【米大統領選2020】 どういう仕組みかなるべく簡単に解説

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53798070 

『アメリカ合衆国の大統領は、世界全体に大きな影響力を持つ。戦争や気候変動、感染症のパンデミック(世界的流行)など、国境を超える問題に対する世界の取り組みに、超大国アメリカは大きな影響力を持つからだ。

そのため、4年ごとの大統領選のたびに、勝ち負けの結果に注目が集まる。その一方で、その勝敗がどうやって決まるかのプロセスについては、良く分からないという人も多い。BBCニュースの中でも、選挙人団の仕組みや激戦州とは何か、あらためて確認しなくてはならないほどだ。

そのため、今回の投票日11月3日までに、大統領選の仕組みについて予習・復習しておきたい人のために、簡単に解説する。

選挙はいつで候補は誰か
アメリカ大統領を決める選挙の投開票日は、11月の最初の月曜の翌日の火曜日と決まっている。今年が11月3日だというのは、そのためだ。

アメリカ政界では19世紀後半以降、共和党と民主党が二大政党として圧倒的な力を維持してきた。そのため、近現代の大統領は常にそのいずれかの党に所属してきた。

今のアメリカでは共和党が保守的な政党で、現在は与党だ。現職のドナルド・トランプ大統領が2期目の再選を目指している。

共和党は「Grand Old Party(偉大な伝統ある政党)」を自称し、その略称「GOP」とも呼ばれる。財政的な保守の側面と、社会的保守の側面を併せ持ち、近年では減税や銃保有権の促進、移民規制の強化などを打ち出してきた。また20世紀後半から農村部の支持を伸ばしてきた。

トランプ氏以前の共和党の大統領には、ブッシュ親子やロナルド・レーガン、ジェラルド・フォード、リチャード・ニクソン各氏がいる。

これに対して今の民主党はリベラル政党で、今年の大統領候補にはオバマ政権の副大統領を2期8年務めたジョー・バイデン氏が決まった。

トランプ氏は現在74歳で、バイデン氏は78歳。もしバイデン氏が当選すれば、就任時に過去最高齢の米大統領になる。

勝敗はどうやって決まる
全国的に一番たくさんの票を得た候補が勝つ……わけでは必ずしもない。2016年には民主党のヒラリー・クリントン氏が、トランプ氏よりも300万票近く多くの票を獲得した。しかし、それでも勝ったのはトランプ氏だった。

これは、トランプ氏がクリントン氏よりも、多くの「選挙人」を獲得したからだ。

アメリカの大統領選では、まず州の人口ごとに「選挙人」が割り当てられている。総数は538人なので、当選に必要な人数は270人だ。

有権者はそれぞれ、共和党の候補に投票にするのか、民主党の候補に投票するのかを決める。その票は州ごとに集計され、票数に応じてその州がもつ選挙人が、いずれかの候補の持ち分となる。

ほとんどの州では、最も多く得票した候補がその州の選挙人全員を獲得する。得票率で選挙人を配分する州は、メイン州とネブラスカ州の2州のみ。

こうしてどちらの候補の持ち分か決まった選挙人が、最終的に有権者の民意に反して大統領候補を選ぶことはまずない。

ほとんどの州は伝統的に、支持する政党が決まっている。そのため候補たちはそれ以外の、両党の間で「swing state(揺れる州)」、いわゆる接戦州や激戦州と呼ばれる州に選挙活動を集中させる。

激戦州で、しかも人口が多く選挙人の数も29人と多いフロリダ州が重視されるのはこのためだ。選挙人18人のオハイオ州も、激戦州のひとつ。

選挙人が最も多いカリフォルニア州(55人)とニューヨーク州(29人)は伝統的に、リベラルな民主党の牙城とされる。

共和党は中西部で伝統的に強いが、共和党候補を長年支持してきたテキサス州やアリゾナ州で民主党が支持を伸ばしているため、激戦州になりつつあると言われている。テキサス州の選挙人は38人と、カリフォルニア州に次いで多い。

アメリカのこの「選挙人団」による間接選挙の仕組みには、他の選挙制度と同様に長所と短所がある。とはいえ、人口が集中する都市部以外の有権者の民意も反映しようと、アメリカ建国当時の議論の中から生まれた仕組みで、200年以上にわたりほとんどの場合は、選挙人による勝敗は、全国的な得票数による勝敗と一致してきた。しかし、過去5回の大統領選で2回、これが一致しなかったことがある。ジョージ・W・ブッシュ氏が勝った2000年と、2016年にトランプ氏が勝った2016年だ。

誰がどうやって投票するのか
アメリカ国民で18歳以上なら、大統領選で投票する資格がある。

しかし、多くの州には、投票前に身分証明書を提示しなくてはならないという州法の決まりがある。

こういう規制を導入するのは多くの場合、共和党だ。共和党は、不正投票を防ぐ必要があるからだと言う。これに対して民主党は、これは一種の投票妨害だと批判する。多くの場合、運転免許証などの身分証明書を提示できないのは、貧しい少数者の有権者だからだと民主党は言う。
(※ 前に言った、「直接に”民意”が流入するのを、「防止する」仕組み」の一つだ…。)

ほとんどの人は投票日の当日に、投票所で票を入れる。しかし、近年ではそれ以外の投票方法とその利用者も増えてきた。2016年には投票した人の21%が郵便で投票した。

今年の大統領選では、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、投票方法が議論の対象になっている。郵便投票の拡大導入を求める政治家がいる一方で、トランプ大統領はほとんど根拠を示すことなく、郵便投票は不正投票につながると発言を続けている。

郵便投票による不正は過去に、共和党と民主党の双方に散発的に起きている。しかし、全国規模や州規模の複数の研究が実施されているが、広範な不正があったという証拠は見つかっていない。

2016年には約2億4500万人が有権者だったが、実際に投票したのは1億4000万人未満だった。米国勢調査局によると、有権者登録をせずに投票しなかった人の大半は、自分はともかく政治に興味がないのだと答えたという。有権者登録したものの投票しなかった人の多くは、どちらの候補者も気に入らなかったからだと答えた。

刑務所で服役する受刑者の投票する権利についても、州ごとに規則が異なる。ほとんどの州では、有罪判決を受ければ参政権を失うが、刑期を終えれば権利が復活する決まりになっている。

11月3日に選ばれるのは大統領だけ?
Congress画像提供,GETTY IMAGES
いいえ。

世界の注目は、トランプ対バイデンに集中するが、有権者は連邦議会議員も同時に選ぶ(副大統領候補のマイク・ペンス副大統領とハリス上院議員への投票は、大統領候補への投票とセットで、個別には行わない)。

連邦議会の上院(定数100)の議員の任期は6年で、議員の3分の1が2年ごとに改選される。そのため今回の改選対象は33人。

下院(定数435)の議員任期は2年で、2018年11月の中間選挙に続き、今回も435人全員が改選対象となる。

上院は現在、与党・共和党が53議席で多数党。下院は野党・民主党が232議席で多数党。

両党とも、両院での多数党を目指している。

連邦議会は立法府として、連邦政府の予算決定や閣僚人事の承認権など、様々な権限を持ち、大統領(行政府)に対するチェック機能を持つ。

たとえば民主党は昨年の中間選挙で下院を奪還したことで、トランプ大統領を弾劾訴追したほか、トランプ政権に様々な圧力をかけてきた。

今年11月の選挙で上下両院の多数党がどちらになるかは、ホワイトハウスの住人がどちらになるとしても、その政策の実施に大きな影響を与える。

結果はいつ分かる?
最後の一票まですべての票を数え終わるまでには数日かかることがあるが、通常は翌日未明の時間までに勝者が判明している。

11月8日が投票日だった2016年には、トランプ氏は9日午前3時ごろに大歓声の支持者たちの前に立ち、勝利演説をした。

けれども今回はそういうわけにはいかないかもしれない。各州の選挙管理委員会はすでに、予想通りに郵便投票が急増すれば、結果判明までに数日、場合によっては数週間かかる可能性があると述べている。

アメリカでは選挙当日に投票所に行くか、その前に郵便投票するしか、投票方法は認められていない。しかし細則は州ごとに異なり、一部の州では郵便投票するには選挙当日に投票所に行けない理由を提示する必要がある。新型コロナウイルスの感染予防を有効な理由として認めている州もいくつかあるが、すべての州ではない。

投票締め切りから数時間の内に勝者が判明しなかった直近の事例は、ジョージ・W・ブッシュ対アル・ゴアの2000年選挙だ。フロリダ州で再集計を求めるゴア陣営に対し、ブッシュ陣営は再集計停止を求め、法廷闘争が1カ月以上続いた後、連邦最高裁が12月12日に再集計を実質的に中止させる判断を示した。つまり、この時は大統領が決まるまでに1か月以上かかったことになる。

当選者はいつ就任するのか
The presidential podium outside the White House画像提供,GETTY IMAGES
現職のトランプ氏が再選しても、挑戦者のバイデン氏が初当選しても、就任式は来年の1月20日に連邦議会の前で行われる。

バイデン氏が次期大統領になった場合は、11月から就任式までの期間は移行期間となり、組閣作業が行われる。

就任式を終えた大統領はホワイトハウスに入り、4年間の任期が始まる。

(英語記事 US election 2020: A really simple guide)』

貨物ファースト? 海の森に現れた「裏方の花道」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00110/00193/ 

『「東京港にできた海の森大橋へ向かってほしい」。こう頼まれて迷わず到着できる人はほとんどいないはずだ。カーナビの地図にもまだ登録されていない地点かもしれない。

 海の森大橋は、東京・お台場の先、中央防波堤内側埋立地(江東区海の森)と外側埋立地の間に架かる橋長249.5mのアーチ橋だ。2020年6月20日に開通した。工事期間中は東西水路横断橋と呼ばれていた。

海の森大橋。開通前日の2020年6月19日に撮影(写真:大上 祐史)
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 同日には、お台場に隣接する有明地区と内側埋立地を結ぶ海底トンネル「東京港海の森トンネル」も開通した。「海の森大橋」と「海の森トンネル」を含む道路の正式名は「東京港臨港道路南北線および接続道路」と呼ばれる。

 知る人ぞ知る場所にできた新しい橋とトンネルへ、開通前日に訪れてみた。

(資料:東京都)
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 中央防波堤地区はごみの埋め立て処分によって造成されたエリアだ。海の森大橋が架かる内側埋立地と外側埋立地との間の水路は、東京五輪でカヌーやボートの競技が催される「海の森水上競技場」となる。臨港道路南北線は五輪の大会期間中、選手や関係者の輸送路として活躍する見込みだ。

 ただし、国土交通省と東京都が臨港道路南北線を整備したのは、五輪のためではない。「貨物ファースト」ともいえる別の目的があった。

 東京港の沿岸部にはコンテナ埠頭が多数ある。外側埋立地の一画でも、新たなコンテナ埠頭の整備が続いている。

中央防波堤外側埋立地で整備が進むコンテナ埠頭を西側から望む。写真中央やや左奥に海の森大橋のアーチが見える(写真:日経クロステック)
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 中央防波堤地区からは、臨海トンネルや東京ゲートブリッジがある東京港臨海道路を使って東西に移動できる。また、都心部に向かう南北方向の移動は、既存の青海縦貫線を利用すればよい。

 ところが、貨物取扱量の増加に伴って近年、トラックやトレーラーなどによる深刻な渋滞が周辺で発生。臨港道路南北線は、こうした都市の物流機能を裏方で支える混雑緩和の切り札として整備されたのだ。臨港道路南北線および接続道路の概要は以下の通り。

・開通区間:10号地その2地区(江東区有明4丁目)-中央防波堤外側地区(同区海の森3丁目地先)
・延長:約3.7km
・車線数:往復4~6車線
・事業期間:2014~20年度
・総事業費:約1900億円
 前後のアプローチ道路を含めたトンネル区間を国土交通省が、海の森大橋や東京港臨海道路との接続部などを東京都がそれぞれ整備した。工事期間は15年10月から19年11月。海の森大橋や海の森トンネルといった名称は、一般公募で19年12月に決定した。

約4年の短工期で完成した海の森トンネル
 報道関係者に公開された開通前日、筆者はまず、中央防波堤内側埋立地から有明地区方面に向かってみた。

 内側埋立地の周辺に一般車はほとんど見かけない。代わりに大型トラックが目立つ。お台場との距離はそう遠くないものの、周辺に商業施設や観光地がないので、当然といえば当然だ。

 海の森大橋の北側から海の森トンネル方面を望む。左手には東京二十三区清掃一部事務組合が運営する中防不燃ごみ処理センター、右手には東京都建設発生土再利用センターがある。正面奥には、お台場のパレットタウンにある大観覧車も見える。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルの入り口が見えてきた。陸上のアプローチ道路を含む総延長は2459.5mある。

(写真:大上 祐史)
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 掘割になったアプローチ道路を進み、海底トンネルへ向かう。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルの海底部は沈埋工法で施工した。沈埋函と呼ぶ巨大な箱型のトンネルを海底に沈めて設置する工法だ。約1年前の19年7月には沈埋函の完成を披露する見学会が催された。沈埋函の据え付けから1年足らずで道路が供用されたことになる。
(関連記事:お台場の先で海底トンネルひそかに貫通、五輪の輸送路にも)

(写真:大上 祐史)
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 沈埋工法には以下のような特徴がある。

海底の浅い場所に設置できるので、前後のアプローチ道路を含めた総延長を短くできる
海底の大きな支持力を必要としないため、軟弱地盤にも対応できる
造船所のドックなどで製作するため、水密性が高く高品質なトンネルを築造できる
 海の森トンネルの沈埋函は、7つの函(1~7号函)で構成されている。1つの函は長さ約134m、幅約27.8m、高さ約8.35mで、これまでに国内で製作した沈埋函の中では最長だ。ドックなどで製作した後、現地へ曳航(えいこう)して海底に沈めた。7つの函の延長は合計で930.8mになる。

(資料:国土交通省)
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 この規模の沈埋トンネルは通常、8年から10年の工期を要する。しかし、海の森トンネルは約4年という短い工期で完成した。工期を短くするため、以下のような工夫を盛り込んだ。

・沈埋函の数を減らす
・陸上部のアプローチ道路の勾配を大きくして、施工延長を短くする
・沈埋函の最終接合の継ぎ手を省略できる「キーエレメント工法」を採用する
・沈埋函の製作場所をドックと海上に分散する
 道路の側面には消火設備や非常口がある。非常口の扉を開けると、安全な避難通路を通って地上へ避難できる。

(写真:大上 祐史)
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 トンネル内を車で走行していると、いくつかの継ぎ目がある。これは沈埋函の接合部ではなく、沈埋函のクラウンシール継ぎ手部分の舗装面伸縮装置になる。

(写真:大上 祐史)
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 クラウンシール継ぎ手は、沈埋トンネルの不等沈下や地震動に伴う大変形に追従できるように、函体内部に設けた可とう性の継ぎ手だ。従来の一般的な沈埋函の端部に設ける継ぎ手よりも、2倍以上の変形吸収性能を持つ。

五輪で世界にお披露目できるか
 折り返して、今度は臨港道路南北線を有明地区から中央防波堤地区方面へ戻る。

(写真:大上 祐史)
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 海の森トンネルを抜けると、中央防波堤内側埋立地に出る。直進して海の森大橋を渡ると、外側埋立地へ行ける。外側埋立地では、臨港道路南北線が東西方向に走る東京港臨海道路に接続する。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋は、内側埋立地と外側埋立地の間にある東西水路をまたぐ。橋長249.5m、幅員34.3m、鋼量約6300t。アーチ橋の一種で、厳密には鋼単純ニールセンローゼ橋と呼ばれる。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋の架設は、長大なアーチを海上に浮かべた台船から一括架設するという難しい工事だった。
(関連記事:アーチを台車ごと船に載せ一括架設)

 まず、架設地点から400mほど離れた場所でアーチを地組みする。次に、アーチを載せた多軸台車ごと台船に移動。「ロールオン」と呼ぶ手法だ。その後、台船で架設地点まで運び、潮位変化などのタイミングを見計らってアーチを橋台に据え付けた。

(資料:国土交通省)
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 ロールオン作業はまず、あらかじめ編成しておいた多軸台車を台船に載せて海上から運搬し、地組みしたアーチの下へ滑り込ませる。次に、アーチを多軸台車で支え、台船に移動した。

(資料:国土交通省)
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 海の森大橋の銘板は、小池百合子東京都知事による揮毫(きごう)だ。漢字と平仮名の2種類が橋の両側に設置されている。

(写真:大上 祐史)
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 海の森大橋が架かる東西水路は、両端を締め切って「海の森水上競技場」として整備した。東京五輪ではカヌーやボートの競技を実施する。五輪後も国際大会が開催できる競技場や選手の育成拠点として使われる計画だ。

海の森水上競技場のイメージ図。図の左上に海の森大橋が見える(資料:東京都オリンピック・パラリンピック準備局)
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 海の森大橋を外側埋立地に向かって進む。

(写真:大上 祐史)
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 東京港臨海道路との交差点に着いた。直進すると中央防波堤外側コンテナふ頭、左折すると東京ゲートブリッジへ向かうことができる。

(写真:大上 祐史)
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2012年に開通した東京ゲートブリッジを東側から望む。写真奥が中央防波堤地区(写真:日経クロステック)
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 海の森大橋や海の森トンネルの開通によって、物流機能の効率化や国際競争力の強化などが期待できる。東京五輪が開催され、各国のメディアを通して世界の人々の目に入ることを願うばかりだ。』

構造家が間近で見たレンゾ・ピアノのすごさ(前編)

https://xtech.nikkei.com/kn/atcl/bldnews/15/101200954/ 

『近年のインバウンド需要を追い風に、次々と商業施設の建て替えが進む東京・銀座――。数寄屋橋交差点の近くに立つ「メゾン・エルメス」はレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ(RPBW)が設計し、2001年にオープンした。地震時に“浮き上がる柱”の構造を持ち、洗練されたデザインのなかに日本の技術が宿る現代建築だ。

構造設計を担当したArup Japanシニアアソシエイトの金田充弘氏は、「レンゾ・ピアノは初め、ガラスブロックをカーテンのように上から吊り下げたいと話していた。ベールに包まれたような透明な内部空間を求めていたので、それを実現するために必要かつ主張しないテクノロジーを考えた」と語る。

 ビルは地下3階、地上11階。柱を極力細く見せるため、地震力は店舗の背後の架構で受けるようにした。そうすることで、ビルは細長い敷地に合ったスレンダーな構造体となる。加えて、地震時に浮き上がる仕組みの柱とすることで、そうでない柱に比べると引張力を3分の1以下に抑えられ、550mm角まで柱を細くできた。

 「地震時に浮き上がる柱は、世界初の試みだった。だが、カリフォルニア大学バークレー校に通っていたとき、米・サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジの橋脚を補強する実験をしていたので、浮き上がることで地震力を受け流すことはもともと頭にあった。メゾン・エルメスで突然思い出したのは、それほど追い込まれていたからかもしれない(笑)」と、金田氏は振り返る。

とはいえ、レンゾ・ピアノ氏や、クライアントのエルメス担当者は浮き上がる柱の構造を受け入れてくれるだろうか。プレゼンテーションの前、金田氏は不安だったという。だが、浮き上がることで地震力を受け流すコンセプトを伝えると、両者ともすぐに合意した。「説明の際に、同様の構造で長年立ち続けている五重塔を例に出したことで、すんなりと納得してもらえた」と金田氏。

 実際に設計が進むなかで金田氏が衝撃を受けたのは、RPBWのつくるスタディー模型は圧倒的に高いクオリティだったことだ。日本では紙やポリスチレンフォームなどで模型をつくることが多い。一方でRPBWがつくる模型は木がベースだ。それぞれのメリットはあるが、文化の違いを感じたという。

 「模型の素材に対する感覚が研ぎ澄まされていて、模型でも作品のようなクオリティ。設計者というよりは、船大工さんがつくる模型のようで、そのまま持って帰りたくなるようなものだった」

またあるときは、RPBWのパリオフィスに行ってみると、メゾン・エルメスの1層分の原寸大モックアップが用意されていたことがあった。まだ設計の途中にもかかわらず、設計事務所が原寸大で用意するのは非常に珍しい。

写真は、レンゾ・ピアノ財団の中庭に置かれている高さ10m以上の巨大な模型。ニューカレドニア・ヌメアにあるジャン・マリー・ティバウー文化センターを設計する際に使った(写真:日経アーキテクチュア)
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 「今ではCGなどで完成イメージをクライアントに見せられるが、それでも分からない部分はある。ましてや15年以上前の設計当時、ガラスを通した光の印象を原寸大で確認することは非常に重要だった。“感覚的に理解する”というものづくりの精神を学ぶ機会となった」

 RPBWでは、プロジェクトの設計依頼を受けて契約する際、必ず原寸大モックアップの制作をクライアントに説明し、承知してもらう。そして原寸大のモックアップを見ながらクライアントと細部まで確認し、意見を交換するようにしている。

 設計の完成品を最後に押し付けるのではなく、クライアントと設計過程を共有しつつ、納得のいく建築を目指すレンゾ・ピアノ。おそらくそうしたクライアントとのコミュニケーションの取り方も、必要性を感じているだけでなく、心底、ものづくりが好きだからこそ生まれた姿勢なのかもしれない。』

Q.波打つ屋根が架かる平成を代表する大空間、ここはどこ?

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00649/080900035/

『今回は、日経アーキテクチュアの2019年4月11日号で特集した、「目利きが選ぶ『平成の10大建築』」の中からの出題です。建築分野のキーパーソン20人に「私の平成建築10選」を挙げてもらい、その得票数で「平成の10大建築」を選定しました。

 波打つ大屋根が印象的なこの建物も、平成の10大建築にランクインしています。竣工したのは1994年。写真は建物の天井部分です。

 さて、何の施設でしょうか?

銀座線渋谷駅
関西国際空港旅客ターミナルビル
横浜港大さん橋国際客船ターミナル

正解はこちら
2.関西国際空港旅客ターミナルビル

(写真:日経コンストラクション)
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 関西国際空港旅客ターミナルビル(現・第1ターミナルビル)は、94年9月に開港しました。設計はイタリアの建築家、レンゾ・ピアノ氏です。パリ空港公団による基本構想を基にして国際設計競技が行われ、15の指名参加者の中からピアノ氏が選ばれました。

 建物は出発ロビーや入国審査、商業施設などの機能を収めた中央のメインターミナルビルと、南北両側に延びて搭乗ゲートが並ぶウイングから成ります。全体で翼を広げた鳥の姿を思わせます。

(写真:松村 芳治)
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 全長1.7kmにも及ぶ長いウイングは、遠くから見ると微妙にカーブしているのが分かります。これは地表のはるか下に中心を持つ半径16.4kmのリングを切り取ったもの。こうしたジオメトリー(幾何学)を採用することで、複雑な3次元曲面でも合理的にステンレスパネルで覆うことが可能になりました。

 一方、メインターミナルビルには波打つ大屋根が架かり、内部に柱がない巨大なロビーを実現しています。

(写真:松村 芳治)
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 注目を集めたのは、独特の空調システムです。地上4階にある国際線出発階の天井には、スパンが約80mのアーチトラスの間に、フッ素樹脂膜のオープンエアダクトが、帆のようにつられています。

 端部に設けたジェットノズルから毎秒7mの風速で吹き出す空気は帆に沿って流れ、大空間を効率よく快適に保ちます。天井の絶妙な断面の曲線は、空気の流れやすさを考慮して決めています。

 この施設を平成の10大建築に推薦した1人である、建築ジャーナリストの磯達雄氏は、「90年代は地球環境問題が大きなテーマになり、建築も強く対応が求められた。この課題にデザインで応えようとした、エコテック建築の代表例といえる」と評しています。』

延べ900社の顧客情報流出か 多要素認証を無効化される

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/020600011/080700061/

※「ゼロトラスト」で、認証発行の山、「多要素認証」で防御しようとしても、この有様だ…。

※ もっとも、「閉鎖予定の拠点」の「防御体制」が脆弱で、そこを突かれた…、という事情もあるようだ…。

『NTTコミュニケーションズに対する2つのサイバー攻撃が明らかとなった。延べ約900社・組織の顧客情報が外部に流出した可能性がある。撤去予定だった海外の運用サーバーの「隙」を突かれた。後日、社員になりすました不正アクセスも判明した。攻撃者は端末の多要素認証を無効化し、社内システムに入り込んでいた。

 「まさか日本のセキュリティー業界のリーダーであるNTTコミュニケーションズが被害を受けるとは」。サイバーセキュリティーに詳しい業界関係者は口をそろえる。

 NTTコムは2020年5月28日、サーバーなどの自社設備がサイバー攻撃を受け、顧客情報が外部に流出した可能性があると発表した。7月2日には、社員になりすました攻撃者から不正アクセスを受け、顧客情報の流出範囲が拡大した恐れがあることも公表した。

 一連の攻撃により、防衛省や海上保安庁、厚生労働省など単純合算で延べ約900社・組織の通信関連工事情報が外部に流出した可能性がある。河野太郎防衛大臣は2020年5月29日の閣議後記者会見で、不正アクセスの報告を受けたと明らかにしたうえで「しっかり調査していただきたい」と要請した。監督官庁の総務省幹部も「現状把握と顧客対応をしっかりやってほしい」とくぎを刺す。

撤去予定の海外サーバーに「隙」
 社内調査により、攻撃者の侵入経路は2通りあったことが判明している。

 1つが顧客向けサービスの監視や障害の切り分けなどを担うシンガポールの運用サーバーを踏み台としたルートだ。攻撃者は2019年9月ごろに同サーバーに侵入。その後、タイなど複数の海外拠点を経由し、2019年12月に法人向けクラウドサービス「Bizホスティング エンタープライズ(BHE、2018年3月にサービスの提供を終了)」と「Enterprise Cloudオプションサービス」の運用サーバーに入り込んでいた。ここを足掛かりに法人向けクラウドの工事情報管理サーバーのほか、社内セグメントのアクティブディレクトリー(AD)運用サーバーや社内ファイルサーバーへと触手を伸ばしていた。

 NTTコムは2020年5月7日、社内セグメントのADサーバーに対する不正な遠隔操作を試みたログを検知した。遠隔操作の踏み台になった同セグメントのAD運用サーバーを同日中に緊急停止し、社内調査を進めた。その後、AD運用サーバーのアクセス元だった法人向けクラウドの運用サーバーを停止したり、マルウエアによる外部サイトとの通信を遮断したりした。

 実は、最初に侵入を許したシンガポールの運用サーバーは撤去予定だった。同サーバーを収容するデータセンターが老朽化し、2019年10月に新データセンターへの移転を計画していた。同サーバーも新しいものに切り替わる予定だった。まさに撤去直前のタイミングを攻撃者に突かれた。

 同サーバーは撤去を間近に控えていたこともあり、セキュリティー上の脅威を検出するEDR(Endpoint Detection and Response)を導入できていなかった。NTTリミテッド・ジャパンの飯田健一郎社長は「もっと対策の感度を上げておくべきだった」と悔やむ。

 攻撃者がどういった脆弱性を突いてシンガポールの運用サーバーに侵入したかについては「継続調査を実施したが、機器の撤去でログを確認できないため、原因を特定できなかった」(NTTコム)と説明する。』

『社員になりすまし
 もう1つは日本にあるVDI(仮想デスクトップ基盤)サーバー経由だ。シンガポールの運用サーバーを踏み台にした不正アクセスを調査する過程で、複数の社員が勤務日以外に社内のファイルサーバーにアクセスしていることを2020年5月25日に突き止めた。翌26日にはファイルサーバーのアクセス元がすべてVDIサーバーだったことが判明。さらに27日、何者かが社員になりすましてVDIサーバーにログインしていた事実を確認した。

 NTTコムは社員がVDIサーバーにログインする際、IDとパスワードとは別に、ランダムに並んだ数字の表を使う「マトリクス認証」を導入していた。同社の久野誠史デジタル改革推進部情報システム部門担当部長は「攻撃者は特殊な方法でVDIサーバーに接続していた」と打ち明ける。

 特殊な方法とは、マトリクス認証を無効化し、主にIDとパスワードだけでVDIサーバーにログインできるというものだ。久野担当部長は「我々も認識していなかったVDI全体の抜け道があった。攻撃者はちょっとした(システム上の)『穴』をいくつも組み合わせていた」と語る。

 攻撃者はこの抜け道を見つけ出し、不正入手した社員のIDとパスワードを使って自身の端末でVDIサーバーの認証を突破していた。しかもNTTコムはVDIサーバーへの接続時に端末のウイルス対策ソフトの種類やバージョンもチェックしていたが、攻撃者はこれらも把握し、インストールしたうえで侵入していた。2020年8月6日時点で社員のIDとパスワードの流出経路は判明していないが、社内セグメントのADサーバーからは流出していないことを確認している。

 NTTコムは緊急対応を既に済ませ、2020年5月26日時点でVDI全体の利用を停止した。翌27日に全社員のパスワードも強制リセットした。同社によると、27日以降、不正ログインがないことを確認できているという。

 ルートが異なる2つの不正アクセスに関連はあるのか。NTTコムの小山覚情報セキュリティ部部長は「(攻撃者が同一かどうかは)何とも言えない。攻撃元のアトリビューション(特定)は実施していない」と話す。ただ、どちらも「サイバー攻撃の専門集団」(同社)としている。

 あるサイバーセキュリティーの専門家は「同一の攻撃主体ではないか」としたうえで、「攻撃の途中でユーザーの認証情報を入手し、VDIサーバー経由の接続に切り替えたのではないか。正当なアカウントとパスワードを使ったアクセスのほうがより隠密な行動ができるからだ」と分析する。実際、攻撃者は日勤の時間帯しか動かず、「ばれないようにひっそりと活動していた」(久野担当部長)。攻撃者はメール送信といった目立つ行動も控えていた。

 別のサイバーセキュリティーの専門家は「BlackTechによる攻撃の可能性がある」と指摘する。BlackTechとは、中国政府との関係が噂されるサイバー攻撃集団だ。既に明らかとなっている三菱電機に対するサイバー攻撃にも関与したとされる。BlackTechの攻撃の特徴は「海外拠点の通信機器の脆弱性を利用する」(同)点にあり、特に情報通信や製造業、学術機関が狙われる傾向にある。

UEBAやEDRを導入
 NTTコムは再発防止を急いでいる。まず社員の正当なIDとパスワードを使った「なりすまし攻撃」により、影響範囲の特定に時間がかかった反省から、攻撃者の振る舞いを細かく把握できる「UEBA(Userand Entity Behavior Analytics)」を2021年3月までに本格導入する計画だ。EDRも2020年秋までに、サーバーも含めて全端末への導入を終える。

 サイバー攻撃の動向や企業のセキュリティー対策に詳しいラックの西本逸郎社長は「被害範囲の特定や封じ込めにEDRは有効だ」と語る。パソコンなどのログを詳細に洗い出す「フォレンジック」には、パソコン1台当たり2週間かかるケースもある。「EDRを導入すれば、こうした時間を大幅に短縮できる」(西本社長)。

 NTTコムはセキュリティー対策の有効性を検証する「Red Team」の人員拡充も検討する。社内のITやOT(制御技術)システムに対して、疑似的なサイバー攻撃を仕掛け、対策の実効性を評価する「TLPT(Threat Led Penetration Test)」のプランを策定し、それに合わせるような形で、Red Teamの体制の詳細を詰める。「今後は撤去予定の設備に対するセキュリティー対策も徹底する」(小山部長)。

 NTTコムで判明した今回のサイバー攻撃は多くの企業にとって対岸の火事ではない。新型コロナウイルスの流行により、企業はいや応なく在宅勤務の拡充などを迫られている。そんな中で、利用範囲が拡大するIT機器のセキュリティー水準をどう担保するか。早急に対策が求められる。』

クラウド以外は総崩れ、世界IT大手16社の20年4~6月期決算

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00848/00031/

『世界の企業向けIT大手16社における2020年4~6月の四半期業績が出そろった。16社のデータセンター(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器などハードウエア)、ソフトウエア、サービス、クラウドの4事業分野の売上高合計は1209億2800万ドル(約12兆7200億円)で前年同期を3.2%上回った。クラウドの売上高は前年同期比28.7%増加したが、クラウドを除く3事業分野の売上高は同5.1%減少した。

表 世界IT大手16社の2020年度第2四半期(4~6月)事業分野別売上高
クラウド除き全てマイナス成長、コロナ禍の影響まざまざ
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 4事業分野の売上高合計は、新型コロナウイルスの影響がなかった2019年10~12月期と比べると2.1%減、コロナ禍の影響が出始めた2020年1~3月期と比べると0.9%減であり、わずかな減少にとどまった。

一方、米アルファベットを除く15社の営業利益は前年同期比2.6%増の245億5000万ドル(約2兆5820万円)で、2四半期前と比べると1.5%減少しているが、前四半期よりも11.0%増えた。1~3月期に対して2桁増益となったのは、米オラクルの営業利益が同22.1%増、米マイクロソフトが同17.2%増など、利益額の大きい2社の年度最終四半期に当たったためだ。

 4~6月期の営業利益率をみると、オラクルが41.3%で、マイクロソフトが40.0%、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が31.1%と続く。米シスコシステムズは28.5%、ほかインド勢はタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)が23.6%、インフォシスは22.7%だった。コロナ禍においてもIT企業の利益率は高い。

 一方、利益率が一桁台の企業もある。米デルテクノロジーズの9.7%、米IBMの8.7%、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)の7.0%、富士通の1.9%などで、いずれもハード事業を抱えている。株価が好調な富士通ではあるが、その利益率は競合と比べて極端に低い。

 IBMと富士通はデータセンター事業がプラス成長だった。IBMはメインフレームが伸長し、富士通もメインフレームとスーパーコンピューター富岳の設置がプラス要因だった。サービス全社がマイナスなのは今四半期が初めて。またクラウド成長率が30%を切ったのは3四半期ぶりだ。』

新材料「ゴム×プラスチック」に大反響、夢かなうかブリヂストン

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04454/

『ブリヂストンが開発した新材料「SUSYM(サシム)」。その特徴はゴムとプラスチックが分子レベルで結合し、両材料の機能を併せ持つこと。同社は「両者を共重合させた世界初の材料」と胸を張る。

ゴムとプラスチックを分子レベルで結合
サシムは、ブリヂストンが独自に開発したガドリニウム化合物を重合触媒に用いて、ゴムとプラスチックを分子レベルで結合させたポリマー「SUSYM(サシム)」の生成に成功した。(出所:ブリヂストン)

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最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」
 サシムはゴムのように弾力性があり、プラスチック並みの強度を持つ。例えばくぎを刺してもなかなか穴が開かない。熱可塑性を持ち、穴が開いたり傷が付いたりしても、熱を加えるだけで塞がってすぐ修復できる。さらに材料の組み合わせ方や製造条件で特性を大きく変えられるという。

サシムの強度の高さ
サシムはゴムの伸びとプラスチックの強さを併せ持ち、くぎを押し付けて局所的に力を加えても穴が開きにくい。(出所:ブリヂストン)
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サシムの修復性の高さ
サシムは傷ができても(上)、熱を加えればプラスチック系分子が溶けて傷が塞がる(下)。(出所:ブリヂストン)
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個別の特性それぞれもさることながら、サシム最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」だろう。

 ブリヂストンは2019年の東京モーターショーで、サシムで造ったコンセプトタイヤを披露した。驚いたのはその反響だ。さまざまな企業の技術者がやってきてはサシムのタイヤ以外への活用法を提案してきたのだ。

サシムのコンセプトタイヤ
2019年10月に開催された「東京モーターショー」で展示したサシムのコンセプトタイヤ。赤い部分は簡単に曲げられるが、白い部分は力を入れても容易に曲げられない。(出所:ブリヂストン)
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 例えば「フィルム状に成形して、製品の透明な部分の強度を高められないか」、あるいは「破損してもすぐに修復できる自動車のボディーや内装に使えないか」といった提案だ。いずれもブリヂストン自体が当初は考えもしていなかった用途である。従来にない特性を有するサシムの可能性に多くの技術者が気付き、多様な用途を思い描かせたのである。

 こうした反響を受け、ブリヂストンもサシムの可能性に期待し始めた。先端技術担当フェローの会田昭二郎氏は、「さまざまな特性のサシムが造れる。その可能性は無限に広がっている」と話す。

ゴムより強く成形が容易で透明シートも可能
 サシムはブリヂストンが開発した希土類金属のガドリニウム化合物*1を重合触媒にして、プラスチック系モノマーとゴム系モノマーを共重合させたポリマー全般を意味する。同社が2018年5月に発表した「High Strength Rubber(ハイストレングスラバー)」は、そんなサシムの第1弾だ。くぎを刺してもなかなか穴が開かなかったり、熱を加えると傷を修復できたりする特性はサシムの特性バリエーションの1つとなる。

*1 ガドリニウム 原子番号64の元素(Gd)。希土類金属の1つ。
 同社によると、ハイストレングスラバーの耐亀裂性は天然ゴムのおおよそ5倍以上、引っ張り強度は1.5倍以上、耐摩耗性は2.5倍以上だったという。

 通常のゴムは先端が鋭利なくぎを押し付けるとすぐに穴が開いてしまう。サシムは局所的に力がかかっても、均質に分散したプラスチックの分子が破断に堪えるのでなかなか穴が開かない。一定の温度に達すると溶けて融着する熱可塑性もプラスチックに由来する特性の1つ。一部が破断しても熱を加えれば融着して修復される。含有するプラスチック分子の長さの調節により融着温度も任意に調整できるという。

熱可塑性は成形性の高さにもつながる。プラスチックと同様に押し出し成形やプレス成形ができる。例えば、フレーク状にしたサシムを型にはめてプレスするとシート状に成形できる。こうしたレベルなら、従来のプラスチックやゴムと同程度のコストで成形加工が可能だ。

ガドリニウム化合物触媒を独自開発
 なぜプラスチック系モノマーとゴム系モノマーを、分子レベルで結合できたのか。鍵を握るのは重合触媒の素材に選んだ希土類金属のガドリニウムだ。

 合成ゴムやプラスチックは原料となる低分子のモノマーを結合させる重合反応により高分子化合物(ポリマー)を造る。重合反応を促進するのが触媒の役割だ。例えば、合成ゴムはニッケルやコバルトなどを触媒に使い、ブタジエンやイソプレンなどのモノマーを重合させる。プラスチックはエチレンやプロピレンなどのモノマーを重合させる。

 では、ゴムを造るモノマーとプラスチックを造るモノマーの2種類を用意して重合させればゴムとプラスチックの特性を併せ持つポリマーができるかというと、そう簡単ではない。ゴムとプラスチックでは重合形態が異なり、使われる触媒も異なる。ゴム用の触媒はプラスチックを造るためには使えず、逆もしかりだ。これまではプラスチック系モノマーとゴム系モノマーを交互に結合させる都合のよい触媒が見つからず、プラスチックとゴムの特性を併せ持つポリマーを生成できなかった。

 しかし、希土類金属を触媒に用いるとまれにゴムモノマーがプラスチックモノマーと結合すると以前から知られており、希土類金属を含む触媒を形成する炭素や水素などの構成を変えると共重合の頻度が高まると分かってきていた。

 ブリヂストンはこの点に着目。触媒分子の中で炭素や水素などをどのように配列するかという構成を「デザイン」して、共重合の組み合わせをコントロールする手法を確立した。これがプラスチックとゴムのいいとこ取りをしたサシムの開発につながった。

 ブリヂストンの会田氏は「サシムの特性は、ゴム分子とプラスチック分子の分子量と並べ方で変わる」と話す。開発の背景には「ここ2、3年の重合触媒を設計するためのシミュレーション技術の進歩が大きい。新たなガドリニウム触媒の設計手法を開発できた」(会田氏)と明かす。この知見を応用すると触媒を適切に設計し、原料となるモノマーの量や比率、重合反応させる際の温度や圧力などいろいろなの条件を変えると生成されるポリマーの特性を自由自在に変えられる。

サシムが秘める「脱タイヤ」の可能性
 2020年8月時点でサシムを使った製品はまだ商品化に至っていない。タイヤ用途での実用化に向けた開発を進める一方でブリヂストンは、他社とのコラボレーション(共同作業)などによる、サシムの幅広い応用に期待をかける。成功すれば、同社が狙う「脱タイヤ」を実現するための起爆剤となる可能性を秘めているからだ。

 「タイヤの製造・販売は当社の事業の土台だが、サシムはタイヤ以外でももっと幅広く社会に貢献できる可能性がある。素材メーカーに技術供与したり、興味を持ってくれた企業とコラボレーションしたりして共創関係を築き、新しい価値を持つ製品を生み出したい」(ブリヂストンの会田氏)

 1984年に「ブリヂストンタイヤ」から「ブリヂストン」に社名変更したのに象徴されるように、「脱タイヤ」は同社の中長期的なビジョンの1つだ。グループ会社の「ブリヂストンタイヤジャパン」が2020年10月には「ブリヂストンタイヤソリューションジャパン」に社名変更して、タイヤを中心とした卸販売事業に加え、ソリューション事業を強化するのも、「脱タイヤ」姿勢の一環といえる。

 プラスチックとゴムの特性を併せ持ち、タイヤ以外での多様な用途が想定される——。そんなサシムは、ブリヂストンにとって「脱タイヤ、脱ゴム」を実現し、新たなビジネスフロンティアを開拓する「超材料」になる可能性がある。』

キングメーカー、二階俊博幹事長の視線

https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00606/

『ひと声で給付金が一律10万円 に
「百戦錬磨、自民党で最も政治的技術を持った方だ。まさに政治のプロだ」
首相・安倍晋三は自民党幹事長・二階俊博をこう持ち上げる。

その二階は国土強靭化以外の政策には関心を示さず、政策にはむしろ疎い。「切れ者」と言われることはなく、ふだんは茫洋として、つかみどころがない人物とみられている。会談中、眠ってしまうこともある。81歳という高齢のせいか、足腰も弱くなった。

にもかかわらず、二階がひと言発すれば、政府が動く一方、自民党内は静まる。安倍が気遣うだけでなく、「ポスト安倍」の面々も二階の支持を得ようと躍起になっている。二階とはどんな人物か。二階は「ポスト安倍」に誰を据えようとしているのか。

二階の力を知らしめたのは2020年4月、新型コロナウイルス対策の一環として国民全員に一人当たり一律10万円の特別定額給付金を配ることにしたことだった。

政府は二階ら自民、公明両党の了承を得て、4月7日の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策と今年度補正予算案(第1次)を決定した。収入が大幅に減少した世帯に30万円を給付することが柱だった。ところが、一週間後の14日、二階がいきなり記者団に「一律10万円を求める切実な声がある」と表明した。

二階の発言に安倍は驚き、党幹部らに自ら問い合わせの電話を入れるほどだった。一方、公明党と支持母体である創価学会が強く反応した。10万円はもともと公明党が学会からの要望を踏まえ、政府に要求してきたこと。しかし、政府が30万円と決めたため、断念せざるを得なかった。

公明党は自分たちがいったん諦めたことを二階が打ち上げたため、お株を奪われた形になり、公明党代表・山口那津男が15日、首相官邸に乗り込んで安倍に直談判。その後、山口は電話で連立離脱をほのめかしたため、安倍はやむを得ず、方針を転換した。

与党がいったんは了承した政府の目玉政策を否定したため、政府が慌てて政策変更し、補正予算案の閣議決定をやり直すというのは前代未聞のことである。それを主導したのが二階と公明党だった。

この顛末(てんまつ)の本当の責任は、政府の方針を一度はのんだ二階と公明党にある。しかし、10万円給付が世論の高い支持を得たため、二階や公明党の評価が上がってしまった。その分、安倍政権の求心力が落ちたが、安倍は「結果的にはあれで良かった。あのまま突っ込んでいたら、もっと批判されていただろう」と認めざるを得なかった。

自民党の党則を変えてまで安倍の3選を実現
二階はまた、中国の習近平国家主席の来日問題でも力を見せつけた。香港での国家安全維持法(国安法)施行を非難し、国賓来日の中止を求める決議を行う動きが7月初め、自民党外交部会と外交調査会の合同会議で表面化した。これに対し、二階は「日中がここまで来るには先人たちの大変な苦労があった。外交は相手のあることで、慎重の上にも慎重に行動するべきだ」(7月7日の記者会見)と強い不満を表明した。

党執行部と外交部会・調査会側が調整した結果、決議は党の総意ではなく、外交部会と外交調査会によるものとし、「中止を要請せざるを得ない」と表現も後退させた。「中止」という文言は残ったものの、中国側の反発は最小限に抑えられた。

保守勢力からみれば、香港の現状からみて中国主席の来日中止を求めるのは当然なのだろう。だが、日本は米国のように中国とケンカできるほどの力がない。日本が来日中止を求めなくても、中国が反対を想定される国に国家主席を訪問させるはずがない。ならば、現実を直視し、日中関係に無用な波風を立てるべきではないというのが二階の判断だった。

国民への一律10万円給付に関し、安倍首相と会談後、記者団の取材に応じる自民党の岸田文雄政調会長(手前左)と二階俊博幹事長(同右)。2020年4月16日、首相官邸

二階の実力を現す例をもう一つ挙げると、自民党総裁の任期を「1期3年、2期まで」という党則を「1期3年、3期まで」に変更する道筋を付けたのは二階だった。二階は総務会長時代の2016年5月の連休明けに、私に早くもこう漏らしていた。

「安倍首相は長期政権を狙っている。佐藤栄作さんの7年8か月よりも、もっと長くやろうと思っているんじゃないか。他の人がどう思っていようが、首相官邸にいると首相は自分にしかできないと思うようになるもんだよ」

この時、私は二階に「党則を変えるのは難しいのでは?」と尋ねた。しかし、二階はいとも簡単に「党則なんて変えてしまえばいいんだ」と言い放った。大胆不敵、二階は鋭いカンで安倍の胸の内を洞察し、同年8月、幹事長に就任すると、任期延長を実現した。今、安倍が長期政権を維持できているのも二階のお陰ということになる。

驚くほど菅官房長官とよく似た歩み
こういう世の中の流れ、トップの心理を読む判断力はどうやって身につけたのだろうか。ここは官房長官・菅義偉と比較しながら分析したい。国会議員になるまで、二人の歩みは驚くほど似ている。

まず、秘書出身だ。二階は元建設相・遠藤三郎(旧衆院静岡2区選出)の、菅は元通産相・小此木彦三郎(旧衆院神奈川1区選出)の秘書だった。

秘書出身の政治家の特徴は主人に忠実なことだ。主の指示は絶対であり、違うと思っても指示の実現に全力を尽くす。かつ、余計なことは言わない。表で目立つのはあくまで議員本人だ。秘書は影で支える。そんな生活を二人とも11年間送った。

二階も菅も、秘書の時代に政治家としての原点が培われた。つまり、忠誠心が人一倍強く、今は安倍に示されている。これは官僚出身者とは大きく違うところだ。官僚出身者は「自分は一番頭が良い」と信じている人が多く、時に主を見下す。

二人のもう一つの特徴は地方議員出身であることだ。二階は和歌山県議を、菅は横浜市議をそれぞれ2期8年務めた。地方議員出身者は議会で駆け引きを習熟し、押したり引いたりしながら物事を実現していくのに手慣れている。

普段、丁寧に接しながら、時に威圧する。この人に逆らったら潰される、という恐怖心が政治家の力となることを二人ともよくわかっている。

余談だが、二人は休みをほとんど取らない。いや、休みを取れない。忙しいからではなく、忙しく働いていないとかえって落ち着かない性格だからだ。

石破、岸田に秋波送るも、本音は菅か
こうした二階が今後、どう動いていくか。政権の行方はもちろん、「ポスト安倍」に誰が選ばれるかにも影響を与える。二階の影響力の基盤となるのが二階派の数だ。

二階は2003年11月、自民党に復党し、旧保守新党議員らによる「新しい波」というグループを結成し、会長に就任した。その後、09年8月の衆院選で自民党が惨敗した時には所属議員が二階を含め3人にまで減った。その後、数を増やし、7月16日の例会で、元民主党の長島昭久衆院議員が入会。二階派の所属議員は47人となり、岸田派と並ぶ党内第4派閥となった。

その数を基盤に二階は、ポスト安倍でも主導権を握ろうとしている。二階は6月8日、ポスト安倍の候補の一人、元幹事長・石破茂から石破派パーティーへの出席を求められると快諾し、その後の記者会見で「将来、さらに高みを目指して進んでいただきたい期待の星の一人だ」と石破を持ち上げた。二階は7月2日、石破と覇を競う政調会長・岸田文雄と双方の側近を交えて都内のホテルで会食し、岸田を「前途洋々だ。次を期待している」と激励した。

二階は自民党の次期総裁選で石破、岸田のどちらかを推すのだろうか? 私の取材では現段階で、どちらも推すつもりがない。二階は最近、周辺に二人について「彼らに総理になって何をやりたいかがないんだ。上に行きたい、総理になってみたいというだけだろ」と語っている。

なのに、なぜ二階は二人に秋波を送るのか? 彼らについて否定的なことを言えば、二階に損になるからだ。政治家は基本的に損得勘定で動く。得になるならばやるし、損になることが分かっているならやらない。今、二階が彼らに批判的なことを言っても一文の得にもならない。

政局の次の焦点は、9月の自民党役員任期切れに伴って行われるとみられる内閣改造・党役員人事だ。二階は9月8日まで幹事長職を続ければ、田中角栄・元首相(1497日)を抜き、歴代最長となるが、それを機に辞めるつもりはさらさらなく、幹事長を続投したい考えだ。

その目標を達成するために、石破、岸田から恨まれるようなことをするのは得策ではない。二階が幹事長を続投するなら、自分を推してくれるかもしれないと二人に思わせておいた方がいい。また、先行き、政局がどう動くか分からない時に、カードはできるだけたくさん持っていた方がいいに決まっている。

ならば、二階は本当は誰を安倍の後継に据えたいと考えているか。私は菅が念頭にあるのではないかと見ているが、どうなるかは分からない。(敬称略)

バナー写真:時事通信のインタビューに答える二階幹事長(時事)

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自民党 安倍政権 後継総裁 二階俊博』

香港、「中国製」表示義務巡り米国と協議へ─高官=CNBC

https://www.epochtimes.jp/p/2020/08/60997.html

『[17日 ロイター] – 香港政府の邱騰華(エドワード・ヤウ)商務・経済発展局長は17日、CNBCに対し、米国と中国の緊張の高まりは「有益ではない」との認識を示した。また香港の製品を米国に輸出する際に中国製と表示する義務について、米国政府と協議すると述べた。

米政府が先週発表した通達によると、香港で製造された製品を米国に輸出する場合、9月25日以降は中国製と表示する必要がある。

ヤウ氏は世界貿易機構(WTO)のルールの下で香港製と表示する権利があると指摘した。

第2・四半期の香港の域内総生産(GDP)は9%減と「前例のない」落ち込みとなったと述べた。

またコロナウイルスのパンデミック(世界的流行)との戦いから目をそらしているとして米中の緊張の高まりに懸念を示した。』

中国、長引く北戴河会議で「軍権の争い」勃発か

https://www.epochtimes.jp/p/2020/08/60991.html

『中国河北省の避暑地、北戴河で中国共産党の最高指導部のメンバーや長老らが参加する非公式な会議「北戴河会議」が8月上旬に始まったとみられる。8月17日の時点では、同会議が終了していないとの報道が出ている。中国官製メディアの報道によると、今年の北戴河会議では、「軍権」の掌握をめぐって対立があったことが浮き彫りになった。

北戴河会議

ロイター通信は8月14日、15日に予定されていた米中通商交渉の「第1段階の合意」に関する閣僚級会合は延期されたと報道した。米政府は同会合を通して、中国側が第1段階の通商合意を履行しているかを検証する予定だった。情報筋の話として、会合が延期された原因は中国当局の北戴河会議が続いており、中国側の日程が合わなくなったことにあると伝えた。

一方、中国官製メディアは8月1日以降、ほぼ毎日、習近平国家主席だけの動静を報道している。習氏を除く最高指導部である党中央政治局常務委員会の他のメンバーについての報道は少ない。北戴河会議が開催中であることを暗に示唆している。

党内序列3位の栗戦書・全国人民代表大会(全人代)常務委員長は8月8日、10日と11日に全人代の常務委員会会議に出席し、香港の立法会選挙を1年延期すると決定した。

序列2位の李克強首相は、8月1日、ネパール首相に対して、中国・ネパールの国交樹立65周年に祝電を送った。8日、李首相は、スリランカの首相に就任したマヒンダ・ラージャパクサ氏にも祝電を送った。14日、首相は、知的財産権侵害を取り締まる法律に署名した。中国官製メディアの李首相に関する報道は、文字だけにとどまり、映像はなかった。

また、慣例として、李首相は毎週、国務院の常務会議を召集しなければならない。しかし、8月5日と12日に国務院の常務会議の開催に関する報道はなかった。首相は7月22日と29日の常務会議には出席した。

他の党中央政治局常務委員の動静に関する報道は7月31日にとどまっている。この日、政治局常務委員7人が集まり、「政治学習」に参加した。

毎年恒例の北戴河会議は2週間にわたり行われる。中共ウイルス(新型コロナウイルス)の感染拡大や米中対立、香港問題など、中国共産党が抱える内憂外患は一段と厳しさを増している。このため、今年の北戴河会議の会期が長引いたとみられる。

「終身最高権力者」を狙う習近平氏

中国共産党中央委員会総書記兼国家主席の習近平氏がこの半月、公の場に姿を見せていないにもかかわらず、国営新華社通信と国営中央テレビ放送は毎日、トップニュースとして習氏の動きを報じている。

この間、最も注目されるべき報道が2つある。

1つ目は、8月6日、習近平氏が2021年から始まる「十四五」(第14次5カ年計画、2025年まで)の策定について指示を行ったことだ。北戴河会議の期間中に、習氏がこの指示をしたことは、指導部や長老らに対して、今後も最高権力者の座に居座り、長期政権を続けると再び宣告したことに等しい。

中国共産党は、1990年代以降、国家主席としての任期を2期10年に制限した。本来なら、習近平氏は2023年に国家主席の座から退くことになる。しかし、2018年2月、中国共産党中央委員会は、国家主席の任期について「2期10年まで」とする規制を撤廃する憲法改正案を提出した。全人代は同年3月に改正案を採択した。その一方で、党総書記と軍トップの中央軍事委員会主席には、明白な任期の制限がないため、習近平氏は2023年以降も、国家主席・党総書記・軍事委員会主席として、中国の最高指導者として君臨する可能性が大きくなった。

2つ目は、8月15日、習氏が中国共産党の理論誌「求是」に寄稿したことだ。タイトルは「現代中国のマルクス主義政治経済学の新たなフロンティアを開拓し続けていく」。同記事は、習氏が2015年11月23日、党中央政治局の会議で行った演説内容である。

中には、「公有制経済の強化と発展を絶対に揺るがさない」「公有制の主体的な地位と国有経済の主導的な役割を揺るがしてはならない」などの文言があった。

実際、この記事が唱えるマルクス主義政治経済学理論は、現在の中国経済には全く役に立たない。社会主義と資本主義の勝負はもう目に見えている。現状では、中国共産党は、社会主義を実現できるという自信を持っていないうえ、マルクス主義を信じる党員や幹部らは1人もいない。香港における2制度の対決さえ、中国当局は頭を抱えている。このため、共産党が持つ資本主義に取って代わるという幻想は、すでに滅びたと言える。

米政府が中国共産党の崩壊を目指し、対抗措置を強める中、習氏が5年前の話を持ち出したのは、同氏が共産党組織を解体するどころか、マルクス主義の看板を掲げ続けながら、共産党政権を守り抜くという決心を伝えたかったとみている。共産党政権を存続させるには、公有制と国有経済を堅持するしか道がない。現在の国策、国進民退(国有企業を優遇し民間企業を排除する)が、これを証明している。習近平氏は、党員や高官の欧米側への亡命を防ぎ、党員らを抱き込み一致団結させようとする目的で、同記事を投稿したと分析する。また、習氏は、この記事を今回の北戴河会議の総まとめにしたい狙いもありそうだ。

軍権掌握
国営新華社通信電子版は8月14日、中国共産党機関紙・人民日報の評論記事を転載した。記事は「なぜ人民軍隊に対する党の絶対的な指導制度を揺るがしてはならないのか(中国語は、党対人民軍隊的絶対領導制度為何動揺不得?)」とのタイトルがつけられ、中国共産党による軍の支配権について持論を展開した。

同記事は終始、中国の軍は共産党の軍であると主張した。

「国家は、階級の矛盾による調和不可能の産物である。軍隊は階級統治の暴力的ツールだ。(中略)国家政権を奪取し、政権を強化していくにはまず、軍を掌握しなければならない」

「政権を奪取するため、必ず強い武装力量(軍)を持たなければならない。(政権奪取で)勝利した後、武装力量を借りて…自らの統治を維持していくべきだ」

「この軍隊は最初から最後まで、党の指示に従う。いかなる人がいかなる方法で、軍を党から離脱させようとしても、失敗に終わるだろう」

「(文化大革命の)四人組は常に軍権の掌握を狙っていた。しかし、軍は彼らの指令に従わなかった。四人組が失脚した際、軍権の掌握ができなかったと嘆いた」

中国国民にとって、人民解放軍が共産党の支配下にあることは言うに及ばないことである。北戴河会議の開催中に、官製メディアが軍権掌握に関する記事を発表したのは意味深長で、党内で軍権をめぐる激しい論争、または争奪戦が勃発した可能性があると推測する。中国共産党の歴代最高指導者が自らの権力基盤を強固にするには、軍権の掌握を必須条件としてきたからだ。

記事の中では、「(軍に対する)最高領導権と指揮権は、党中央にある。(中略)軍事委員会主席の責任制度を貫徹し、(軍の)すべての行動について、党中央、中央軍事員会および習近平主席の指揮に従うことを確実に守っていく」との内容がある。

この内容から、北戴河会議において、一部の人物が中央軍事委員会主席を務める習近平氏に異議を唱えたとみる。または、軍への指導権を分権化すべきだという意見もあったと見て取れる。

しかし、習近平氏らはこれらの意見をすべて却下したようだ。「絶対的な領導制度というのは、『絶対的な』要求に達するということだ。(中略)これは手抜きしてはいけないうえ、議論の余地もないということだ。いわゆる『絶対』とは、…唯一性、徹底的にかつ無条件に行うことを意味する。全軍の絶対的な忠誠心、絶対的な純粋さ、絶対に信頼できることを守っていく」

この記事は一部の内容にも関わらず、文脈から軍権をめぐって、会議中に習派閥とその反対勢力の間に生じた張りつめた気配が強く感じとれる。

さらに、記事が示唆した他の内情も多くある。

例えば、「敵対勢力は、『軍の非党化、非政治化』と『軍隊の国家化』を大々的に宣伝しており、(中略)軍隊を党から分離させようとしている」

「いわゆる『政治的遺伝子組み換え』を行い、軍の『色』を変えようとする狙いがある。その下心ははっきりしている」

「『軍の非党化』という主張を持つ人は、西側国家の軍と政党の関係性の表面しか見ていない。政権を担う政党が変わる時、軍の指導権は資産階級の『左手』から『右手』に変わったに過ぎない」

「いわゆる『軍の非政治化』は、軍が政治問題に介入しないことを指すが、これも実際には、資産階級の嘘のスローガンである」などがある。

これらの情報から、北戴河会議の一部の出席者が、人民解放軍を党の軍隊ではなく、国の軍隊にすべきだという異例の声があったことが読み取れる。しかしながら、党の指導者に軍への支配を放棄させることは、権力を放棄させることを意味する。党の最高指導者はこのような声を絶対に容認できない。習陣営は、この記事を通じて強く反論したであろう。

党内の激しい対立を露呈したこの記事は、まもなく新華社通信電子版から取り下げられた。

(文・楊威、翻訳編集・張哲)』

〔兵頭二十八氏のサイトからの情報〕

https://st2019.site/?cat=2

『陸自が発足するとき、情報部をつくることがゆるされなかった。米国のさしがねで。
 作戦、情報、兵站、人事の四大機能のうち、ひとつがなかったのだ。
 この大穴が、いまだに、埋まっていない。』

 ※ まあ、「自衛隊」というのは、そういう組織…。日本国というのは、そういう国家…。
 そういう体たらくなのに、「ファイブアイズに参加する…。」とか言っているわけだよ…。

〔中東情勢〕

バルカン半島製武器が中東紛争に ペルシャ湾岸国が購入、支援組織に供与か(毎日新聞2020年7月21日 07時30分(最終更新 7月21日 07時30分))
https://mainichi.jp/articles/20200720/k00/00m/030/292000c

パリ連続テロで使われたのはバルカン半島のカラシニコフだった(2015年12月01日 00:16(アップデート 2015年12月01日 00:40))
https://jp.sputniknews.com/opinion/201512011252539/

『セルビアの武器製造企業「ザスターヴァ・オルージエ」社のミロイコ・ブルザコヴィチ役員は、11月のパリ連続テロでイスラム急進主義者らが用いた武器の一部が自社で製造されたものであったことを認めた。ただし、これらの武器はユーゴスラビア崩壊までの時期に製造されたものだった。

ブルザコヴィチ氏はこれまで、パリ連続テロ事件の2日後、セルビア内務省から自分に宛てにフランスでテロリスト襲撃の後発見された武器の製造番号が送られてきたことを明らかにしていた。それらの武器はユーゴスラビア製のカラシニコフ銃(ソ連の武器AK47)7丁ないし8丁だった。ブルザコヴィチ氏の話ではユーゴスラビア崩壊後、紛争の全当事者が残りの武器を売却しうる状況にあった。

セルビア保安情報局のアンドレイ・サヴィチ元長官は、ラジオ「スプートニク」セルビアからのインタビューに対し、パリのテロで使われた武器が今年1月のシャルリ・エブド編集部襲撃事件の時と同様、バルカン半島から流入したものであったことは驚くには値しないと語っている。

「『ザスターヴァ・オルージエ』はセルビアの町、クラグエヴァツにあった。この工場はバルカン半島で最も権威の高く、ユーゴスラビア人民軍向けの自動銃の主要メーカーだった。今日ではセルビア軍の主要なサプライヤーとなっている。

ハメネイ師
© AP PHOTO / OFFICE OF THE IRANIAN SUPREME LEADER
イラン最高指導者、IS誕生について米国を非難

スラヴェニア、クロアチア、ボスニアの武器倉庫は十分な数の武器があった。90年代、旧ユーゴスラビアで展開された流血の内戦を思い起こせば、抗した武器が犯罪を組織し、それに加担する者たち、またはテロリストらの手に渡ったであろうことは容易に想像できる。
コソボの兵器文化は非常に発達している。コソボではいかなるモデルの武器も目にすることができる。ところが誰の手にどれだけあるかを示す正確な証拠はない。

ボスニア、ヘルツェゴビナ領について言えば、あそこにはジハード主義者がいる。これらのジハード主義者は90年代、この領域で軍事衝突に参加している。彼らは戦功を讃えられ、あるいは地元民と婚姻しボスニアに残った。」

これと同様の見解をセルビアの首都ベルグラードにある組織「国際テロリズム研究フォーラム」の専門家、ミラン・パシャンスキー氏も語っている。

「ボスニアにはワッハーブ主義者を養成するセンターが複数あり、そこに大量の武器があるのは間違いない。こうしたワッハーブ主義のあるセンターから武器が流れ出て、それが思想を同じくする者たちに贈られたり、売却され、その見返りに彼らは金を受け取ったり、テロ行動を起こすためのロジスティックス上の支援を行っていると考えるほうが理にかなっている。」』

平和は敵。テロ戦争で儲ける「軍産複合体」の正体
https://www.mag2.com/p/news/127888

『多くの悲しみと憎しみを生んだパリ同時多発テロ。人類共通の目標である世界平和はなぜ叶わないのか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では国と企業が密に絡んだ、正義の裏にある恐ろしい真実を伝えています。

敵味方なしにテロ戦争で儲ける軍産複合体
軍需産業とはやっかいなものである。なにしろ、この世に戦争がなくなれば確実に倒産するのである。

紛争こそが商売のタネ。本格的な戦争に発展すれば大儲けにつながる。平和は敵だ。

東西冷戦が終わったあと、大きな危機感を抱いたのは、間違いなく武器商人、とりわけアメリカ軍需産業のトップたちだろう。米軍の兵器購入が鈍化したからである。

彼らは海外の市場に目を向けた。湾岸戦争で、サウジアラビアは大量に米国から兵器を買った。ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦などバルカン半島の民族対立は、NATOの介入を呼び、市場開拓のターゲットになった。

世界を震撼させた9.11の同時多発テロは、対テロ戦争という、兵器製造に正当性を与える新たな口実を軍需産業にもたらし、その業界の経営者が中枢にいたブッシュ政権は、ニセ情報に基づくイラク戦争へと暴走した。中東は荒れ果て、過激派の入り乱れる戦乱の地となった。

いうまでもなく、武器商人は人の危機心理で食っている。中国や北朝鮮の脅威を煽って、日本に高価な兵器を買わせることくらいは序の口だ。

まして、中東のように、たえず戦闘が繰り広げられている地域をめぐっては、兵器売り込みのネタに事欠かない。有志連合軍はもちろん、中東諸国の政府軍、そしてイスラム過激派組織ですら、彼らにとってはお得意様である。

「IS」(イスラム国)の仕業とされるパリの同時多発テロは、平和な夜を楽しむ大都市の街角までもが戦場に見立てられることを示している。

中東だけが戦場ではないという衝撃は、有志連合に対テロ戦略の練り直しを迫っているが、イスラム過激派への憎悪と恐怖の広がる状況が武器商人にとっては、さらなる追い風になるかもしれない。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という一句がある。怖い怖いと思えば、何でもないものが幽霊や化け物に見えてしまう。イラクに大量破壊兵器があると信じ込む心理などはその一例だ。

それにしても、西側とイスラム圏とでは、メディアの報じる内容がまるで違っていることに、いまさらながら驚かされる。

米英など有志連合軍はISを叩き潰すどころか、延命に力を貸しているという見方がイスラム圏にはある。

イランのメディア「FAR News」は、英軍機がISのために武器を空輸し、その陣地に投下したと伝えた。

イラク議会の国家安全保障国防会議では、有志連合の空爆はISを標的にしていない、もしくは、戦争を長引かせようとして、効果のない空爆を続けているとの意見が多数を占めているという。

根拠がないわけではない。皮肉なことにロシアが9月末からはじめたシリアへの空爆で、ようやくISが大きなダメージを被ったというのだ。

ロシアが短期間でそれほどの効果をあげられるのに、米国など多国籍軍にできないはずはない。

ひょっとしたらISの脅威を誇大につくりあげている勢力がいるのかもしれない。

そもそも、膨大な数の武器をISはどこから調達しているのだろうか。

イラクのクルド人部隊がIS戦闘員から押収した武器を、ロンドンに拠点を置く「紛争武器研究所」なる民間団体が調査したところ、武器の大半は米国、ロシア、中国製で、最も多かったのがM16ライフルなど米国製だった。

AFP電によると、米軍支給品であることを示す「Property of US Govt」の刻印もつけられていたという。

どういうルートでISにそうした武器が流れているのか不明だが、FAR Newsが報じるように、米英軍からひそかに供与されている可能性や、ブローカーなどを通じて、米欧の軍需企業から買っていることも考えられなくはない。

アメリカ国防総省もCIAも、軍需産業と一体となって動く、いわゆる「軍産複合体」の一員である。共通の利益を追うことがあるのだ。

そして、次に述べる事実を頭に入れておく必要がある。

東西冷戦が終わり1990年代に入ると、米欧諸国が軍事予算を削減したため、軍需産業は苦境に陥り、生き残りをかけて合従連衡の動きを強めた。

ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンの誕生、ボーイングによるマクドネル・ダグラスの買収などにより、軍需産業は巨大化した。

世界的な兵器メーカーのほとんどは米国の会社だが、英国のBAEシステムズやフランス、ドイツ、スペインの「エアバスグループ」(EADS)も米国勢に比肩しうる規模を誇っている。

さて、肝心なのはここからだ。軍需産業には、米欧の企業のみならずロシア、中国も含め、固く守ってきた業界ルールがあるという。

◆第一は、国内外のメーカーを問わず、完全な競争の原則のもとで、兵器輸出はいかなる国に対しても自由に行ってよい。第二は、紛争の挑発と拡大に寄与する行為には、国籍を超えて協力し合う。第三は国家が表面で掲げる外交政策とは無関係に行動してよい。(広瀬隆著「アメリカの巨大軍需産業」より)◆

つまり、彼らにとって、国どうしの対立などどうでもよい。互いに儲けるためには、各企業の兵器がたくさん売れて紛争が増えることが望ましい。ライバルどうしでありながら、目的はひとつ。戦争で稼ぐという一点に尽きるのだ。

テロであろうが、テロ撲滅の戦いであろうが、はたまた民族紛争であろうが、人を殺戮し、モノを破壊する兵器で儲けている以上、軍需産業に、危機をあおり戦争を挑発、拡大しようとする動機が存在することは疑うべくもない。

そこで、より深刻なのは、超大国アメリカにとって、優秀な科学者、技術者の多くがかかわっている軍需産業こそが経済の屋台骨であることだ。軍事会社が利益を上げられなくなると、大勢の失業者が巷にあふれるだろう。

米国の議員たちは地元の軍需企業と雇用のために、予算確保に動き、選挙資金や票の獲得をめざすのだ。

そして米国防総省やCIAは、軍需産業と一体化し、「軍産複合体」と呼ばれる利権ネットワークによって、米国やその同盟国の外交防衛政策を動かしている。

米国防総省の「国防政策委員会」は、軍需産業の利益をはかるため戦争政策を練っている、とさえいえる組織である。

◆(国防政策委員会のメンバーには)元CIA長官のジェームズ・ウールジーもいた。ウールジーは、ブーズ・アレン・ハミルトン社(軍事諜報企業)の副社長でもあり、2002年に6億8000万ドルの契約を国防総省との間で行った。(宮田律著「軍産複合体のアメリカ」より)◆

国防総省、軍需産業、CIAの関係をウールジーという、たった一人の人物から見てとれるのだ。

米国だけではない。ヨーロッパも同じ構造だ。米、露、中に次ぐ武器輸出国、フランスはオランド政権の戦略のもと、ISとの戦いの激化に乗じて巨利を得た。

◆フランスの軍需産業が業績を伸ばしている。今年の受注額は150億ユーロ(約2兆1000億円)を超え、昨年のほぼ2倍となる見通しだ。中東の情勢緊迫化などに伴う「特需」を追い風に、米国の影響力が低下している地域を狙って軍需品を売り込むオランド政権の戦略が奏功しているようだ。(6月21日、読売新聞 )◆

仏軍産複合体はサウジアラビア、カタール、エジプトなどに戦闘機やミサイルを売り、フランス軍はISを空爆、そのあげく、何の罪もない一般市民が、テロの犠牲になってしまう。こうやって不条理は繰り返される。

安保法制と武器輸出解禁によって、三菱重工など日本の軍需関連企業も意気込んでいる。自衛隊とともに、米軍産複合体に組み込まれるということかもしれない。

しかし戦争ビジネスが発展すればするほど、ニューヨークやパリで起きたようなテロ事件を呼び込む危険性が高まることは言うまでもない。

成長戦略が見つからないので、軍需産業で儲けようという安倍政権や経団連のもくろみには断固、反対である。』

〔中東・アフリカ関連〕

イスラエル情報相、バーレーンなどとも正常化を示唆
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62717100X10C20A8910M00/

『【ドバイ=岐部秀光、イスタンブール=木寺もも子】イスラエルのコーヘン情報相は16日、軍のラジオ放送で、バーレーン、オマーン、スーダンとも国交を結べるとの見通しを示した。アラブ首長国連邦(UAE)との正常化合意を発表した直後で、イスラエルと敵対してきたイスラム諸国に混乱が広がりかねない。

UAE大使館の前でイスラエル国旗を燃やして国交正常化に抗議するイランの人々(15日、テヘラン)=WANA・ロイター
オマーン外務省は17日、アラウィ外務担当相がイスラエルのアシュケナジ外相と電話で会談したと発表した。パレスチナとの和平交渉再開を呼びかけたと説明した。パレスチナ自治政府の主流派ファタハの幹部とも電話で協議したという。

イスラエルのリブリン大統領は17日、ツイッターを通じ、UAEの事実上の指導者であるアブダビ首長国のムハンマド皇太子に書簡を送り、エルサレムに招待したと明らかにした。イスラエルのネタニヤフ首相は同日、UAEとの間で航空機の直行便の就航に向け、準備を進めていると説明した。

コーヘン氏は「より多くの湾岸、アフリカのイスラム教国と合意ができるだろう」と述べた。バーレーンやオマーンはすでに正常化合意への支持を表明した。両国はUAE、サウジアラビアなどを含めた6カ国で湾岸協力会議(GCC)という地域協力の枠組みを形成しており、外交でも同一路線を採用しやすい。

イスラエルとUAEの正常化合意は米国による対イラン包囲網構築の一環だとみられている。アラブ世界で初めてイスラエルと国交を結んだエジプトも今回の合意に賛意を表明した。イランのロウハニ大統領は15日「UAEは大きな過ちを犯した」と激しく反発した。

これまでイスラエルと国交を結ぶイスラム諸国が少なかったのは、イスラエルが1948年の建国時にパレスチナの土地を奪い、住民を追放したと非難してきたためだ。パレスチナの住民の多くはイスラム教徒だ。ユダヤ教徒が主体のイスラエルとは宗教が異なる。

なかでもアラブ諸国はイスラエルと国境を接するエジプト、ヨルダンが国交を持つだけ。湾岸諸国ではUAEが初めてイスラエルと外交関係を正常化することになる。

アラブ諸国には含まれないが、イスラエルと国交のあるイスラム諸国の一つであるトルコはUAEとイスラエルの正常化合意を非難している。トルコはパレスチナを支援する姿勢を強調し、イスラム世界で一定の発言力を維持する狙いだ。

アラブの一般市民にも正常化合意への受け止め方に温度差がある。UAEの国民の年齢の中央値は32歳。2000年のパレスチナにおける第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)も遠い記憶だ。多くの若者は、イスラエルとの国交正常化よりも7月の火星探査機打ち上げに興奮した。

合意の発表後、パレスチナなどで反UAEデモが起きた。だが、同国のドバイに住む大学生(20)は「パレスチナ問題はアラブの課題の一つにすぎない」と話す。UAE指導者がこれまで考えられなかったイスラエルとの正常化に踏み切ることができた背景にはこうした価値観の変化がある。

イスラエルへの対応をめぐり、イスラム社会に混乱が広がれば、地域の紛争や政治対立の行方に影響を与えかねない。

イラクの民衆の多くは今年の猛暑も電力なしで過ごすことを強いられている。戦争やテロで破壊された発電所や送電設備の復旧は、ほとんど進まない。宗派・民族対立で政府は機能不全に陥ったままだ。大きな権力を握るのはイランと同じイスラム教シーア派で、スンニ派の不満は大きい。

首都ベイルートでの爆発で経済危機が深まるレバノンも似た構図だ。イランを後ろ盾とするシーア派が強力で、サウジの後押しを受けるスンニ派、欧米に近いキリスト教徒などと主導権を争う。親イラン政権では米欧などからの経済支援を望みにくく、辞任を表明したディアブ首相の後任選びは難航している。

19年に本格化したリビア内戦はトルコと、エジプト・UAE連合などアラブ勢の代理戦争の様相を呈してきた。イエメンやシリア内戦でも対立構造の論理が働く。』

〔ベラルーシ情勢〕

[社説]ベラルーシに民主化圧力を
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62715490X10C20A8SHF000/

ベラルーシ大統領 条件付きで権限移譲案
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62732580X10C20A8MM8000/

政治危機のベラルーシ、企業でストライキ広がる
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62740160Y0A810C2EAF000/

ベラルーシで10万人退陣要求 ロシアは「助力の用意」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62721310X10C20A8FF8000/

ロシア、ベラルーシ情勢を注視
ルカシェンコ大統領見限りも
https://www.47news.jp/world/5148042.html
『【モスクワ共同】9日のベラルーシ大統領選で圧勝と発表されたルカシェンコ大統領への市民の抗議行動が拡大する中、ロシアはルカシェンコ政権が持ちこたえるかどうか注視している。介入して同氏を支えるか、見限って新たな親ロシア政権樹立に動くか、プーチン大統領は慎重に見極めているとみられる。

 ロシアは1999年以来、ベラルーシと「連合国家」を形成、同国を北大西洋条約機構(NATO)と対峙する「欧州正面」と位置付けている。2014年の政変で親ロ派政権が倒れたウクライナのように、ベラルーシを影響圏から失うことは断固阻止する決意だ。』

ベラルーシで邦人男性拘束 デモ続く首都在住
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62738810Y0A810C2FF8000/

日本の金融立国遠く 税制優遇に異論、香港人材獲得に壁

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62726940X10C20A8EE8000/

『日本がめざす金融立国が遠い。中国の国家安全維持法で揺らぐ香港から高度人材を呼び込もうと政府・与党内で浮上した税制優遇案には、慎重論が早くも渦巻く。海外に比べた所得税や相続税の負担の重さを和らげる道筋は見えない。外国人家族が暮らしやすい生活環境の整備も遅れている。

このほど金融庁は内々に2021年度の税制改正要望の素案をまとめた。資産運用会社の法人税軽減や、役員報酬の損金算入制限の緩和など現状の課題に沿った内容だ。

例えば運用成績と連動する役員報酬は現在、上場企業でなければ損金(経費)と認められない。先進国では珍しい仕組みで、金融機関のアジア部門トップらが日本を避ける一因とされる。

「ネバー・ダイ・イン・ジャパン(日本では死ねない)」。日本の税制では海外資産まで広く網をかける相続税も世界の金融界で評判が悪い。そこで金融庁は非永住の高度人材に限り、入国時点の国外資産に課税しない特例案を検討する。

本丸の所得税については自民党の外国人労働者等特別委員会で引き下げを求める声が上がる。現在、1千万円の課税所得に対する日本の税率は33%と、シンガポールの15%や香港の17%に比べ高い。1億円の場合は日本は45%、シンガポールは22%、香港は17%とさらに差が広がる。金融所得に限れば日本の15%に対してシンガポール、香港は非課税だ。

【関連記事】
金融人材獲得、税優遇検討を 香港にらみ自民が提言へ
香港ファンド、日本へ退避可能に 金融庁最短3日承認
一国二制度が事実上崩れた香港は国際金融センターとしての地位が揺らぐ。アジアの金融ハブとして東京の存在感を高めるチャンスで、改革の機運は再び盛り上がっている。しかし香港情勢が追い風となるはずの一連の税制改正の構想が実現するかは不透明だ。

金融庁の素案には政府内で異論が噴出し、修正作業が始まった。もともと業種を絞った優遇策は公平性を大原則とする税の世界にはなじみにくい面がある。特に金融人材については「金持ち優遇」との見方がつきまとってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が打撃を受ける現状ではなおさらだ。

税制改正をつかさどる与党の税制調査会幹部は今回も慎重な姿勢を崩していない。国際的に、いたずらな税率の引き下げ競争に歯止めをかけようとする議論もある。

課題は税制だけではない。「なぜこれほど厳しいんだ」。ある香港の金融人材は日本の行政書士に不満をぶつけた。今の在留資格制度は家族以外の帯同を1人しか認めない。海外のように家政婦と運転手をそれぞれ雇う普通の生活が送れない。家政婦が自身の子供を連れてくるのも難しい。

世界で活躍する金融人材にとって魅力的な教育機関が日本に少ないといった声も聞こえる。いずれも十年一日の課題だ。金融立国や国際金融都市の構想は過去に何度も浮かんでは消えてきた。

今回はどうか。水面下では在留資格の問題を含む総合的な政策パッケージを検討する首相官邸主導のチームが発足し、省庁横断の議論も始まっている。経済構造の転換を迫るコロナ禍に香港問題が重なる今こそ日本の金融の成長戦略を再考する好機であるのは確かで、具体的な中身が問われる。』

コロナ対策でASEAN支援 政府、対中国で米とくさび打つ

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62730900X10C20A8PP8000/

『政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)の新型コロナウイルス対策を支援する。茂木敏充外相が8月に各国を訪問し、医療機器や物資の供給協力を提案する。コロナ支援を通じ、中国に傾斜しないよう米国とくさびを打つ。

茂木氏は12日からまずシンガポールとマレーシアを訪れた。20日からはパプアニューギニア訪問に続いて、カンボジア、ラオス、ミャンマーの東南アジア3カ国に足を延ばす。既に医療用の病床や救急車などを供与すると決めている。

この3カ国にタイとベトナムを加えた「メコン地域5カ国」とは7月、医療機材など総額116億円相当を支援すると合意した。茂木氏は支援の方針を改めて伝える。

コロナ対策で各国との往来を規制して以降、これ以外の海外出張は英国のみ。東南アジアを中心に選んだのは中国を意識した結果だ。

外務省幹部は「ASEANを日本や米国の側につなぎ留めなくてはいけない」と説明する。

中国はコロナ対策で医師団や医療物資を送る「マスク外交」を展開する。ASEANは重点地域の一つだ。医療体制が脆弱で海外からの支援を必要とする国は多い。経済だけでなく医療でも中国への依存を深めて影響力を高める狙いがある。

たとえば王毅(ワン・イー)外相は7月30日、インドネシアのルトノ外相と電話し、コロナのワクチン開発協力を約束した。東南アジアで感染者が多いインドネシアにとっては重要な支援となる。ミャンマーやラオス、カンボジアはもともと中国と近い関係にある。

日本政府が見据えるのは9月のASEAN地域フォーラム(ARF)から始まる一連のASEAN関連の国際会議だ。

ポンペオ米国務長官が7月に南シナ海での中国の主張を「完全に違法」と断じる声明を出した後、初めて日米中などの外相や首脳が南シナ海問題を協議する場となる。

ASEAN外交筋によると、7月に開いたテレビ会議による次官級の準備会合で米中は早くも火花を散らした。スティルウェル米国務次官補が南シナ海問題で国際法の順守を訴えると、中国の羅照輝外務次官は「米国は国連海洋法条約に入ってから批判すべきだ」と切り返した。

ASEANは南シナ海問題で一枚岩ではない。中国と領有権問題を抱えるフィリピンでさえ「米中いずれとも対峙するつもりはない」(ドゥテルテ大統領)と等距離を保つ。米中にとってASEAN各国の支持をどう取りつけるかが、南シナ海問題で優位に立つために重要になる。

コロナ対策と経済回復への協力は有効な外交手段となる。フィリピンやインドネシアではコロナの感染拡大が止まらず収束の見通しが立たない。

2020年4~6月期は多くの国でマイナス成長に陥るなど経済の落ち込みも深刻だ。それだけに米国は中国のコロナ支援を警戒し、日本などの友好国と連動してASEANを支援する。

ポンペオ氏は3日、インドネシアのルトノ氏との電話協議で、中国と同様にワクチンの開発協力を呼びかけた。南シナ海問題に関し国際法を尊重する方針も確認した。

シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンのASEAN各外相と立て続けに電話し、中国に対抗する姿勢を鮮明にした。米国の同盟国であるオーストラリアも6月末、ASEANとの外相会議を開いて経済支援を約束した。

日本にとってASEANとの外交は特別な意味がある。米国から遠い東南アジアで影響力を持つことが日本の価値を高めるカードになってきた。

岸信介元首相や第2次政権での安倍晋三首相は初の外遊先に東南アジアを選び、米国と付き合う土台とした。11月の米大統領選でトランプ氏とバイデン氏のどちらが勝利したとしても、東南アジアとの関係は日本外交の武器となる。』

米の対中警戒、「冷戦期のソ連以上」に

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62716160X10C20A8EA2000/

『【ワシントン=中村亮】トランプ米政権が中国の脅威を「冷戦期のソ連以上」とみなして警戒している。中国は核兵器を含め大幅に軍備の拡張を続け、積極的な海洋進出も見せている。ソ連と異なり成長力も高く、強い経済を背景に今後も軍事力の増強が続く見通しだ。偶発的な衝突のリスクへの不安も出ている。

米国とロシアは17日からウィーンで核軍縮をめぐる高官級協議を開く。

これまでの米ロ核軍縮協議で、米国は中国が保有する核弾頭は現在の数百発から2020年代のうちに倍増以上になると訴えてきた。最新鋭のミサイルや戦略爆撃機の配備も踏まえ、中国を加えた核軍縮の枠組みが必要だと主張している。

同協議で米国の交渉責任者を務める国務省のマーシャル・ビリングスリー大統領特使(軍備管理担当)は14日、日本経済新聞のインタビューに応じた。中国の軍拡について「ロシアにとっても懸念のはずだ」と指摘し、中国に軍縮を促すようロシアに秋波を送った。

将来の核軍縮の枠組みをまず米ロで固めた上で、その後に中国に参加を迫る「2段階方式」にも言及した。「とても賢い手法だ」と述べ、米ロで中国に軍縮を迫る方法を模索する考えを示した。

米国では冷戦を戦ったソ連より中国の方が脅威だ、との見方も広がる。

ポンペオ米国務長官は12日、訪問先のチェコで演説した。ソ連を引き合いに出して「中国共産党の脅威に対抗するのはより困難だ」と強調した。

7月下旬にはレーガン元大統領がかつての対ソ戦略で「信頼せよ、しかし確かめよ」の方針だった、と紹介した。その上で「中国に関していえば『信頼するな、そして確かめよ』になる」と、ソ連以上の不信感で中国に臨むべきだと訴えた。

冷戦下の経済競争に敗れたソ連と異なり、いまの中国は近い将来、米国を経済面で追い抜く勢いだ。豊富な資金を軍事力に投入している。ソ連に比べると海軍力の強化も目立つ。空母や潜水艦などの展開力が高まれば、米国本土が戦闘機やミサイルの脅威にさらされる懸念も出てくる。

米国は軍事面で次々と手を打つ。米海軍は2月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に「小型核弾頭の実戦配備を始めた」と明らかにした。

小型核は通常型に比べて爆発力が小さく、敵国の軍事施設や重要インフラを局所的に攻撃できる。「使いやすい核」といわれ、米軍は抑止力強化につながると説明する。配備先は公開していない。中国の周辺であるインド太平洋地域が有力だといわれている。

空軍は4月から、米領グアムに戦略爆撃機のB52、B1、B2を交代で継続的に配備する運用をやめた。04年から続けてきたやり方をやめ、米本土から機動的に派遣するよう切り替えた。

規則的に運用すれば作戦を見抜かれやすい。元国防総省高官は「運用の不確実性を高めて中国をけん制する」と話しており、中国の脅威に敏感になっている。米メディアによると14日には台湾に戦闘機F16の最新型を66機売却すると発表。原子力空母も南シナ海に派遣して演習をしている。

ビリングスリー大統領特使は14日、開発中の中距離ミサイルについて日本がアジアでの配備候補地になると語った。日本が「敵基地攻撃能力」の保有を検討していることにも支持を表明した。いずれも北朝鮮だけでなく、中国の脅威も念頭に置いたものだ。

一方で米中では偶発的な衝突のリスクもある。元国防総省高官は「ロシアに比べて中国との対話ルートは細い」と懸念を示す。米ロには冷戦期から不測の事態に備えた意思疎通の仕組みがあった。米ロが駐留するシリアでは軍当局者が綿密に連絡を取り合う。米中にはこうした枠組みは乏しい。エスパー国防長官は年内の訪中を探っており、米中の軍当局者間の関係を強化する狙いがある。』