https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63446770U0A900C2EAC000/
※ 台湾有事の前に、そもそも南シナ海の人工島を、米軍が攻撃する…、という事態の可能性もある…。
※ その時、日本国は、米軍に対して、何らかの支援が可能なのか…。
※ そういう事態に対応できる、法制が整っているのか…。





『日本からも遠くない南シナ海の情勢について、高安彰子さんと堀江貴子さんが高橋徹アジア総局長に聞いた。
――南シナ海では何が問題になっているのですか。
多くの国・地域に囲まれた南シナ海に、中国は「九段線」と呼ぶ独自の境界線を設定し、広大な海域の大半が自らの主権の範囲内にあると主張してきました。こうした動きに対しベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾がそれぞれ自らの領有権を訴え論争になっています。
中国が九段線を言い始めたのは1950年ごろからです。軍事力を使い、徐々に実効支配の範囲を南へと広げてきました。ベトナムとは1974年と88年の2度、軍事衝突を起こしています。近年は埋め立てや軍事施設の建設、示威活動を続けています。
南シナ海は、世界の貨物の3分の1が行き交うという海上輸送の大動脈です。漁獲量は1割超を占め、石油・天然ガスを含めた天然資源も豊富です。中国は力ずくで自国の支配下に置こうとしているのです。
――中国の言い分に根拠はあるのですか。
中国は「南シナ海の島々は歴史的に中国固有の領土である」と主張してきました。ところがフィリピンからの提訴を受けたオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、九段線には国際法上の根拠がないと断定しました。
仲裁裁が論拠としたのは、1994年に発効した国連海洋法条約です。中国も締結国のひとつで、判決に従う義務があります。ところが中国は判決を「紙くず」と呼んで無視を決め込み、むしろ実効支配を加速しました、力によって国際法の秩序に挑戦する行動が、周辺諸国の強い警戒を引き起こしてきたのです。
――なぜいま、緊張が高まっているのですか。
7月半ば、米国が中国の言い分を「完全に違法」と断じたからです。中国の強引な進出をけん制しつつも、中立的な立場から当事者に平和的な解決を促してきた姿勢を、転換しました。背景には中国が4月以降、南シナ海での示威行為をエスカレートさせたことがあります。巡視船がベトナム漁船に体当たりして沈没させたり、マレーシアの国営石油会社が資源開発する海域に調査船を派遣し、探査の動きをみせたりしました。
世界が新型コロナウイルスへの対応に追われるなか、支配を既成事実化しようとする中国の手法に、米国は危機感を強めました。貿易戦争から始まった米中対立が南シナ海にも波及したといえます。
東南アジア各国は米国の肩入れを無条件には歓迎していません。中国に経済面で依存している国が多く「米中どちらか」の選択は避けたいのが本音です。米国の同盟国であり、仲裁裁への提訴の原告だったフィリピンが、米中両国と一定の距離をとる構えをみせているのが象徴的です。
――今後の見通しはどうでしょうか。
米国は中国の主張を完全否定した後、原子力空母2隻を南シナ海へ派遣して軍事演習を重ね、中国をけん制しています。負けじと中国も、同じ海域で実弾演習を実施しました。互いが対抗措置を競うなかで、偶発的な衝突が起きる可能性は否定できません。
一方で中国は東南アジア各国と、南シナ海での各国の活動を法的に規制する「行動規範(COC)」の策定作業を急いでいます。外交筋によれば、中国はCOCについて(1)海洋法条約の適用外とする(2)域外国との合同軍事演習に関係国の事前同意を義務付ける(3)資源開発を域外国とは行わない――といった条項を盛り込むよう迫っています。
日本にとっても南シナ海は中東からの原油輸入の通り道であり、中国が沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張するなか、人ごとではありません。各国と連携し、中国に強く自制を求めていく必要性がますます高まっています。
■ちょっとウンチク 東南ア、どう味方につける
南シナ海を巡る米中のけん制合戦は一段とエスカレートしている。8月26日、中国が同海域へ弾道ミサイルを発射したのに対し、米国は軍事施設の建設に関わった中国企業に禁輸措置を発動した。片や軍事的な示威、片や経済制裁の応酬の先に、軍事衝突の懸念は高まりつつあるようにみえる。
フィリピンなどが最も恐れるのは、自国の「庭先」で米中が戦争を始める事態だ。それを防ごうと、中国とのCOC交渉で妥協し、締結を優先する展開もあり得る。米国は独善的に対中圧力を強めるだけでなく、東南アジア各国をどう味方につけるかが肝要だろう。
(アジア総局長 高橋徹)』