進む中印デカップリング VCやアリババが撤退モード

進む中印デカップリング VCやアリババが撤退モード
ASIA TECH
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK160G10W2A810C2000000/

 ※ 安全保障と経済活動(経済的利益)が衝突した場合、安全保障に軍配が上がる…。
 ※ 安全保障は、身体・生命の安全に直結するからだ…。

 ※ 何事も、「命あっての物種。」「生きていればこそ。」の話しだ…。

 ※ 人間、命さえ拾っておけば、「明日のおまんま」なんてのは、どうにかこうにかなる…。どうにかこうにか、して行くモンなんだ…。

『5月、インドと中国の間で進む経済デカップリング(分断)の流れを象徴する出来事が起こった。アリババ集団とその傘下の金融会社アント・グループが、インド電子商取引(EC)大手ペイティーエム・モール(Paytm Mall)への出資を一気に全て引き揚げたのだ。


大損確定でも出資引き揚げ

同社は2019年に時価評価額が30億ドル(約4000億円)近くに達し、当時はインドに20社程度しかなかったユニコーン(時価評価が10億ドル以上の未上場企業)の一角を占める有力新興企業だった。しかしその後、米アマゾン・ドット・コムや米ウォルマート傘下のフリップカートなどとの競争で劣勢になり取扱高が減り、時価評価も縮小した。

今回のディールでは、中国2社が合計で4割を超えていた持ち分をペイティーエム・モールに買い戻させた。その株価で計算した時価評価は1300万ドル程度と、30億ドルから10分の1未満に縮小したと現地メディアは伝える。買い取り側の負担を抑える割引価格だったとみられる。数億ドルで買った株を数百万ドルで売却し、大損を確定する形での撤収だった。約2割を持つ大株主のソフトバンクグループも似た規模の評価損を出したはずだ。

ペイティーエム・モールの創業者、ビジェイ・シェカー・シャルマ氏は21年に新規株式公開(IPO)したモバイル決済大手ペイティーエム(Paytm)の創業者でもある。同社もソフトバンクGとアリババ系の出資でインド有数のユニコーンに成長した。

シャルマ氏(右)はアリババ集団をモデルにしてきた(21年11月、ペイティーエム運営会社の株式上場式典)=ロイター

ペイティーエム・モールの先行き不安説にもシャルマ氏は「我々にはママ(アリババ創業者の馬雲=ジャック・マー氏)とパパ(孫正義・ソフトバンクG会長兼社長)がついている」と、両グループの後ろ盾を頼りにしきっていた。ECとモバイル決済を親子関係にしないで並立させるモデルもアリババとアントGのやり方をまねた。アリババ系の出資引き揚げのショックは大きそうだ。

アリババは21年、食品宅配大手ビッグバスケットの株を全てタタ財閥に売却。ソフトバンクGと一緒に出資していたもう一つのインドEC企業スナップディールの株も売り払った。料理宅配のゾマトが同年新規株式公開(IPO)した際にも、アリババは持っていた株を売却しており、インド新興企業投資からは完全に撤退モードに入っている。

バイトダンスや小米系も続々

撤退モードにあるのはアリババ系だけではない。簡易動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国系の字節跳動(バイトダンス)はこの4月、簡易動画投稿アプリの「ジョシ(Josh)」とローカル言語ニュース表示アプリの「デイリーハント」を運営する会社の株を全て売却した。

スマートフォン大手小米(シャオミ)系の大手ベンチャーキャピタル(VC)、順為資本(シュンウェイ・キャピタル)は20年秋にインド拠点を閉鎖。21年春には「インド版ツイッター」と呼ばれるクー(Koo)への出資を解消した。

45年ぶりにインド軍に死者を出した20年6月の中印国境紛争後、インド政府はTikTokなど中国製スマホアプリの使用を禁止する一方、中国資本によるインド企業への投資を許可制にするなど、中国の製品と投資を排除する姿勢を打ち出している。中国自動車大手の長城汽車が6月末、米ゼネラル・モーターズ(GM)のインド工場の買収を断念したのも投資許可が出なかったからといわれる。

中国企業はモバイル・インターネット革命を通じたスタートアップの急成長が中国に続いてインドでも再現できるとみて投資を重ねてきたが、流れは完全に変わったようだ。他方で、米中、中印の経済デカップリングが進めば、日本や米国の新興企業投資マネーがインドと東南アジアに向かう流れは今後さらに加速しそうだ。

(編集委員 小柳建彦)
スタートアップGlobe 』