国連総会、ウクライナ一色 安保理改革で米ロ駆け引き
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『【ニューヨーク=白岩ひおな】ニューヨークの国連本部で開かれていた第77期国連総会の首脳級演説が26日、全ての日程を終えた。期間中にロシアのプーチン大統領がウクライナの親ロシア派支配地域の事実上の併合に踏み切ると考えを示したことに非難が集中し、テーマはウクライナ侵攻一色の国連総会となった。安全保障理事会の改革をめぐる議論も米ロ間の駆け引きに発展しつつある。
安保理は27日午後、ウクライナの要請で緊急会合を開く。安保理は2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、ロシアの拒否権行使により法的拘束力のある決議を出せていない。ウクライナのゼレンスキー大統領は21日のオンライン演説で「少なくとも侵攻が止まるまで、国際機関の意思決定からロシアを隔離しなければいけない」と述べ、ロシアの拒否権剝奪を求めた。
安保理は常任理事国である米国、英国、フランス、中国、ロシアに加え、2年任期の非常任理事国10カ国からなる。国連の加盟国数は193カ国に拡大した一方、安保理は非常任理事国を6カ国から現在の10カ国に増やした1965年以来、理事国数は変わらないままだ。
2023年1月から非常任理事国を務める日本の岸田文雄首相は今月20日、安保理改革をめぐり「文言ベースの交渉を開始する時だ」と呼びかけた。バイデン米大統領も21日、常任理事国と非常任理事国の拡大支持を表明。日本やドイツなどを念頭に「われわれが長らく支持してきた国」の常任理事国入りを望むと語った。
ただ、具体的な交渉の進展は見通せない。シンクタンク国際危機グループ(ICG)のリチャード・ガウエン氏は米国の改革支持は「安保理改革にアレルギーを持つロシアや、日本の影響力拡大を懸念する中国に対抗する巧妙な外交的駆け引き」だと指摘する。
ウクライナ侵攻が長期化し、中国やインドもロシアに一定の距離を置く姿勢を示すなか、孤立回避を探るロシアも安保理改革を駆け引きの材料に利用し始めている。
ロシアのラブロフ外相は24日、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの理事国枠を増やし、インドとブラジルを加えて「より民主的」な安保理にするよう訴えた。日本やドイツは「米国の命令に従っているだけだ」などと主張し、両国がめざす常任理事国入りを支持しない方針も明確にした。
安保理改革への支持をアピールすることで西側諸国に対抗し、アフリカや中南米諸国などを取り込む思惑が透ける。ブラジルのボルソナロ大統領は20日「外交・経済における(ロシアの)孤立に反対する」と呼びかけた。
一方、こうした動きを警戒する声もあがる。アフリカ連合(AU)議長を務めるセネガルのサル大統領は「アフリカは歴史の重荷に十分苦しんだ。新たな冷戦の温床になることは避けたい」と述べた。
ロシアとウクライナの仲介役を果たすトルコも、安保理改革をめぐる議論の主導を探る。エルドアン大統領は20日「安保理がより民主的で説明責任を果たせるようにすべきだ。世界は(常任理事国の)5カ国より大きく、より公平な世界は実現可能だと強調し続ける」と訴えた。トルコは12カ国で安保理改革を議論するパネルを主催し、ニューヨークでも16日に会合を開いた。
ウクライナ侵攻に焦点が当たり、11月に第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)を控えた気候変動対策をめぐる機運は停滞気味だった。モルディブのアブドラ・シャヒド外相は、産業革命以来の地球の気温上昇を2度未満とし、1.5度以下をめざすとしたパリ協定の目標を念頭に「小規模な島しょ国の発展途上国にとって、1.5度と2度の差は死を意味する」と警鐘を鳴らし、温暖化対策を呼びかけた。』