くは、金融政策の独立性と自由な資本移動を確保しているが、為替相場は時に大きく変動する。

次に、ドルペッグ制を採用する多くの中東諸国やカレンシーボード制を採用する香港などは、対米ドルでの為替相場の安定と自由な資本移動を得る代わりに、金融政策では米国に追従せざるを得ない。金利差が生じては為替相場が変動するからだ。域内の為替相場を固定する一方、金融政策を欧州中央銀行(ECB)に委ねるユーロ圏もこれにあたる。

最後は中国をはじめ、為替相場の値動きに一定の歯止めをかけながら、金融政策の独立性も確保している多くの新興国だ。彼らは、その代わりに資本移動に今なお多くの規制を残しており、これが人民元の真の国際化を阻んでいる。

<日本の選択肢は相場安定の放棄>

この枠組みで考えると、ドル/円上昇に歯止めをかける選択肢の1つは、金融政策の独立性を放棄することだ。このケースでは、米国に倣って利上げに踏み出さなければならない。

もう1つは新興国と同じく資本移動に制限を加えることだ。例えば、円安圧力つながる輸入や対外的な投資への制限がこれにあたる。もっとも、日本にとって、どちらの選択肢も非現実的であることは明らかだ。

そうであれば、消去法で考えて為替相場の安定を放棄する以外、日本には選択肢がない。これは、過去最大規模の円買い介入の効果が、わずか14営業日で消えたことで証明された格好とも言えよう。

もちろん、このほかにも世界のインフレが収束し、多くの中央銀行が金融緩和へかじを切ること、原油価格が急落し、日本の貿易赤字が解消することなども円の反転を促すが、どちらも日本に打てる手はない。

こうして考えると、外部環境に変化がみられない限り、ドル/円はまだ、高値を目指す危険性が高い。率直に言えば、150円で止まるのかどうか、極めて疑わしくなってきた。
編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*内田稔氏は、高千穂大学商学部准教授、ALCOLAB外国為替アナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、経済学修士(京都産業大学)。

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