米、独ロガス計画に「近く制裁」 欧州に撤退迫る

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『天然ガスをロシアからドイツに運ぶパイプライン建設計画を阻止するため、トランプ米政権が制裁を近く発動する方向で検討していることが23日、分かった。発動すれば完工が遅れる可能性が高く、米独関係は一段と悪化しそうだ。米欧同盟の修復を掲げるバイデン次期米大統領の足かせになりかねない。

米政府高官が23日、日本経済新聞の取材に対し、独ロのパイプライン建設計画「ノルドストリーム2」をめぐり「とても近い将来に制…』

・欧州の政府や企業に撤退を促している。欧州側の反応を見極めて、制裁の是非を最終判断するとみられる。事業計画はバルト海を通って全長1200キロメートルのパイプラインを建設し、90%以上がすでに完成している。

・トランプ政権や議会はノルドストリーム2について、北大西洋条約機構(NATO)が最大の脅威とみなすロシアに対する欧州のエネルギー依存度が高まると懸念してきた。パイプラインは経済再建がおぼつかないウクライナを経由しないため同国のガス通過料収入が大きく減るとの弊害もある。

・2021会計年度(20年10月~21年9月)の米国防予算の大枠を定める国防権限法案はノルドストリーム2について制裁対象を拡大する条項を盛りこんだ。具体的にはパイプライン建設をめぐる保険や機器認証、敷設船の改良などに関わる企業や個人が追加対象になるとされる。米政権は既存の制裁権限に加え、新法の活用を検討しているとみられる。

・トランプ大統領は23日、米軍の海外駐留縮小を制限する条項などに反対し、国防権限法案に拒否権を発動した。ただ上下両院は3分の2の賛成多数で再可決し、法案は成立する見通しだ。

・米財務省で経済制裁を担当したブライアン・オトゥール氏は「トランプ政権が保険分野に対して最大限の制裁を発動すれば建設は確実に遅れ、潜在的には中止につながる可能性がある」と指摘する。ロイター通信によると、ノルドストリーム2の関係者は国防権限法案が成立すれば「欧州の少なくとも12カ国の120社以上が影響を受ける可能性がある」と主張している。

・トランプ政権がこのタイミングで制裁に踏み切れば、21年1月の任期切れ前に「米国第一」の方針を支持者にアピールできる。米国はNATOの条約5条に基づきドイツをロシアから守る義務を負うが、ノルドストリーム2のようにドイツはロシアとのビジネスを拡大させる。これをトランプ氏は「米国の納税者にとって不公平だ」と非難する。対米貿易収支の黒字を抱えるドイツにトランプ氏はほぼ一貫して批判的な立場をとってきた。

・オトゥール氏は、バイデン氏が大統領就任後、ノルドストリーム2を批判しながら制裁を封印し、外交的解決を目指すとみる。トランプ政権下で進んだ米欧同盟の亀裂の修復を外交政策の柱に据えるからだ。具体的にはロシアが欧州へのガス供給を停止した場合に備えて綿密な対応策を事前に練ったり、ウクライナへの経済支援を確約したりするよう欧州諸国に求めると推測する。

・トランプ政権が先手を打って欧州企業に制裁を科せば、バイデン氏の構想は狂いかねない。ノルドストリーム2への制裁には同氏を支える米民主党の大半が賛成しており、制裁解除にはハードルがある。ロシアは米政府機関に対して大規模なサイバー攻撃を実施したとされ、米ロ対立は激しさを増す。制裁解除はロシアにビジネスを認めることを意味し、米国内でロシアに弱腰との批判を浴びるリスクがある。

・ノルドストリーム2はロシア北西部と独北部を結ぶ。事業費は95億ユーロ(約1兆2000億円)とされ、ロシア国営ガスプロム傘下の事業会社に独仏などのエネルギー5社が最大10%ずつの資金を拠出した。輸送能力は年間550億立方メートルで、19年のロシアから欧州への天然ガスの輸出量の約4分の1に当たる。20年半ばの稼働を目指していたが、19年に米議会が制裁の権限を大統領に付与し、内容を明らかにしたため、スイス企業が敷設作業を中断した。(中村亮)

ロシアのプーチン大統領は制裁発動を示唆する米国にも強気の姿勢だ=ロイター

・【モスクワ=小川知世】ロシアは外国企業に頼らず自力でノルドストリーム2を完工させると強調する。同国のプーチン大統領は17日の記者会見で、ノルドストリーム2は「事実上、完成している。我々は作業を終えるだろう」と述べ、米制裁下でも自力で完工させる考えを強調した。

・ロシア国営ガスプロム傘下の事業会社は11日、2019年12月に明かされた米制裁を受けて中断したノルドストリーム2のパイプライン敷設作業を約1年ぶりに再開した。再開は19年の制裁対象外の水深が浅い区域だ。

・ロシアは米国が自国産の液化天然ガス(LNG)の輸出拡大をもくろみ、事業に圧力をかけていると非難してきた。

・ロシアのペスコフ大統領報道官は24日「(仮に制裁が強化されれば)事態が複雑になる可能性はあるが、欧州もロシアも(ノルドストリーム2の)実現に関心を持っている」と述べ、事業が欧州の利益になると改めて主張した。タス通信が伝えた。

・一方、ロシアのエネルギー調査会社ルスエナジーのミハイル・クルチヒン氏は「いずれ事業の断念を迫られる可能性がある」とみる。ロシアのウクライナなどに対する外交方針が変わらない限り、制裁解除は期待できないと指摘した。

ガスプロムの政治経済学(2016年版) (3)
https://jp.sputniknews.com/blogs/201610172901292/