暗号資産、英で規制の網

暗号資産、英で規制の網 投資家保護へ広告排除も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR130NV0T10C21A7000000/

『【ロンドン=篠崎健太】英国で暗号資産(仮想通貨)の広告や営業活動に規制をかける動きが広がってきた。新たな投資対象として人気が高まるにつれ、価格変動リスクや詐欺などの犯罪行為から個人投資家を守る必要性も増してきたからだ。金融商品としての規制や監督体制が追いついておらず、新たな金融分野での事業者と当局の攻防は激しくなっている。

バス車体の広告に排除命令

ロンドンの街中では暗号資産関連の広告を見かける機会が増えた。「ビットコインを見かけたら、今が買い時だ」――。5月下旬、ロンドンに拠点をおく交換業者ルノがこんな文言で地下鉄駅やバスの車体に展開していた広告に対し、英国の広告自主規制機関から排除命令が出た。

投資リスクを記さず消費者を誤認させかねないとの苦情を受け、広告基準評議会(ASA)が審理していた。ASAはビットコインが投資家保護を受けられる金融規制対象の商品ではない事実を明示しておらず、安易に投資できるものだと誤認させるなどと指摘した。広告ルール違反を認定し、ルノは今後の改善を約束した。

3月には「銀行預金は意味が無い」「ビットコインはデジタルゴールドだ」などと宣伝していた別の交換事業者の広告にも排除命令が出ている。ASAは暗号資産の広告に関するガイドラインを近く策定する方向だ。

犯罪行為に神経とがらす

英金融当局は消費者に対して、暗号資産の投資リスクに警告を発し続けている。株式や債券といった一般的な投資商品と違い、現状では厳しい監督を受ける金融規制の対象になっていないためだ。国境を越えて自由に流通する特性から、マネーロンダリング(資金洗浄)や犯罪行為に悪用される可能性にも神経をとがらせている。

金融行為監督機構(FCA)は1月に「資金を全て失うことを覚悟しなければならない」との声明を出し、投資詐欺などの不正にも注意するよう呼びかけた。イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁は6月の講演で「暗号資産は裏付けが無く本質的な価値を持たない」と述べ、投資商品としての意義そのものに疑問を呈した。金融革新には積極的な立場ながら「公益を無視するフリーパスはあり得ない」と、適切な規制の必要性を改めて強調した。

FCAは6月、暗号資産の交換業世界大手バイナンスの英法人に対し、必要な認可や登録を得ていないとして英国での営業禁止を通知している。同社は本体のBinance.comは「別法人で直接影響しない」(広報担当者)として、英国向けサービスの提供を続けている。ただ英メディアによるとバークレイズなど複数の大手銀行が同社への送金受付を停止した。

保有者推計、英で230万人

FCAは1月に実施したアンケート調査を基に、英国で暗号資産を現在保有している人の数を約230万人と推計した。まだ英成人全体の4.4%にすぎないが、暗号資産のことを「聞いたことがある」と答えた人は全体の78%と2年前の42%から大きく高まっており、投資商品としての認知は進んでいる。

「仮想通貨は世界で普及が進み各国で規制の枠組みを明確にする必要が出ている」。バイナンスの趙長鵬・最高経営責任者(CEO)は7日、公式サイトに掲載した公開書簡でこうつづった。規制強化は「業界の成熟を示す良い兆候だ」と述べ、当局と協力していく構えをみせた。技術革新で生まれた無国籍の投資対象をどう管理していくか、手探りのルールづくりが進む。 』