[FT]中国不動産不況、金融危機へ連鎖の構図
地方政府の不動産収入急減、傘下の融資平台にデフォルト懸念
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『ルーシー・ワンさんは、中国の不動産市場で徐々に広がる危機の真っただ中にいる。河南省鄭州市で建設中のマンションを購入したワンさんはかつて、そこでの新生活を夢見ていた。
中国恒大集団が海南省の人工島「海花島」に建てた高層住宅。当局が違法建築として39棟の取り壊し命令を出したとされる(1月7日撮影)=ロイター
ワンさんのような農村出身の若い女性にとって、25万元(約500万円)の頭金は大金だった。半分は両親に出してもらったが、それも家の畑で育てたジャガイモや小麦を売った収入からわずかな余りを何年もため続けて蓄えたお金だった。
全てが順調に見えた2021年10月、ワンさんが購入したマンションの建設が突然止まった。開発会社メイリン・インターナショナル・ハウスの代表者は、最初は工事が再開する時期についてのらりくらりとしていたが、やがてありえない言い訳をまくし立て始めた。
22年7月、希望はついえた。ワンさんらマンションの購入者は、地元の住宅局から購入代金が「不正利用」されたと伝えられた。「開発会社は信用できない」とワンさんは言う。
「人生を台なしにされた」
「スローモーションの金融危機」
ワンさんは、中国で深まりつつある不動産不況の犠牲者だ。国内総生産(GDP)の約4分の1を占める不動産市場がここ10年で不調に陥り、そこから波及する影響が、世界2位の経済大国の成長に急ブレーキを掛けている。米調査会社ローディアム・グループの香港駐在パートナー、ローガン・ライト氏は、現在の状況を「スローモーションの金融危機」と呼ぶ。
中国江蘇省淮安市で開催された不動産フェアで物件情報を見る来場者(2018年10月7日撮影)。右肩上がりの不動産市況が崩れ、多くの中国人の人生設計が狂っている=ロイター
影響は中国の政治と経済の深部にまで広がりつつある。マンション販売の急減や開発会社によるデフォルト(債務不履行)の多発で特徴づけられる不動産危機として始まった異変は、今や地方政府レベルの金融危機に発展しつつある。
今月開催される中国共産党大会では、指導者、習近平(シー・ジンピン)国家主席の異例の続投が決まる見通しだ。この重要な時期に、数々の難しい選択が中国の政策立案者の前に立ちはだかっている。
世界金融危機以降、中国は投資主導の経済成長で世界をけん引してきた。その成長に大きな役割を果たしてきた全国に何千と存在する地方政府傘下の投資会社、融資平台が不動産不況で資金の枯渇やデフォルトの危機に直面しているとアナリストは指摘する。地方政府は長らく不動産開発会社に土地を売却した収入で予算を賄ってきた。
不動産を中心とした中国の経済成長モデルは、一国を変えただけでなく、10年以上にわたって世界の経済成長の最大の原動力だった。今、不動産市況が低迷し、地方政府の財政支出を支えた投資会社が息切れし、国家債務が膨らむ状況は、世界経済の成長エンジンの喪失を意味する。
広西チワン族自治区桂林で未完成のアパートに住む住民=ロイター
香港を本拠とし中国本土でも大きく事業を展開する恒生銀行のチーフエコノミスト、ダン・ワン氏は、中国経済は曲がり角に来たと述べる。「インフラと住宅建設に依存する旧来のモデルは実質的に終わった」
次に予想される展開は、融資平台が発行する国内債券が前例のない規模でデフォルトに陥る事態だとライト氏はみる。融資平台が債務不履行になれば「ルビコン川」を渡ったことを意味すると同氏は言う。
融資平台の債務1100兆円が不安定化
これまで、こうした債券は政府が暗黙のうちに保証しているとみなされてきた。融資平台が債券を発行して調達した資金は、道路や鉄道、発電所、空港、テーマパークなど様々なインフラの建設費を賄ってきた。その債務が不履行となれば、融資平台向けの7兆8000億ドル(約1100兆円)もの債務が不安定化し、すでに冷え込んでいる経済はさらに悪化する。
7兆8000億ドルという債務総額は、21年の中国のGDPの半分に近い。あるいは、ドイツのGDPの約2倍だ。
西側の自由経済圏では、金融危機は政府や投資家の不意を突いて突発的に起こることがある。だが、国家主導の中国経済では、中央政府が政治力や公的資金を投入して、状況の変化に対処するため、症状はよりゆっくりと進行する。そのため、表向き安定を装っていても、根底に深刻な問題が潜んでいることがあるとアナリストは警告する。
8月には主要都市の4分の3で住宅価格が下落した
中国経済の失速は既に世界に影響を及ぼしている。世界経済をけん引する中国の力は、22年のGDP成長率が低下したことですでに小さくなっているが、今後はさらに矮小(わいしょう)化するだろう。売り上げの伸びの多くを中国で稼いできた多国籍企業は売上高見通しの下方修正を迫られる可能性がある。
香港大学の陳志武教授(金融学)は「中国の成長モデルは終わった」と指摘する。同氏によれば、中国政府はここ数年、投資主導の経済成長を延命するために、不動産とインフラのブームを引き延ばしてきたという。
「だが、引き延ばしの余地は、もうほとんど残っていない」
3つのレッドライン
ワンさんの苦しみは、今の不動産不況の病根を示している。彼女は物件の完成前に代金の一部を支払う「プレセール」(事前販売制)でマンションを購入した。物件の売り上げが伸び続け、不動産価格も右肩上がりという局面では利益が期待できる投資でもあった。
プレセール方式では、購入者は頭金としてマンション価格の3割を支払うのが一般的だ。それから住宅ローンの毎月の返済が始まり、開発会社は建物の建築に取りかかる。全てが順調に進み、完成したアパートが引き渡される頃には、物件の価値が工事前より上がり、投資としても満足なものになるはずだった。
だが、複数の要因が重なって、この仕組みが狂った。
20年8月、負債を頼りに膨らむ不動産バブルに危機感を感じた中国政府は、負債比率のさらなる上昇を防ぐため、開発会社に対し「3つのレッドライン」を課した。この規制により、重い債務を抱えた開発会社が建設費を調達できず、プレセール済みのアパートを完成できなくなるケースが出てきた。
中国の大手不動産業者の過半数が「非常に高リスク」ないし無格付け
開発会社の資金が枯渇するのに伴い、一部のマンション建設現場で工事が止まった。今年になると、工事停滞に抗議して、全国で数十万人のアパート購入者が約100都市の300以上の開発会社に対して住宅ローンの支払いをボイコットした。
ワンさんもその一人だ。毎月3800元(約7万7000円)のローンの支払いを6月から止めたという。だが、彼女は、いずれにせよローンの支払いは難しくなっていただろうと言う。景気の悪化で、白酒の販売代理店としての仕事が打撃を受けているからだ。
「建設がうまくいくとは思えない」とワンさんは言う。「開発会社の幹部が最近、逮捕されたと聞いた」
経済へ波及の道筋
ワンさんのような体験は多くの中国人の現実であり、中国経済の大動脈に沿って広がり始めた不動産不況が人々にどのような損害を及ぼすかを如実に示している。
「不動産危機における次の段階では、不動産開発会社の損失が中国の金融システムに広がる」とライト氏は説明する。同氏は、不動産開発プロジェクトが失速している現状から、地方政府の債務危機、投資の減少、そして最終的に政府が緊急の救済措置に乗り出す可能性に至るまで、因果の連鎖を明快に予想してみせた。
そのような波及メカニズムはすでに動き出している。
深圳の不動産開発会社で融資の返済を求める人々。数十万人の住宅購入者が、行き詰まった建築プロジェクトの住宅ローン支払いをボイコットしている =ロイター
政府が不動産会社に課した「3つのレッドライン」の規制は、メイリン・インターナショナル・ハウスのアパート建設を棚上げにしただけではない。多くの不動産開発会社の資金繰りを悪化させ、開発会社が支払いを滞らせたドル建て債は8月時点で過去最高の総額314億ドルに上っている。また、開発会社は事業収入の急減にも直面している。公式の統計によれば、中国の住宅売上高は22年前半に3割近く減少し、6兆6000億元まで落ち込んだ。
だが、本当に深刻なのはその先だ。開発会社の収入が減り、新たな建設プロジェクトのための土地購入を大幅に減らさざるを得なくなった。こうした土地の売却から得られる収入は長らく地方財政の生命線であり、米格付け会社ムーディーズによれば近年は地方政府の歳入の4割程度を占めていた。その収入が減ったため、インフラ投資による経済成長が途切れ、地方政府が抱える膨大な債務の返済も困難になった。
この連鎖の影響は数字に表れている。公式の統計によれば、22年1〜8月に地方政府が得た土地の売却収入は前年同期比で28.5%減少、金額にして同1兆4000億元減った。年間に換算すると22年は21年の総額を2兆5000億元下回ることになるとライト氏は指摘する。
上海の金融データベース提供会社ウインドのデータによれば、この減少幅は、融資平台が23年7月末までに返済期限を迎える負債の総額4兆5000億元の半分以上に相当する。したがって、中国政府が巨額の救済措置を実施しなければ、地方政府は、その傘下に持つ数千もの融資平台のうち、相当な数が債務不履行に陥るという窮状に直面することになる。
融資平台の一部でデフォルトが発生した場合、融資平台の債務全般の信頼度が揺らぐ可能性があるというのが複数のアナリストの見方だ。ウインドのデータによると、融資平台全体の債務は2021年末に54兆元に上る。専門家らは、デフォルトが発生すると安全資産へ逃避しようとする動きが広がり、中国の金融機関は財政状態が悪い地方の融資平台の債券を敬遠するようになると予測している。
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、中国の地方政府が抱える歳入欠陥が今年、7兆5千億元(約152兆円)に上ると予測する。ここでもまた、財政状態は地方によって差が大きいが、広西省、福建省、雲南省、四川省などの地方で財政赤字への懸念が特に強い。
22年には地方政府の不動産販売収入が激減した
米国を拠点する「物言う株主(アクティビスト)」Jキャピタルの共同設立者であるアン・スティーブンソンーヤング氏は、融資平台の問題の一因は中国の国有企業の非効率性にあるとみている。
同氏は「融資平台は金利約6%の債務で資金を調達し、資本の利益率は1%程度」と推定する。「ほとんどの融資平台は地方政府からの補助金に頼っている。しかし、地方政府の土地売却収入が減り、補助金の多くが止まりつつある」
同氏によると「融資平台が資金繰りをどうするか」が大きな問題だという。
皮肉なことに、10年ほど前には、融資平台などの資金調達プラットフォームは中国経済の救世主とみられていた。2008年の世界金融危機の後、経済成長率が急激に落ち込むなかで、中国政府は地方政府に回復をけん引する役割を期待した。その意向を受け、融資平台が債券発行による投資ブームを起こし、中国経済を復興した。
だが今は、過剰に存在する融資平台(中国全土に約1万社あるとの推定もある)が、中国の経済に打撃をもたらしかねない存在として注目されている。
成長エンジンを失う世界
融資平台危機は、中国の不透明な政治経済のあり方に根ざしているとはいえ、その影響は世界に広がる可能性がある。
地方政府の脆弱さは他の構造的なマイナス要因と相まって、中国の経済成長を阻害している。世界銀行が今年9月に発表した東アジア・太平洋地域の新興国の経済見通しは、22年の中国の実質成長率が1990年以来初めて中国を除く同地域の成長率を下回ると予想している。
世界銀行は9月の見通しで、22年の中国の実質成長率を前回予想より下方修正し、2.8%とした。21年実績は8.1%だった。一方、中国を除く東アジア・太平洋地域の22年の成長率は5.3%を見込む(21年実績は2.6%)。
中国の今年の成長率は政府目標の半分にとどまる見込み
中国が直面する新しい現実は、世界経済の様相が劇的に変化していることを示す。中国の実質成長率は2000年から2009年までの10年間は年平均10・4%という驚異的な水準を記録した。2010年から2019年までの10年間は減速したとはいえ、年平均7・7%の成長を維持してきた。
今後の中国経済が22年の見通しのような状態にとどまれば、世界経済は繁栄をけん引する最も強力なエンジンを失うことになる。国際通貨基金(I M F)の調査によると、2013年から2018年にかけて世界の経済成長の28%程度は中国によるものだった。その割合は米国の2倍を上回る。
中国のセメント生産量は過去20年以上で最大の落ち込みを記録しており、世界の建設資材の生産量の減少につながっている。中国の巨大な不動産業界の危機が、中国の不動産業に依存して成長する他の業界に与える打撃の大きさを物語っている。世界セメント協会(W C A)が提供するデータによると、22年上期の世界のセメント生産量は前年同期比8%減少し、19億トンだった。
債務危機以外にも、いくつかの構造的な障害が中国の潜在的な成長力を押し下げている。人口の頭打ちと高齢化社会の急速な進行という2つの代表的な要因以外にも中期的に経済の活力をそぐ要素が複数存在する。
中国で事業を展開する多国籍企業や中国株に投資する内外の投資家の間では悲観的なムードが広がっており、中国国内で経済の先行きに懸念が強まっていることがうかがわれる。
在中国の欧州商工会議所は今月、イエルク・ブトケ同会議所会長によると「今までで最も暗い(見解を示す)報告書」を発表した。同会議所は「欧州企業が今まで通り(中国で)事業展開することを当然だと考えることはできない」と警告し、中国は「投資先としての魅力を急速に失いつつある」との見解を示した。
江蘇省常州市のビル建築現場。政府当局は不動産部門への支援策を発表したが、専門家は構造的な問題の解決策にはならないとみている=AP
欧州企業1700社以上が加盟する同会議所によれば、新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う中国の「ゼロコロナ」政策、同国の「債務危機」、不動産業界の瓦解、人口動態上の逆風、個人消費の失速といった要因が、中国に進出する欧州企業の事業環境を厳しくしているという。
報告書は「多くの企業が、中国事業を縮小して現地化し、隔離することを迫られている」と説明している。
中国外の投資家の間では、中国株式市場に対する数年前の熱狂は雲散霧消した。中国の投資銀行、華興資本(チャイナ・ルネサンス)のトレーダーで香港を拠点とするアンディ・メイナード氏は「世界の資産に投資する機関や個人にとって、中国株の保有はここ10年で最低水準になっていると思う」という。
同氏は「中国株は18年から21年まで寵児だったが、今ではどうしようもない。株価がそれを反映している」と説明する。「中国を含む地域で大規模な投資をしている米国の大手ヘッジファンドに聞くと、中国株のポジションを持っているところはまずない」
構造的な経済減速
しかし全体としては、中国政府が経済問題に対処するために講じ得る手立てはまだ残されているとアナリストらはみている。ここ数日間で不動産部門を支えるための一連の政策を発表し、香港市場に上場している中国の不動産会社株は値上がり、「ミニラリー」の様相を呈した。
同様に中国の政策当局は今年、インフラ投資を促進するための特別プロジェクト債を多数発行し、当初予定していた債券発行枠を6月までに使い切った。北京に拠点を置く調査会社、ガベカル・ドラゴノミクスによると、それ以降も合計2兆2千億人民元の追加インフラ投資支出が承認されたという。
ガベカル・ドラゴノミクスのトーマス・ゲイトリー氏は、これらの景気刺激策は不動産価格の下落ショックに対処することには役立っているが、中国の構造的な経済減速に対する(抜本的な)解決策ではないとみている。「中国の現在の経済状態は安定的な均衡状態にあるとは言えない」
実際、複数のアナリストは中国政府は10年前のような高度成長に戻ることを優先課題にしているようにはみえないと指摘する。習近平(シー・ジンピン)政権は富の創出や経済成長よりも安全保障や統制に重きを置いているようだという。
経済予測会社エノド・エコノミクスのチーフエコノミスト、ダイアナ・チョイレバ氏は「中国共産党も世界も、よくて5%の半分の水準で成長する中国経済がもたらす様々な構造的な変化と折り合いをつける必要がある」と提言する。
By James Kynge in London, Sun Yu in Beijing and Thomas Hale in Shanghai
(2022年10月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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