米の対ロ決済網排除に壁 国際送金1日4200万件、混乱も

米の対ロ決済網排除に壁 国際送金1日4200万件、混乱も
経済制裁、乏しい選択肢
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB210510R20C22A1000000/

『ウクライナ問題をめぐり、米国が対ロシアの経済制裁として検討する国際資金決済網からの排除が難しいとの見方が出てきた。1日4200万件もの国際送金を処理しており、ロシアと決済できなければ米欧企業も甚大な打撃を受けるからだ。米国の制裁カードは限られる可能性がある。

「ロシアは重い代償を払う」。バイデン米大統領は20日、ロシア軍が国境を越えてウクライナに再び侵攻すれば「経済の厳しい協調的措置」を取ると強調した。

米国は2014年、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてロシアの国営石油会社ロスネフチや国営ガスプロム傘下の銀行ガスプロムバンクに制裁を科した。金融取引を制限したが、ロシアは再び挑発行為に出たため、制裁強化を検討する。

制裁の「目玉」は国際決済網からの排除。バイデン氏は19日、ロシアの銀行によるドル取引停止を検討中と明かした。米メディアによると、世界中の銀行が参加する決済網「国際銀行間通信協会」(SWIFT)から排除する案もある。

米欧の当局者が意識するのはイランへの経済制裁。欧州連合(EU)の制裁で12年にイランはSWIFTから遮断された。カーネギー財団モスクワセンターによるとこの制裁でイランは原油収入の半分を失った。

SWIFTは国際送金のインフラであり、排除されれば国境をまたいだ資金決済が事実上できなくなる。利用件数は毎年1割程度のペースで伸び続け、21年は1営業日あたり約4200万件を処理した。

欧米の経済や企業も返り血を浴びる。欧州が天然ガスの3分の1をロシアに依存するだけではない。対イランと異なり、欧米企業はロシアとのビジネスに深く絡む。

仏トタルエナジーズは北極圏でロシアのガス大手ノバテクや中国企業などと液化天然ガス(LNG)事業を17年に稼働。トタルはノバテクに19.4%、英BPはロスネフチに19.75%出資する。米エクソンモービルはロスネフチや日本勢とサハリンで原油を生産、アジアに輸出してきた。

日本企業にも影響は及ぶ。ロシアで多くの事業を手がける三井物産は「SWIFT排除ならば、在ロシアの顧客や現地法人との決済ができなくなる」とみる。住友商事は「情報収集に努め、対応を検討中」とする。

世界経済が混乱するとの見方もあり、ドイツでは「資本市場への『原爆』になりかねない」との警戒がある。独経済紙ハンデルスブラットは「米欧はSWIFT排除ではなく、ロシアの大手銀行への的を絞った制裁を準備している」と報じた。

ロシアが備えている可能性もある。ロシア中銀の外貨準備で、米ドルの比率は21年6月で16.4%と前年同期比5.8ポイント下がった一方、ユーロは32.3%と同2.8ポイント拡大、人民元も13.1%と同0.9ポイント拡大した。

中国は人民元による「国際銀行間決済システム」(CIPS)を稼働ずみ。ロシアの銀行も参加し、SWIFTから排除されても、中国との人民元決済はできるもようだ。

新アメリカ安全保障センターのアンドレア・ケンドルテイラー上級研究員は「ロシアが中国との協力を加速しかねない。他の制裁手段が尽きた場合にのみ検討すべき選択肢」と指摘する。

(ワシントン=中村亮、ヒューストン=花房良祐、長谷川雄大)』