[FT]EUは中国の圧力からリトアニア守れ

[FT]EUは中国の圧力からリトアニア守れ
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『欧州は21世紀、欧州以外の超大国に振り回される運命にあるのか――。

欧州連合(EU)本部は、EUの結束した力のみがそうしたひどい運命から欧州大陸を救えると主張する。EUには1カ国だけで米国や中国と対等に渡り合える国はないが、EUとして捉えれば世界3大経済勢力の一つとなる。

イラスト James Ferguson/Financial Times

だが、EUの経済力を背景にすれば地政学的な力も容易に発揮できるのではないかという考えは今、残酷なまでの現実を突きつけられている。ウクライナ危機を巡る協議で、EUは蚊帳の外に置かれた。また、中国は台湾との関係強化を進めているEU加盟国のリトアニアに非公式ではあるが制裁を科した。この事態に対し、EUは適切な対応策を見つけ出すのに苦慮している。

EUのフォンデアライエン氏は委員長就任に先立つ2019年11月、「地政学的な責任を果たす欧州委員会を率いたい」と抱負を語った。しかし、EUが今後数週間から数カ月の間に有効な手を打てず、事態が悪化すれば「地政学的にも力を発揮できる存在」という考えは机上の空論でしかないことが明らかになる。ただ、一方でEUが現在直面する様々な危機、とりわけリトアニア問題を通じて世界の舞台でEUの利益を守る力を飛躍的に伸ばせる可能性もある。

中国のリトアニア制裁は「スペインの異端尋問」

ウクライナ危機は欧州大陸での戦争か平和かという問題だ。それだけにロシア、米国、北大西洋条約機構(NATO)などによるウクライナを巡る協議にEUが参加できなかったことを屈辱的と感じているEU高官らもいる。だがEUが一連の交渉の場に招かれなかったのは大した驚きではない。EUは軍事同盟ではないし、今後そうなることもないだろう。しかもウクライナはEU加盟国ではない。

しかし、リトアニアはEU27加盟国の一つで、既に中国との貿易紛争に巻き込まれており、貿易はEUが世界的な影響力を発揮できる少ない分野の一つだ。つまり、EUにとって加盟各国が団結して行動する好機でもあり、そうする義務も負っている。

リトアニア政府は、自らを民主主義体制とする台湾との関係を強めた(編集注、21年11月にリトアニアに開設した台湾の事実上の大使館である代表機関に「台北」でなく「台湾」と表記するのを認めた)。だが中国は台湾を反乱分子とみなしていることから以来、制裁の標的にしている。リトアニア政府は21年5月に中国と中・東欧諸国の経済協力の枠組み「17プラス1」からも離脱していた。

リトアニアのランズベルギス外相は中国の対応をまるで「スペインの異端審問」(編集注、スペインで15世紀、ローマカトリック教会が異端を過酷なまでに厳しく取り締まった制度)のようだと例えた。

中国はリトアニアとの全貿易の通関手続きを止めただけではない。リトアニア製部品を使った製品全ても通関できなくなっており、リトアニアに投資している海外投資家らは極めて頭の痛い事態に陥っている。

中国政府は賢い戦術に出たといえる。リトアニアで活動するドイツの投資家らはリトアニア政府に中国に対し折れるよう強く求めているという。一方、リトアニアの世論調査によると、同国政府が台湾の代表機関の表記に台湾を使うのを認めたことに不満を感じているようだ。

中国、リスク抱え込んだ可能性も

だが、中国の今回の対応には中国政府が十分に考慮していないリスクが潜んでいる可能性がある。中国はEUのサプライチェーン(供給網)を標的にすることで、EU経済とEUの戦略目標の核心である欧州単一市場の結束を壊すことに狙いを定めたからだ。欧州の有力シンクタンク欧州外交問題評議会(ECFR)でアジアの責任者を務めるヤンカ・エルテル氏は「中国はこれを欧州の問題とすることでEU全体に対する挑戦に変えてしまった」と指摘する。

これは単なる理論上の問題ではない。欧州では中国が次に標的にするのはチェコではないかと一部でみられている。チェコは政府も政治家も台湾に友好的だ。同時にEUの供給網の中心的役割を果たしている工場が多数ある。チェコ製部品が事実上の制裁対象になれば欧州単一市場は大混乱に陥りかねない。

欧州の政治家の中には、リトアニアが他のEU加盟国に事前に相談もせず台湾の名称を冠した代表機関の設置を認めたことにいら立ちを感じている者もいる。だが、リトアニアはEUが認める「一つの中国」政策に反したわけではない。しかも民主主義への支持と小国の保護は、EUの中核的価値のはずだ。

EU高官らはリトアニアへの支持と連帯を約束している。リトアニアへの制裁については中国を世界貿易機関(WTO)に提訴するだろうが、WTOでの解決には何年もかかる可能性がある。そのためEU議長国を現在務めるフランスは、EUと加盟国に経済的手段を使って政策を変更するよう圧力をかける第三国に対し貿易関連の制裁を科せる制度の導入を急いでいる。成立すれば、中国に限らず第三国からこうした「経済的な強制」を受けた場合、EUは当該国からの投資受け入れ停止や追加関税など幅広い報復措置を取ることができる。

EUが傍観で終われば米ロもそれを記憶

この制度の強みは通商政策の一環として決定できる点だ。EUでは純粋な外交政策は加盟国の全会一致でなければ決定できないが、通商政策なら多数決で採決できる。ハンガリーやギリシャなど中国に近いとされる加盟国が経済的強制への報復措置の法制度化および同法の運用を阻止することはできない。

欧州議会の重鎮で、個人として中国政府の制裁対象となっているラインハルト・ビュティコファー欧州議員(編集注、独緑の党の重鎮でもある)は、リトアニアの危機はEUが外交面で影響力を飛躍的に拡大できる好機となるかもしれないと語る。「通商政策と外交政策を連携させることで、我々は通商政策をより効果的な外交政策追求のために活用することができるようになる」

だがEUの立法プロセスは非常に複雑で、今夏までに同法案の合意にこぎ着けられる可能性は低く、リトアニアはその頃には譲歩を余儀なくされているかもしれない。

EUは自分たちの利益を守るために、そのような事態に至るのを阻止する必要がある。もし中国がリトアニアいじめに成功し、EUが傍観するだけに終われば、その教訓を中国だけでなくロシアや米国の政府も記憶にとどめるだろう。

By Gideon Rachman

(2022年1月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

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