デジタル化が急速に進む中国で多くの高齢者が取り残されている【コメントライナー】
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022060300600&g=int
※ 今日は、こんなところで…。
『2010年代に入ってから、デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉をよく耳にするようになった。世界各国が新たな技術革新を国家戦略に位置付ける中、中国もいち早くデジタル化政策を推進してきた。李克強首相は15年3月、全国人民代表大会(全人代=国会)で「インターネット・プラス(互聯網+)」構想を提起。ネットワーク化、デジタル化、知能化などの技術開発とその利用に向け、さまざまな政策イニシアチブを始動させた。(文 ジャーナリスト・李 向日)
◆ライフスタイルが一変
21年3月の第14次5カ年計画では「デジタル中国建設」を国家戦略の一環として明記し、デジタル国家の構築を本格化させた。
こうした取り組みによって、中国人のライフスタイルは一変した。ネットショッピングは当たり前。ホテル、配車、病院の予約などもネットサービスを利用し、支払いはモバイル決済。中国はかつてない進歩を成し遂げたように見えた。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、中国社会のデジタル化はさらに加速したが、一方で、多くの高齢者はデジタル社会から取り残され、「デジタル難民化」している。
2020年4月8日、世界最初にコロナ感染の拡大が確認された中国・武漢市の「都市封鎖」が約2カ月ぶりに解除された。武漢市内に足止めされていた市外の人々は、帰宅しようと次々と鉄道駅に向かった。
中国メディアによると、当時、武漢出発の鉄道利用客は5万5000人以上いたが、多くの高齢者が電子健康証明「健康コード」を提示できず、寒い夜にもかかわらず、武昌駅前の広場に置いてきぼりにされた。
その中にはスマートフォンを持たない人や、「健康コード」 すら知らない人も多かった。
◆待ち続けるしかない
その年、中国でもコロナ感染拡大で、マスクが品薄になっていた時期があった。マスクを購入しようと、高齢者たちは、早朝から薬局の前に並び始めたが、開店してすぐ店員から「もう売り切れです」と告げられた。
店内のマスクはすでにインターネットを通じて完売されていたのだ。
新華社(電子版)などによると、感染防止の観点から、多くの病院もネット予約制を導入するようになったが、ネット予約ができない高齢者は、番号札を握り締めて病院のロビーでずっと待ち続けるしかなかった。
あとどれくらいの時間、待つかは、その日のネット予約人数によって決まった。
中国の週刊誌が20年12月末に伝えた記事も忘れ難い。
10月初旬の国慶節連休の直前、独り暮らしの77歳の女性が待ち望んでいたのは、孫娘だった。
その老女はモバイルバンキングの操作方法が分からない。いつも孫娘が代わりに操作してくれたが、コロナ感染対策による交通規制で、孫娘が来られなくなり、彼女は9カ月、年金を引き出せなかった。今もこのような高齢者は存在するだろう。
◆60歳以上が2.6億人
なぜ売店は人民元を受け取らないのか。いつから駅で切符が買えなくなったのか。どうして長年通った病院で受診ができなくなったのか。
世の中のすさまじい変化について、中国の高齢者たちはよく分かっていないが、社会から取り残されつつあることは分かっている。
テクノロジーの進歩による生活の便利さや豊かさが唱えられる中、大多数の高齢者たちは窮地に立たされているようだ。政府は高齢者向けに教育訓練を強化するなど、支援策を発表しているが、具体的にはどこまで対応しているのか。
60歳以上の人口を約2億6400万人(2020年中国国勢調査)抱える中国にとって深刻な問題である。日本も人ごとではないだろう。
(時事通信社「コメントライナー」より)
【筆者紹介】
李 向日(り・こうじつ) 1974年中国生まれ。横浜市立大学国際総合科学研究科博士後期課程修了。同大非常勤講師など経て、時事通信総合メディア局記者(中国語ニュース編集担当)。同大客員研究員兼務。中国、朝鮮半島の社会問題について研究。 』