村上宗隆、広角打法磨き「王超え」56号と三冠王つかむ
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『バットを振り抜いた瞬間、ヤクルト・村上の表情に安堵の色が浮かんだ。七回、DeNA・入江が投じた内角への速球を捉えた大飛球が右翼席へ。日本選手のシーズン単独最多となる56号に観客が総立ちとなる中、重圧から解き放たれた22歳は「やっと打てた。長い一本だったな」。
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球界を席巻してきた若き大砲も、終盤戦は生みの苦しみを味わった。9月13日に55号を放って以来、60打席にわたって本塁打なし。三冠王が懸かる状況でもあり、前日の阪神戦を珍しく欠場させた高津監督は「彼も人の子。しっかり調整してあげないといけない」。
DeNA戦の七回、今季56号本塁打を放ち、記念のボードを掲げるヤクルトの村上=共同
打率2位の中日・大島に3厘差まで迫られて迎えたシーズン最終戦。三回にコンパクトな振りで左前へ適時打を放ち、18年ぶりの三冠王を決定付けた。これで本塁打だけに集中できたおかげか、最終打席で新たな勲章を手にした。「漫画でも描けない。今年のムネ(村上)を象徴している」と高津監督。
王貞治(巨人)の55号。1964年にシーズン最多本塁打として達成されて以降、その数字は日本球界において特別視されてきた。野村克也(南海=現ソフトバンク)、落合博満(ロッテ)、松井秀喜(巨人)――。球史を彩る日本人打者たちが挑んでは、あと一歩届かなかった「不滅」の大記録。半世紀以上の時を経て、その壁がついに破られた。
歴代の大打者たちと比較しても、村上が希少な存在といえる理由はグラウンドを90度使って広角に本塁打を打てる技術にある。今季の本塁打のうち、中堅から左方向への打球は全体の55%。同じ左打者の王さんや松井さんが右方向へ引っ張ることの多い「プルヒッター」だったのとは対照的といえる。
王さんの記録に並んだ55号はその真骨頂。巨人・大勢が投じた外角の直球を、コースに逆らわず左中間席へ運んだ。打者のデータ分析が進み、球種の幅も広がった現代において、引っ張るだけで50本を打つことは困難だ。「今の投手は分業制で、本塁打を量産するのは我々の時代より難しい。彼の技術がいかにずぬけているかということ」。現ソフトバンク球団会長の王さんも、その記録の価値を強調する。
「投高打低」が顕著なシーズンにこれだけの本数を重ねたことも意義深い。三冠王も最年少というだけでなく、歴代達成者の中でも56本塁打はトップ、134打点は2位タイの数字。球史でも傑出した成績でなし遂げた偉業は、長く語り継がれるだろう。
(木村祐太)
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北川和徳
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説
55号の後に本塁打の量産が止まったのは残念でしたが、最終打席で56号というドラマを見せてくれました。若き三冠王の誕生です。まだ数年は日本でやってくれると思うので、シーズン本塁打記録の更新は来季以降の楽しみと考えます。セリーグはしばらく、ヤクルトの時代が続くのでしょうか。
2022年10月4日 6:49 』