三井海洋開発、「燃える氷」の採掘技術 国産水素原料に

三井海洋開発、「燃える氷」の採掘技術 国産水素原料に
21年度に掘削実験 脱炭素に活用
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ03E020T00C21A3000000/

『三井海洋開発は水素の原料となるメタンを海底から採掘する技術を開発する。日本近海の比較的浅い海底の表層部に眠るメタンが近年確認されたことを受け、石油などを海底から効率的に吸い上げる自社技術を応用する。現在、水素の調達は輸入した天然ガス由来などが一般的だ。日本近海に豊富にあるメタンを活用すれば、水素の安定確保にもつながりそうだ。

政府が目標とする2050年までの温暖化ガス排出「実質ゼロ」には、燃やしても二酸化炭素…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1506文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07

無料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

政府が目標とする2050年までの温暖化ガス排出「実質ゼロ」には、燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない水素が重要になる。

三井海洋開発は他社に先駆けて21年度に掘削実験に着手する。開発するのは海底でメタンと水分子が結びついた氷状の物質「メタンハイドレート」の採掘技術。1立方メートルから約160立方メートルのメタンガスを取り出せ、さらにメタンを分解すれば水素を生み出せる。

メタンハイドレートは天然ガスの原料として調査が進んでいたが、政府は2月の検討会で水素やアンモニアの原料として活用することにも言及した。従来は水深1000メートル程度の海底からさらに数百メートル掘ったところにある「砂層型」の研究開発が進んできた。近年になって比較的陸上に近く、浅い海底にたまる「表層型」の調査も進んでいるが、採掘技術が確立されていなかった。

両タイプとも商業利用は実現していない。このうち、三井海洋開発は表層型の採掘技術の実用化を目指す。メタンハイドレートを削った後に吸い上げてメタンガスを取り出し、海底パイプラインで陸上の基地に送り出す。

同社は石油などを掘削するために海上に設ける浮体式生産設備の世界大手。海底近くの石油や天然ガスが自噴する力をいかし、効率的に吸い上げるノウハウを持つ。メタンハイドレートも海面に近づくにつれて徐々に気化するため、培った技術を応用できるとみる。

三井海洋開発は試験機を開発し、産業技術総合研究所のプロジェクトに採択された。21年度内に北海道北見市で北見工業大学とメタンハイドレートを模した、縦横約3メートル、高さ2メートルの氷柱を使い、陸上での掘削実験を始める。

技術開発後は設備の販売などをめざす。浮体式設備の1基あたりの受注額は数百億円にのぼる見通しだ。

足元では水素の原料としては輸入に頼る天然ガスなどが多くを占め、水素原料の安定確保や価格面が課題だった。日本近海に眠るメタンハイドレートを活用できれば地政学リスクを避けながら、水素原料を調達できる。メタンハイドレートは燃やした場合に排出されるCO2が石炭や石油よりも3割ほど少ないといった利点もある。

政府は水素の導入量を50年に2000万トン程度に拡大する方針だ。そのためには価格を現状の1立方メートルあたり100円程度から、将来は20円に引き下げる必要があるとしている。メタンハイドレートについても一定の産出規模を確保し、輸入した液化天然ガス(LNG)と比べて価格面でも対抗できる水準を目指す。

三井海洋開発は採掘設備の建設や陸上までの輸送コストを含めれば、水素の調達コストは海外産を下回り、政府目標の達成に貢献できる可能性があるとみている。

水素原料の確保に向け、他のエンジニアリング会社も動く。メタンハイドレートの掘削技術の開発には三菱重工業傘下の三菱造船も乗り出している。海洋から海底鉱物を掘削する技術を応用し、掘り出したメタンハイドレートを分離装置を使って船に吸い上げる。

三井海洋開発などには新たな収益源を育てる狙いもある。主力の船舶や海洋構造物は新型コロナウイルス禍によるエネルギー需要の減少や中韓勢との競争の激化で事業環境が悪化している。脱炭素の流れで石油関連の採掘プロジェクトも減る可能性があるなか、次世代資源の開発に活路を見いだす考えだ。(西岡杏)

▼メタンハイドレート メタンと水分が結びついた氷状の物質で、「燃える氷」とも呼ばれる。天然資源が乏しい日本と国内のエネルギー需要が増え続ける中国などが技術開発を進める。「表層型」は上越沖の1カ所だけでもメタンガス換算約6億立方メートルと、日本の天然ガス消費量の約2日分の埋蔵が確認されている。同様の地質構造は日本海側を中心にほかにも1742カ所ある。