米国は南太平洋に「共感」示せ A・ブビング氏

米国は南太平洋に「共感」示せ A・ブビング氏
米アジア太平洋安全保障研究センター教授
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD031RS0T01C22A0000000/

『バイデン米大統領は9月29日、太平洋島しょ国の首脳を招いた初めての会議を開いた。トンガには「我々は小さな島だが偉大である」という格言があるが、米中対立のはざまにある国々の位置づけを的確に表現している。サミットに招待された国々のうち、人口が100万人を超えるのはパプアニューギニアだけだ。

サミットは米国による最近の働きかけの一環だ。7月にはハリス米副大統領が、島しょ国による太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議でオンライン出席した。

その際に米国はキリバスとトンガに初めて大使館を開設し、19年前に閉鎖したソロモン諸島の大使館を再開すると発表した。このような動きが活発化したのは、米国の懸念にかかわらず、4月にソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結したためだ。

Alexander L. Vuving 米テュレーン大を経て2008年から現所属。専門は大国間競争。独ヨハネス・グーテンベルク大博士(政治学)

オセアニアでは米中の非対称な競争が繰り広げられている。中国は2006年に島しょ国との経済発展協力フォーラムを発足させ、13年の第2回会合で同地域の同盟国を優遇する20億ドル(約2900億円)の融資を約束した。そして19年、中国はキリバスやソロモン諸島を台湾と断交させることに成功した。この間、米高官は12年のPIF首脳会議に当時のクリントン国務長官が参加した以外、ほとんど姿を見せなかった。

米中の太平洋における競争が非対称なのは、「重要な問題は安全保障ではなく経済」「オーストラリアとニュージーランドにこの地域で主導権を握ってほしい」といった米国の考え方を反映しているのかもしれない。

ところがこうした前提は、中国とソロモン諸島の安保協定によってことごとく覆された。リークされた協定文は、中国がソロモン諸島で相当な軍事的プレゼンスを維持できることを示唆していた。ソロモン諸島は過去数十年にわたり豪州に安全保障を頼ってきた。

南太平洋での米中の競争はますます注目を集めている。中国のアプローチは、その経済的優位と外交文化を反映している。中国企業は長年にわたって現地の政策立案者と関係を築き、バヌアツやサモアで港の改修や建設を受注した。契約の規模は各国のニーズと比べてあまりにも大きく、中国の利益を意図したものにみえた。

このように相手の頼み事を聞いて見返りを求めるのが、中国的「グアンシー(関係)」の本質だ。中国の贈り物は基本的にひも付きである。そのひもは目に見えず、口にも出されないが、受け取る側には返礼が期待されている。

そのことを思い知らされたのがパプアニューギニアだ。同国は18年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主催した当時、対外債務の25%を中国に負っていた。中国の外交官は首脳会議の共同声明案に不満を持つと、同国外相の事務所に駆け込み、一方的に声明の文言変更を要求した。大国は小国に対してこうした行動をとる誘惑にかられるが、持続可能な関係は生まれない。

米国とその同盟国は「共感」「関与」「能力」という3つの指針により太平洋地域での影響力を維持すべきだ。共感は相手の本当の本音を理解するのに役立つ。そして友人を得る確実な方法は、パートナーとの共通の価値観と目標に関与することだ。能力は共感と関与によって得られた敬意や忠誠を強固にできる。大国間競争でソフトパワーが示されれば、前向きな変化も期待できるだろう。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3LTwDMh)に

多国間連携に日本の出番

初開催の首脳会議に合わせ、米国は「太平洋パートナーシップ戦略」を公表した。「地理的要因だけでなく、行動によって太平洋の大国としての役割を果たす」と強調し、その証左として8億1千万ドルの援助を表明した。会議後の共同声明への署名を渋っていた親中のソロモン諸島が、最後には加わったことからも、一応の成果はあげたといえよう。

とはいえ中国の影響力浸透を許したのは、米国や豪州の油断にほかならない。中国とソロモンとの安保協定に慌て、急ごしらえで関係強化に乗り出した米国を、島しょ国は歓迎しつつ冷徹にみているだろう。戦略には支援に多国間連携で取り組むと明記した。四半世紀前から3年ごとに「太平洋・島サミット」を開催してきた日本は、積み上げた信頼関係を生かす局面だ。

(編集委員 高橋徹)』