インド最大野党、再建へ総裁選 解けぬガンジー家の呪縛
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD12APA0S2A910C2000000/
『インド最大野党の国民会議派(INC)は17日、総裁選を実施する。党勢の衰退に歯止めをかけ、2024年に控えるインド次期総選挙でモディ首相率いる与党インド人民党(BJP)の〝3連覇〟を阻止するため、批判の多い長年の「ネール・ガンジー家支配」から脱却し、党の再建を目指す新たなリーダーを選ぶのが目的だ。総裁選は改革派と目される下院議員のシャシ・タルール氏(66)と、ガンジー家に近いベテラン政治家のマリカルジュン・カルゲ氏(80)の一騎打ちとなったが、脱ガンジー家の狙いとは裏腹に党幹部らの支持をまとめたカルゲ氏が優位の情勢。選挙の結果は党分裂に発展する危険もはらんでいる。
相次ぐ与党への移籍、失われる党勢
国民会議派は、独立の父マハトマ・ガンジーや初代首相ジャワハルラル・ネールらが指導し、137年の歴史と全国約4000万人の党員を持つ。インド独立後、75年の歴史で50年以上にわたって政権を担ってきたが、14年総選挙で大敗し下野。各地の州議会選でも苦戦が続き、与党BJPの議員引き抜き工作もあって中部マドヤプラデシュ、南部カルナタカなどの重要州で相次ぎ政権の座から陥落。いまや州政権を担うのは連立も含めて29州のうち4州のみ。19年の下院選ではわずかに議席を増やし定数543議席の国会下院で52議席と踏みとどまったが、300議席を超えているBJPには大きく差をつけられたままだ。
有力議員の離党も相次ぐ。20年にはマハラジャ(藩王)の末裔(まつえい)ジョティラディティヤ・シンディア氏(51、現民間航空相)が、自派の州議会議員22人とともに離党し、BJPに電撃移籍している。選挙の監視を続けるインドの市民団体「民主改革協会(ADR)」によると、14年から21年にかけて177人もの国会・州議会議員が国民会議派を離党している。
総裁選、ガンジー家独裁批判がきっかけ
こうした求心力低下の背景には、党の「オーナー」であるネール・ガンジー家によるファミリー支配への強い反発がある。特にネール元首相のひ孫で「4代目」のラフル・ガンジー前総裁(52)は14年、19年の総選挙で陣頭指揮をとったがいずれも敗北。17年に党総裁に就任するが総選挙の大敗によって2年弱で引責辞任し、母親で故ラジブ・ガンジー元首相の妻ソニア・ガンジー氏(75)が「暫定総裁」として再登板している。ラフル氏はその後も党のリーダーと位置づけられているが、重要会合を欠席して突然海外で休養するなど、政治家としての資質を問われる場面も目立っていた。
ネール元首相のひ孫、国民会議派のラフル・ガンジー前総裁への批判は高まっているが…(9月、印西部グジャラート州アーメダバード市内で)=AP
今年8月末にはカシミール地方出身のベテラン政治家で保健・家族福祉相やジャム・カシミール州首相などを務めたグラム・ナビ・アザド前上院議員(73)が突然離党。「古参リーダーが排除され、ラフル氏とその取り巻きのせいで党内民主主義が崩壊している」などと党首脳部を厳しく批判する書簡をソニア氏に送った。
前回選挙で落選した国民会議派所属の前下院議員は「党の再建のためには、ガンジー家以外の指導者が必要」と強調する。特にガンジー家との親密度合いによって党人事が決まり、選挙での公認を巡るプロセスや女性・若手の登用に関しても党員からの不満が高まっている、という。
今回の総裁選は20年8月、元閣僚や州首相(県知事に相当)ら党の改革派幹部23人がソニア総裁に対し、党再建のための抜本的改革を要求する書簡を送ったことがきっかけ。党指導部は早期の総裁選実施を表明したが、コロナ禍で延期されていた。過去50年間で選挙によって総裁が決まったのはわずか2回。ガンジー家メンバー以外が総裁になるのは22年ぶりだ。
ソニア・ガンジー総裁㊧やラフル・ガンジー前総裁㊥など、ガンジー家の写真パネルが掲げられた国民会議派の集会(9月4日、ニューデリーで)=ロイター
総裁選の選挙人は党の各州支部幹部ら約9000人。開票結果は19日に発表される。選挙ではソニア氏らガンジー家の信任が厚い西部ラジャスタン州の首相のアショク・ゲーロト氏(71)が本命視されていたが、同氏の中央政界転出で自分たちの処遇悪化を心配する州議会議員の猛反対に遭って立候補を辞退。代わって国民会議派政権で鉄道相などを務めた前野党上院議員団長のカルゲ氏に白羽の矢が立った。これに元国連事務次長で外務担当国務相などを歴任したタルール下院議員が挑む構図だ。
優位に立つベテラン政治家
ガンジー家に近く、被差別カースト層に支持基盤を持つカルゲ氏にはソニア氏らの後押しがあるといわれる。党重鎮のほか、タルール氏と行動を共にしてきた改革派議員の一部もカルゲ氏の「推薦人」に名を連ねており、優位は揺るがない情勢だ。
これに対し国際派のインテリであるタルール氏はテレビ討論での強さやSNS(交流サイト)のフォロワー数の多さに定評があり、若者や都市住民に支持者が多いが、大組織の運営能力は未知数。キャンペーンでは「変化を望むなら私に投票してほしい」と呼びかけているものの、選挙人は地方幹部などのベテランが多いため苦戦は必至だ。
モディ首相が率いる与党BJPは、カルゲ氏について「ガンジー家の代理人にすぎない。リモートコントロールされた政治家だ」と盛んにSNSで発信しており、カルゲ氏が党総裁に就任した場合にはこうした批判をさらに強めそうだ。ガンジー家に忠実な政治家が再び党内での影響力を強めれば、改革派との対立が先鋭化し党の分裂を招く可能性もある。老舗巨大政党は、このまま衰退へと向かうのか――。今回の国民会議派総裁選はインドの政治にとっても大きな節目となりそうだ。
(山田剛)』