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『世界経済は再び停滞が鮮明になってきた。日米欧の実質成長率は7~9月期に急回復したが、消費などの最新データをみると勢いの鈍化が目立つ。新型コロナウイルスの感染再拡大による欧州の都市封鎖などで人の移動も大きく減少してきた。株高や企業業績の上方修正など明るい動きもあるものの、感染拡大が続けば景気の下押し圧力が高まる可能性がある。
フランスの首都パリ市内のショッピングモール。例年ならクリスマス商戦に向けてにぎわうはずのおもちゃ売り場は、立ち入り禁止のテープが貼られたまま。経済活動の再開が、コロナ再拡大で逆戻りした。
米グーグルが集計したスマートフォンの位置情報データによると、パリを含む仏首都圏の商業・娯楽施設や職場などへの人出は、15日時点でコロナ流行前の半分強だった。パリの人出は9月に8割超まで回復していた。
仏政府は感染再拡大で10月30日からレストランやバーの店内営業を禁じるロックダウン(都市封鎖)を再導入した。ピーク時に5万人を超えた新規感染者数は約3万人まで減ったが、まだ安心できない。カステックス仏首相は12日、ロックダウンを少なくともあと15日間続けると表明した。
人出の落ち込みは消費者の購買意欲も冷ます。仏の消費者心理指数は米調査会社モーニング・コンサルトが算出する日次データでみると、11月に入ってから半年ぶりの低水準となる60割れが相次ぐ。1カ月前に比べ約1割低下し、4月に記録した感染第1波の水準(57前後)に近づく。
11月2日から飲食店の営業禁止など部分的なロックダウンに踏み切ったドイツも、新規感染者が2万人前後と高止まりし、封鎖解除のメドは立たない。メルケル独首相は16日「行動制限は成功のレシピ。もっとやる必要がある」と訴えた。
米国でもニューヨーク州が13日、レストランなどの営業を午後10時までに制限した。カリフォルニア州も16日「緊急ブレーキ」を発動し、人口の94%が住む41の郡の規制を最高水準に上げた。
米国では17日、新型コロナによる新規死者数が8月の「第2波」の水準を超えた。例年、帰省者が急増する感謝祭を26日に控えて「感染爆発」再来への警戒が強まる。
回復が鈍かった消費への打撃も避けられない。米ハーバード大研究者らの非営利組織「オポチュニティー・インサイツ」は、クレジットカード利用状況などをもとにコロナ禍前後の消費動向を指数化している。これによると外食と宿泊の消費回復はコロナ禍前の7割、娯楽では5割にとどまる。外出規制などの影響を受けやすいサービス業の低迷が目立つ。
7~9月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算した前期比で米国が33%増、ユーロ圏が61%増と急回復した。人出と消費心理の落ち込みは米欧景気が再び停滞するリスクを映す。欧州連合(EU)は5日、10~12月期のユーロ圏の実質成長率をマイナス0.1%に下方修正した。
日本は米欧に比べ経済活動の制限が緩く、15日時点の人出もコロナ禍前の85%程度と影響は限定的だ。しかし新規感染者が最多の2000人超に達しており、今後の展開次第では経済停滞を招きかねない。
春は20カ国・地域(G20)が計11兆ドル(約1140兆円)規模の財政出動で足並みをそろえたが、今回は米欧の政策対応の不透明感が強い。米国では追加財政出動が宙に浮き、EUも域内対立でコロナ禍からの復興基金の成立が遅れている。
年内の出荷開始へ希望も見え始めたワクチンが普及するまで景気の底割れを防げるか。経済再開の本格化まで「橋を架ける」(欧州中央銀行のラガルド総裁)役割が政策に問われている。
(平野麻理子、西野杏菜、ベルリン=石川潤)』