GDP1万倍の街、深圳特区40年 米中対立の最前線に

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『【深圳=比奈田悠佑】中国南部の広東省深圳市が経済特区に指定されて26日で40年たった。市場化改革の実験場として中国経済をけん引し、経済規模は1万倍になった。通信機器の華為技術(ファーウェイ)など有力な民間企業を多く生んだが、米中対立や香港問題でかつてない逆風が吹く。

さびしい漁村だった深圳市は1980年、中国初の経済特区に指定されると急速に発展した。2019年の域内総生産は2兆7千億元(約40兆円)と上海、北京に次ぐ中国第3位の都市だ。1980年比の経済規模でみた深圳の1万倍は、中国全体(216倍)はおろか、同じ時期に特区になった広東省珠海市(1600倍)や福建省アモイ市(900倍)も大きく上回る。

テレビの品質をチェックする工員(1982年、深圳市)=新華社・AP
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成長の起爆剤が緩い規制だ。輸入関税や法人税を減免し、外資をはじめ多くの製造業が深圳市に工場を建設した。競売による国有地使用権の民間払い下げや企業破産は深圳で全国に先駆けて実施された。かつての計画経済から市場経済への改革開放のモデル都市になった。

中国国務院(政府)の研究者は「政府が民間経済に介入しなかったことが深圳の成長の秘訣」とみる。北京と深圳の双方で勤務経験のある銀行員は「北京の監督当局は『とにかく法律や規制を守れ』の一点張り。深圳の役人はまず『何か困っていることはないか』と聞いてきた」と話す。

深圳が香港と隣接していることも成長に有利に働いた。安価な労働力を求める外資系電機メーカーなどが香港経由で深圳市に進出し、加工貿易の産業集積地となった。電子部品の製造、流通はいまも盛んで国内外のメーカーを引きつける。

ライトアップされた中国・深圳のビル群(2019年)

40年しか歴史がなく、国内各地から人材が集まる「移民都市」として街が形成されたことも魅力だ。工場での仕事を求めて地方から流入した労働者や子世代はその後、通信やネット企業の発展を支えた。大都市となったいまでも戸籍の取得条件は北京や上海より緩く、中国全土の若者が集まる。平均年齢は32歳と中国全土(38歳、中央値)より若い。

ロボット掃除機の製造ライン(2019年、深圳市)=ロイター
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深圳発のグローバル企業は多い。ファーウェイは通信基地局で世界首位の3割超のシェアをにぎり、20年4~6月期にはスマホ出荷でも世界首位に立った。ネットサービスの騰訊控股(テンセント)は「フォートナイト」を開発する米エピックゲームズなど世界のゲーム開発会社やフィンテック企業に積極出資する。ドローンのDJIは米国や日本など先進国で大きな収益を上げる。

グローバル企業が多い分、米中摩擦の打撃も大きい。米政府はファーウェイ製品を使う企業と政府機関の取引を禁じ、同盟国にも排除を呼びかける。米国の技術を用いて製造した半導体やソフトウエアの同社への供給も絞る。米国で1900万人が利用するテンセントの対話アプリ「微信(ウィーチャット)」も米国で禁止される見通しだ。

特区成立30周年の記念式典に出席した胡錦濤・元国家主席(2010年9月、深圳市)=ロイター
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香港での国家安全維持法の施行も逆風となる。「一国二制度」の香港は世界から中国への玄関口となり、隣接地の深圳も大きな恩恵があった。国家安全維持法で香港の競争力も陰りそうで、香港経由のカネや人の流入が鈍れば深圳への打撃は小さくなさそうだ。

もともと人件費の高騰や不動産バブルで工場立地拠点としての深圳の魅力は衰えており、市政府の危機感は高まる。

8月中旬には全国で最も早く高速通信規格「5G」の基地局を市内全域に整備した。7月にはIT産業や製造業を活性化するため、高速通信網やデータセンターなどのインフラを整備する計画も打ち出した。25年までに官民で4119億元(約6兆円)を投じる。

深圳市の特区成立を巡っては、秋に国家主席が現地を訪れて祝う慣例がある。20周年に江沢民(ジアン・ズォーミン)氏、30周年には胡錦濤(フー・ジンタオ)氏が記念式典に参加した。今年は隣接する香港の情勢が緊迫するなか、習近平(シー・ジンピン)国家主席の深圳入りがいつ実現するか、どんなメッセージを発するか注目される。

改革開放と経済特区 中国建国の父、毛沢東が発動した文化大革命で荒廃した国内経済を立て直すため、鄧小平氏は1978年に改革開放にかじを切った。計画経済を見直し、ヒトやカネの動きを市場に委ねる試みで、海外企業を誘致するために経済特区が設けられた。80~81年に広東省深圳市、珠海市、汕頭市、福建省アモイ市が経済特区となった。深圳は企業へ積極的に工業用地を貸し出したりして資金を捻出、水道や道路などのインフラを整備して加速度的に発展した。』