ゴルゴが教える 命の危険から身を守る三原則
学び×海外安全マニュアル(2)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC0833Q0Y2A400C2000000/






『外国に滞在中、もしくは渡航予定のある日本人向けに情報発信をしている外務省海外邦人安全課の足立秀彰課長に聞く「海外安全マニュアル」。
今回は、外務省が提供する海外安全情報配信サービス「たびレジ」の活用法など現地での情報収集や現地での心構えについて、海外での危機管理に詳しい「あの男」の金言と共に教えてもらいます。
「大臣に呼ばれて来たのだが……」。人気漫画「ゴルゴ13」の主人公、デューク東郷が東京・霞が関の外務省の大臣室を訪れる。テロの脅威が欧米やアジアにも拡散し、海外での日本人の安全対策が急務となるなか、「あの男」の力を借りるべく外相が直々に呼び出した――。
外務省が動画と冊子で提供している「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の冒頭シーンだ。
在外邦人もテロの標的に
外務省が安全対策マニュアルとして提供している「ゴルゴ13」の漫画は、2016年7月にバングラデシュの首都ダッカで起きた飲食店襲撃テロをきっかけに作られました。
このテロでは日本人7人を含む20人以上が犠牲になり、在外邦人の安全確保が急務の課題として認識されるようになりました。
海外に展開している日本企業の中で、中堅・中小企業の安全対策をサポートする必要があることがわかりました。大企業では出張者、駐在員の安全確保にあたる部署もありますが、規模の小さい企業では手薄になりがちな分野です。
外務省海外安全ホームページでは、人気漫画「ゴルゴ13」とタイアップしたマニュアル動画を公開している
「ゴルゴ13」シリーズは企業トップを務める中高年層に人気があり、デューク東郷が語る危機管理には説得力があります。
21年3月の改訂で新型コロナウイルス対策を加え、内容をアップデートしています。外務省のホームページから動画を閲覧できますのでぜひ、渡航前の準備や滞在中の心構えの参考にしていただきたいです。
滞在先で安全情報を自動受信
マニュアル動画と冊子でデューク東郷が繰り返し言及する「たびレジ」というサービスがあります。
外務省が14年から提供している海外旅行者・出張者らに向けた海外安全情報配信サービスです。
在留届の提出義務の対象となっていない3カ月未満の短期渡航者が対象で、パスポートに記載されている氏名や連絡先など必要事項を入力して登録すれば、旅行期間中に自動的に現地の安全情報や緊急の速報が日本語で送られてきます。
万が一、渡航先で大規模な事件や災害が発生したら、登録した情報が安否確認にも利用されます。
滞在中の連絡先と宿泊先は渡航前に親しい方と共有していただき、さらにはホームページで簡単に入力できるたびレジにも登録してほしいです。
配信される現地の危険情報に気をつけて、テロや事件の可能性のある場所には近づかないように心がけてください。
海外では常に「ここは日本ではない」という意識を持つことが最も重要です。
日本は世界の中でも治安のいい国のひとつです。
そのため、海外渡航する日本人には「隙」がみられるケースがあります。
空港やホテルのロビーでは、自分の荷物から目を離さないことはもとより、不審者や不審物にも注意を払う必要があります。
「命が助かってよかった」
たとえばスマートフォンを操作しながら路上を歩いたり、貴重品の入ったリュックサックを背負ったまま行動したり、といった状況はいずれも、海外では犯罪者に狙われやすくなります。
気づいたらすでにリュックサックの中身が無くなっていたという被害も後を絶ちません。
もし歩行中にスマートフォンを奪い取られそうになったら、決して抵抗せずそのまま渡してください。
旅先での情報収集に欠かせない重要な持ち物ではありますが、何よりも大事なのは命です。
犯人は1人に見えても、周囲に仲間がいて、抵抗を続ければ武器を持ち出すことがあります。要求に応じないと、犯人を刺激して凶器による暴行につながる恐れがあります。スマートフォンを盗まれたとしても、「命が助かってよかった」と思ってほしいです。
「ゴルゴ13×外務省」の中でも、「安全のための三原則」として、
①目立たない
②行動を予知されない
③用心を怠らない
――ことを注意喚起しています。当たり前のことのようですが、慣れない海外では常に意識して自身の行動を確認することが必要です。
宗教への侮辱や服装違反は厳罰
犯罪者やテロリストは、目立つ人物を標的に選ぶ場合があります。
渡航先・赴任先では必要以上に華美な服装や宝飾品を身につける、目立つ車に乗る、公共の場で大声で話すといった標的とされる可能性を高める行為は危険です。
現地の文化や風俗、法律への配慮も求められます。
社会全体で宗教が重要な役割を占めている国では、宗教に対する侮辱や服装の規定違反などは厳しく罰せられたり、周囲の反感をかうことになったりします。
例えば、イスラム教の国での「ビールで乾杯」といった行為は、外国人や異教徒に悪意を持つ組織の標的になりかねません。文化・風俗の違いから、日本の常識では犯罪とは考えられないことでも、諸外国では通報されてしまう可能性もあります。
また、ツイッターやインスタグラムなどのSNS(交流サイト)への書き込みにも注意したいところです。
自身の名前や勤務先などの個人情報とともに、小まめな書き込みによって、滞在場所や今後の予定などを不特定多数の人に知られてしまう恐れがあります。
危険レベルの高い地域では特に、誘拐などの犯罪を誘発する要因になりかねません。
旅先で撮ったすてきな写真をアップしたい気持ちはわかりますが、情報を公開するタイミングをずらすなど、安全のためには工夫が必要です。
安全のために現地の情報を把握し行動することが求められる(モスクワの空港出発ロビー)=ロイター
ほかにも、海外で自身の安全を守る心得として、デューク東郷はこんなことも言っています。
「死の恐怖…… 恐怖だけが我々を危険から遠ざけてくれる……」「臆病のせいでこうして生きている」
旅慣れていても、有事に備えた訓練を受けていたとしても、油断は大敵です。
一番大切なのは、用心を怠らず、危険な場所には近づかないことです。
海外ではとにかく、情報収集と安全の三原則に留意して、「自分の身は自分で守る」「予防が最良の危機管理」という心構えと慎重さを忘れずに行動していただきたいです。
連載記事一覧はこちら https://r.nikkei.com/stories/topic_story_22040800?n_cid=DSST001
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
上野泰也のアバター
上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
コメントメニュー
貴重な体験談
筆者は学生時代に4回訪れたヨーロッパ・北アフリカを中心に、世界各地をフリーで長期間旅行した経験がある。
大きなアクシデントには幸い見舞われなかったものの、夜間の外出で自転車の男につけられるなど、これは危ないかなと、ひやりとしたことも何度かあった。
常に心がけているのは、「ストレンジャー」であるように見せないこと。人前で地図やガイドを調べたりしない、外国人だとすぐわかるような服装は絶対にしない、実は道に迷っていてもわかっているふりをして歩き回るなど、悪いやからのターゲットにならないよう、常に気を配った。
治安が相対的によくない中南米ではなおさらである。地元の人の親切に出会う機会は減るが、やむを得ない。
2022年4月26日 7:44 』