ウクライナ戦争に対するインドの〝中立〟は動くのか

ウクライナ戦争に対するインドの〝中立〟は動くのか
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26606

『4月27日付の米フォーリン・アフェアーズ誌で、シャシ・タルール元国連事務次長が、インドのモディ政権がウクライナ侵攻について口を濁し、いずれの側に立つのかを明言しないことを批判する論文を書いている。

 今回、ウクライナ問題に関するインドの言動には失望させられる。バイデン大統領を始めとする西側首脳の働き掛けの効果も全くないようである。3月の岸田文雄首相のインド訪問に際する共同声明も、いずれの側に立つかを明確にすることを拒否するインドの態度を反映したものに違いないが、ウクライナ危機への言及は水臭いものである。他方で、ロシアのラブロフ外相は、インドの中立の立場を評価すると言明している。

 インドの態度については幾つか説明があるが、インドがその武器をロシアに大きく依存しているという実際的な理由が指摘されている。恐らく現有の武器の70%あるいは80%がロシア起源のものと見られるので、単にS-400対空ミサイル・システムのような新規の武器調達だけでなく、部品と維持についてもロシアに頼っている。原子力潜水艦と極超高速クルーズ・ミサイルについてロシアの技術協力を得ているという事情にもある。

 中国の脅威に対抗する上でインドはロシアを必要としているとの見方もある。歴史的な事情を指摘する向きもある。国連でカシミール問題が議題とされることをロシアが何度か拒否権によって防いだことがある一方、インドはチェチェンやアブハジアの問題でロシアを非難する決議に反対票を投じたことがある。

 しかし、インドの態度はもう少し複雑のようでもある。4月1日、ニューデリーにおける英国のトラス外相との共同記者会見で、ジャイシャンカル外相はウクライナについてのインドの関心は、例えばその近接性の故にアフガニスタンよりも低いと述べた。』

『その意味は、ウクライナの問題は欧州の問題であり、西側は勝手にアフガニスタンをタリバンに渡して出て行きながら、今更ウクライナを心配せよと言う立場にあるのかということであろう。彼の議論はこの論説が引用しているメノン(シン元首相の安全保障補佐官)の論文に通じるものがある。メノンはウクライナ戦争が世界秩序を作り替える訳ではない、欧州は地政学上のドラマの主要舞台であるアジアのサイドショーに過ぎないと論じる。
どちらつかずの構えは変わらない

 アジアは米国と中国との間に挟まってその身の処し方に苦労することに変化はなく、ロシアの封じ込めに精力を削がれる欧州にアジアのジレンマに意味のある役割は期待し得ず、そうであれば、アジアに問題の構図とその処方箋を提示するについては繊細さを要するはずだと論じているようである。

 このようなインドの頑固で斜めに構え批判を気にする様子もない姿勢はすぐには変わらないのであろう。中国に対する抑止の観点から、インドを「クアッド」にも招き入れることとなったが、主要な国際問題についていずれの側に立つかの選択を伝統的に嫌がるという意味でインド自体は変わってはいないのかも知れない。しかし、この姿勢に問題のあることは、この論文でタルールが余すところなく指摘している。

 ロシアが信頼に足るパートナーであり続けるのかとの基本的な疑問がある。選択を避ける贅沢を何時までも続けることも出来ないのではないかと思われる。タルールが指摘するように、そのことは他国に選択を求める時になって自身に跳ね返ることになるであろう。』