EU復興基金成立遅れ 「法の支配」条件、東欧反発

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【ブリュッセル=竹内康雄】欧州連合(EU)の首脳が7月に合意した復興基金案の成立が遅れている。基金からの資金分配について、権力の乱用を法で縛る「法の支配」の順守を条件とすることにハンガリーとポーランドが反対しているためだ。新型コロナウイルスによる打撃を和らげる基金が2021年から稼働できなければ、欧州の景気回復に影を落とす。

ハンガリーのオルバン首相はEUの復興基金案に反対する(10月のEU首脳会議)=ロイター

「拒否権を発動した」。ハンガリー政府報道官は16日、ツイッターに21年からのEU中期予算案と復興基金案に反対したと投稿した。AP通信によると、同国のオルバン首相はEU議長国ドイツのメルケル首相とミシェルEU大統領らに宛てた書簡で「全体で合意するまで(特定の)何かに合意することはない」と、法の支配の問題が解決されない限り、両案に同意しない考えを伝えた。

EU首脳は7月、7500億ユーロ(約94兆円)規模の復興基金案で合意した。復興基金は21年から7年間のEU中期予算の一部として、新型コロナウイルスの被害の大きい地域に資金を供給するために設けられる。新型コロナで傷ついた経済の回復を後押しする。

7月の首脳の合意文書には「法の支配の尊重を重視する」と明記したが、資金分配とどうひも付けるかは定めていなかった。合意案をもとに欧州議会とEU閣僚理事会が折衝を重ね、11月10日に合意に達した。

今回の合意には法の支配の順守と資金分配を関連付ける仕組みが明記された。法の支配などEUルールを守らない場合、EU独自の「特定多数決」で資金拠出などを停止できる。特定多数決は「加盟国の55%以上」かつ「域内人口の65%以上」が賛成する必要がある。

これらの合意内容にハンガリーとポーランドは強く反発した。ポーランドのジョブロ法相は16日の記者会見で「ポーランドの主権を大きく制限する内容だ」と批判した。EUは16日の大使級会合での基金案と予算案の合意を目指していたが、両国が反対して結論を持ち越した。

EUにとって法の支配は人権や民主主義などと同様に基本的な価値観の一つ。だがEU本部や西側の欧州諸国はハンガリーとポーランドで法の支配が後退していると懸念を強めている。政権がメディア支配を強めたり、司法制度の独立性を脅かしたりする動きがある。

復興基金はコロナの被害が大きい南欧を中心に経済立て直しを支援する。スペインは基金からの資金を前提に経済対策を練っており、同国のカルビニョ経済相は「数日内に解決されることを望む」と焦りを募らせる。21年から基金が稼働できなければ欧州の景気回復が遅れるリスクが高まる。

EU各国の欧州問題担当相は17日、テレビ会議で打開策を探る。EU首脳も19日にテレビ会議を開くが、現時点での議題は新型コロナ対策。情勢次第で復興基金問題も討議する可能性がある。

復興基金を巡っては欧州の結束が揺らぐ事態が目立つ。7月の首脳間の合意の際はオランダなど北部欧州を中心とする「倹約国」グループと、コロナの被害が大きいイタリアなどの南欧が規模や使い道で対立した。法の支配の議論では対立軸が東欧と西欧に移った。

東欧諸国もEUの中期予算からインフラ整備などの恩恵を受けるため、最終的には矛を収めるとの見方はある。だが今回は政権の理念に関わる問題でもあり、議論が長引く可能性がある。最終的に議長国のメルケル氏が仲介に乗り出すとの観測も出ている。EU高官は16日、記者団に合意を見いだせなければ「深刻な政治危機になる」と嘆いた。