中国「戦狼外交」が経済も変質させる?

中国「戦狼外交」が経済も変質させる?共産党中枢の本質を読み解く
柯 隆:東京財団政策研究所主席研究員

国際・中国 チャイナリスク! ~変質する中国、ここが危ない~
https://diamond.jp/articles/-/276438

『「中国をいじめ、圧迫する外部勢力を許さない。14億人の中国人民の血と肉で築いた鋼鉄の長城にぶつかり、血を流す」「(他国の)先生ヅラした説教は、決して受け入れない」――。7月1日の習主席の演説は、中国国内のナショナリズムに合致するものだろうが、海外から見ると、さらにその上を行く過激なものだった。何よりも、絶対に非を認めない「戦狼外交」は国際社会で反感をかき立て、中国自身を困らせる羽目になる。

 そもそもなぜ習政権は、国際社会と対立を強めるのだろうか?

 私は、少なくとも二つの背景があると考えている。』

『一つは、中国の経済力がすでに世界2番目の規模になり、米国を超えて世界一になるのは、もはや時間の問題と思われていることだ。長年、超大国といわれ続けてきた米国をしのぐ経済力を持つことになり、習指導部や中国国民は、おごり高ぶる感情を抑えられないのかもしれない。

 そしてもう一つは、現在の党指導部に名を連ねる幹部のほとんどが、毛沢東時代の文化大革命(1966~76年)時代に教育を受けた世代であり、紅衛兵(文革時に毛沢東に動員された学生。地主や富裕層、学者らを弾圧した)の出身者だ。彼らは、権力を崇拝する傾向がとりわけ強い。』

『共産主義研究で著名なオックスフォード大学のアーチー・ブラウン名誉教授は、「レーニンにとって目的は手段を合理化する革命家である」と看破した。

 この「目的は手段を合理化する」という考え方こそが彼らにとって重要だ。共産党一党独裁体制の維持という「目的」のため、自分に逆らうものを力で押さえつけるという「手段」が「合理化」されるという考え方は、元紅衛兵たちの世界観であるといえる。』

『もっとも、習政権の「戦狼外交」を支える空気は中国国内にも存在する。国民のナショナリズムをあおる「愛国教育」が行われてきたからだ。

 本来ならば、四十余年も続いた「改革・開放」政策により、中国人、とりわけ、若い世代は自由を味わい、民主主義と人権保護の意識を高めることが、いくらかはできたはずである。

「愛国教育」それ自体は江沢民、胡錦涛政権時代も存在したが、習政権になってからは、中国社会の空気は一瞬にして変わってしまった。

 マスコミやインターネットに対する情報統制が強化され、リベラルな知識人たちは、過去にも弾圧はあったが、今では公の場で全く発言できなくなったといっていい。その代わりに、毛の文革時代を彷彿(ほうふつ)とさせる革命的な歌やダンスが教育現場や職場で充満するようになった。』

『この動きは明らかに、最高実力者だった鄧小平が進めた「改革・開放」政策を逆行させるものであり、むしろ毛時代に逆戻りしようとするものだ。

 習政権による言論統制は中国本土にとどまらない。「一国二制度」を50年間変えないと約束した香港に対する締め付けも日増しに強化され、19年には、自由を求める若者を警察が力で鎮圧。今年6月には、中国当局に批判的だった新聞「リンゴ日報」経営者らの逮捕と廃刊という空前の事態を引き起こした。

 これは国際社会、とりわけ民主主義の先進国から見ると、明らかに受け入れがたい異様な変化である。だからこそ、6月にイギリス・コーンウォールで開かれたG7の首脳宣言は、中国を名指しし、ルールに基づいた国際社会の維持を求めるに至ったのだ。』

『長い間、中国に進出する外国企業にとって「チャイナリスク」といえば、中国社会に内在するリスクだった。例えば、中国企業に部品の加工を発注した場合、納期や品質が守られるかが心配だった。そして中国政府は、事前の告知がないまま、政策を突然変更するリスクがあった。

 今、世界経済は中国経済と中国市場に大きく依存している。中国経済の成長が落ち込めば、世界経済にとって大きなリスクとなる。

 一方、中国経済が成長を続け、その影響力をさらに強化すれば、中国と国際社会との対立がむしろさらにエスカレートしてしまう恐れがある。既存の国際ルールに従わない姿勢と、それに伴う地政学リスクの高まりは、国際社会から見ると、まさに新しいチャイナリスク、「ネオ・チャイナリスク」だ。』

『要するに、中国経済が成長しても成長しなくても、中国が国際ルールを十分に順守しないため、国際社会にとって深刻なリスクになるということである。』

『では日本や各国のグローバル企業は、中国とデカップリング(分断)することが可能なのだろうか?

 さすがにそれは不可能であろう。

 多国籍企業の多くは、さまざまな旧来型のチャイナリスクを含めてこれらを管理または回避するために、中国を軸に形成されてきたサプライチェーンの見直しに着手しているが、十分に進んでいるわけではない。

 よって、中国は今でも「世界の工場」であり続けているし、同時に「世界の市場」としての重要性はむしろ増している。中国の自動車市場は世界最大規模であるし、同様の製品は他にも数限りなく存在する。

 長い間、グローバル企業がサプライチェーンを構築してきたのは、コスト削減と、利益の最大化のためだった。これからの新しいサプライチェーンは、効率性だけではなく安定性の重要さが増している。

 今後はネオ・チャイナリスクに対応して、キーコンポーネント(基幹部品)のサプライチェーンを、メインとサブで補完しあう複数のサプライチェーンを構築し、それが強靭化されたものになると思われるが、それでもこうしたリスクを十分に回避できるとは限らない。

 新型コロナウイルス感染症はいまだ猛威を振るっているが、グローバリズムのあり方、それを支える国際社会、国際機関の連携強化など数々の問題が浮上している。

 米国のトランプ前政権は、中国経済の興隆ぶりに対して「アメリカ・ファースト」を主張したが、単なる悲鳴にしか聞こえなかった。バイデン政権はより具体的なアプローチで中国に向き合おうとしているが、両国の経済力の差が縮まっていることは否定できない。

 同床異夢のG7は、米国のバイデン政権発足で、せめて「呉越同舟」の関係に回帰できたといえるのだろうか。多くの主要国が中国経済に依存している事実を考えると、中国の経済発展が続いても減速しても、グローバル社会にとって悩みの種となり続ける。極めて困難ではあるが、それでも重要なのは、「暴れる巨竜」をいかにルールに従わせるかであることに変わりはない。』