北朝鮮、核開発・制裁逃れ浮き彫り

北朝鮮、核開発・制裁逃れ浮き彫り 国連報告書案
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『国連安全保障理事会で対北朝鮮制裁の履行状況を調べる専門家パネルがまとめた中間報告書案が明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大下でも、制裁逃れを続けながら体制維持のために核・ミサイル開発を続ける北朝鮮の実態が浮き彫りとなった。

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報告書案は、北朝鮮が2020年12月~21年2月にかけ、北西部・寧辺(ニョンビョン)の核施設を「複数回稼働した」と言及した。期間中に撮影された赤外線画像などから、実験用軽水炉の外部の工事を完了するなど整備が進む様子が確認されたとしている。

制裁の網をかいくぐる密貿易も続いている。燃料の調達には複数の企業や船舶を経由し、海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の手口が多く使われ、特に5月以降横行しているという。

報告書案は、シンガポールに拠点を置く石油取引会社ウィンソン・グループが北朝鮮の制裁をかいくぐった燃料調達の要となっていると指摘した。北朝鮮に関わる取引の過程や船舶の登録に、同社名義のメールアドレスや関連する住所などが使われた。

7月中旬時点で制裁委員会に報告された今年の石油精製品の輸入量は、17年12月に安保理決議が定めた年間供給上限(50万バレル)の4.75%にとどまっている。数字上は従来より少ないが、実際にはこれをはるかに超える量の違法取引が行われているとみられる。

国連安保理が17年の決議で禁止した主要産品である石炭の禁輸も骨抜きになりつつある。報告書案は21年2~5月に41回に分け、少なくとも36万4000トンの北朝鮮産石炭が中国の寧波・舟山地域へ輸出されたと指摘した。

北朝鮮は専門部隊による組織的なサイバー攻撃を収益源としている。報告書案によると、偽の電子メールを送りつける「スピアフィッシング」と呼ばれる手法で、暗号資産(仮想通貨)交換所や防衛企業などを狙った攻撃が続いている。サイバー攻撃による仮想通貨の奪取は、金正恩(キム・ジョンウン)体制維持のための貴重な収入源になっているとみられる。

一方、コロナ禍で中朝境界を閉鎖した影響で民間の貿易が滞り、高級品を含む消費財の輸入は停止していると報告した。金正恩総書記の家族の別荘向け物資などは海路を使って不正に運び込まれたとしている。

制裁の長期化や、貿易の停止、相次ぐ水害で北朝鮮の経済状況は悪化している。韓国銀行の推計によると20年の実質国内総生産(GDP)は前年比4.5%減少した。食糧難で多くの餓死者を出した1990年代後半以来の減り幅だった。

米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は5日、日本経済新聞などの電話インタビューで「北朝鮮への人道支援を促す追加策を前向きかつ迅速に検討する」と述べた。北朝鮮に対話への復帰を促す狙いとみられる。

ただ、北朝鮮は制裁解除など敵視政策の撤回をバイデン米政権側に一方的に求めるばかりだ。同大使は「制裁が人道的危機を生んだわけではない」と制裁自体は維持する姿勢で、米国側からの譲歩は否定した。

(ニューヨーク=白岩ひおな、吉田圭織、ソウル=恩地洋介)』