〔日経、その他の地域関連〕

世界の出稼ぎ送金25%減 失業や帰国、新興国に打撃
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61702070Z10C20A7MM8000/

『【マニラ=遠藤淳、メキシコシティ=宮本英威】新型コロナウイルスの感染拡大が、出稼ぎ労働者の送金を直撃している。今年の新興国への送金額は前年比で25%落ち込む見通しだ。労働者が都市封鎖などで失業しているためだ。送金に頼る貧困層が多い新興国経済への打撃は深刻だ。

「配給される米や缶詰でしのぐしかない」。フィリピンの首都マニラに住むエドウィン・リゾンさん(54)はこう嘆く。長男がサウジアラビアの建設会社で働いていたが経済活動停止で、食費にあてていた月1万ペソ(約2万1千円)ほどの送金がほぼ途絶え、食べる物にも事欠く毎日だ。

出稼ぎ送金は新興国を中心に経済に大きな役割を果たしている。送金額の国内総生産(GDP)への貢献度は米への移民が多い中米エルサルバドルやホンジュラスではほぼ20%。中東レバノンやエジプトでも10%を超える。送金は自国の家族の生活を支え、経済面では消費のけん引役となっている。

衣料品やコーヒー産業のほか目立った産業のないエルサルバドルでは、国内で生活に十分な所得が得られる仕事を探すのは非常に難しく、米への出稼ぎで本国の家族を養う人が少なくない。毎年のように中米から米を目指す「キャラバン」と呼ばれる移民集団が発生するのも中米諸国で同じ状況があるからだ。

国内で十分に稼げる産業が育っていないフィリピンも伝統的に出稼ぎ労働者を送り出してきた。人口の1割にあたる約1000万人が米国など海外で働く。しかし新型コロナの影響で状況は一変した。ベリョ労働雇用相は6月下旬、「40万人の出稼ぎ労働者が職を失った」との見方を示した。

実際、フィリピンへの送金額は4月に20億4600万ドルと前年同月比16.2%減った。都市封鎖などで出稼ぎ先の職を失い8万人近くが帰国している。20年の送金額は19年ぶりの前年割れとなるのは確実だ。中央銀行は20年の送金額は301億ドルだった19年から5%減少し、GDPを0.4ポイント押し下げると予想する。

エルサルバドルも4月の送金額は前年同月比40%落ち込んだ。危機感を強めた政府は送金手数料を無料とする施策を導入したが、それでも5月も減少傾向は止まらず18%も落ち込んだ。大半が米国からの送金だが、多くの州で新型コロナの感染再拡大が起きており、経済の回復が遅れており送金額が増加に転ずるのは難しい。

新興国にとって出稼ぎ労働者からの送金は、輸出や観光産業に並ぶ重要な外貨獲得源であり、政府の外貨準備の積み上げにも寄与してきた。送金の減少も一因となり、エジプトでは3~5月にかけて外貨準備が減少した。国際送金の落ち込みが長引けば、新興国経済の成長だけでなく安定性、健全性にも影を落としかねない。』

キューバ、対米関係改善見えず 国交回復5年
大統領選に期待も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61702140Z10C20A7FF8000/


『メキシコシティ=宮本英威】キューバが米国と54年ぶりに国交を回復してから20日で5年を迎える。当時の”雪解け”ムードはトランプ政権による制裁強化で一転し、経済は停滞したままだ。米との関係改善のチャンスは11月の米大統領選で民主党政権への交代しかなさそうだ。

首都ハバナの西方に広がるマリエル開発特区。機械設備の輸入税免除などの優遇策で、キューバ政府が外資誘致の起爆剤として期待している場所だ。18年末時点で43の計画が承認されたが、政府の期待とは裏腹に稼働までこぎ着けたのは半分程度。19年から新規のプロジェクトの承認はないもようだ。

外国企業の事業中断も目立つ。欧州の航空機メーカーATRは航空機2機の納入を中止し、フランスの複合企業ブイグはハバナ国際空港の改築工事を中断した。ロドリゲス運輸相は「米制裁が直接的に影響を及ぼしている」と嘆く。』
『米国とキューバが国交正常化交渉を始めると発表したのは、オバマ前米大統領とカストロ前国家評議会議長時代の14年12月に遡る。15年7月には両国の大使館が開設され国交が回復した。オバマ前政権は航空便やフェリーの運航を許可し、両国の行き来は活発になり、成長に期待する「キューバブーム」も起きた。

それが17年1月のトランプ米大統領就任で状況は一変する。オバマ前政権が緩和した制裁を段階的に復活させた。キューバ政府が接収した資産に関しては、米国人が損害賠償を請求する訴訟をおこせる対象に外国企業も含め、欧州やカナダによる投資をけん制した。その結果、外国企業はキューバとの取引に及び腰になっている。

キューバでは国交回復を契機に、米からの訪問者の増加を当て込んで飲食や宿泊を中心に自営業者が大幅に増えた。19年時点で62万人と、14年比で3割増えた。トランプ政権による査証取得の厳格化で米国からの訪問者数は急減。現在は新型コロナウイルスの感染拡大で観光がストップし、自営業者は青息吐息だ。』
『キューバ政府は新型コロナの感染拡大抑制には比較的成功しているが、経済浮揚策は打ち出せていない。国民は11月の米大統領選の結果に期待を寄せている。

大統領選の世論調査では、米民主党のバイデン前副大統領が、現職のトランプ氏に対して優位に立つ。バイデン氏は国交を回復したオバマ前政権下で副大統領を務めており、キューバ国内では制裁緩和に期待を寄せる声は多い。

バイデン氏は4月、米CBSの取材に応じた際に対キューバ政策について「大部分では戻す」と述べた。米議会内でもキューバとの関係改善を求める声はあり、19年7月には米民主のパトリック・リーヒ上院議員らがキューバへの行き来の自由を求めた法案を出している。

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は15日、キューバの20年の実質経済成長率を従来のマイナス3.7%からマイナス8%に下方修正した。かつては割安の石油輸出でキューバを支えた南米ベネズエラも自国の混乱で余力を失っており、厳しい状況が続いている。』

アサド政権20年、内戦「勝利」も深まる孤立
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61666510X10C20A7FF8000/
『【イスタンブール=木寺もも子】シリア経済の苦境が深まっている。17日で20年を迎えたアサド政権は内戦の勝利者として地位を固めたものの、国内外に1000万人以上の避難民を生み、国土は荒廃した。国際的に孤立し、40兆円にも上るとされる国土再建のための経済支援は望めない。

「アサド政権は去れ」。6月、シリアの独立系メディアは、政権が支配する地域では異例のデモを報じた。背景には、急速に悪化するインフレがある。隣国レバノンの経済危機で同国からの外貨供給が滞ったことで、通貨シリアポンドの実勢レートは1ドル=2000ポンド台と1年前の3分の1で推移する。

ネットではアサド大統領の父ハフェズ前大統領の肖像が印刷された紙幣を手巻きして作ったたばこに火をつける画像が出回る。窮した政権は5月、アサド氏のいとこで大富豪のラミ・マクルーフ氏の資産を差し押さえるなど、体制側でも不協和音が響く。

11年に始まった内戦で、当初劣勢だったアサド氏はロシアとイランの支援を得て国内の主要地域をほぼ掌握し、軍事的な優位を固めた。政権の転覆を図っていた米国のジェフリー・シリア担当特別代表は6月「アサド政権を排除しなければいけない訳ではない」と方針転換を明言した。

問題は、国連や政権が2500億~4000億ドル(約27兆~43兆円)などとする巨額の復興費用をロシアやイランに捻出する力はないことだ。政権転覆は棚上げした欧米も、民主化や人権状況の改善といった政権自身の変革なしに対話に応じる気配はない。

米国は6月、新たな対シリア制裁法「シーザー法」を発動した。復興ビジネスへの参画に関心をみせていたアラブ首長国連邦(UAE)企業なども、シリアと取引すれば制裁対象になり、政権には打撃だ。

もっとも、米中東研究所のランダ・スリム上級研究員は「制裁でアサド政権を追い詰めても、それだけで体制内の変革は期待しにくい」と指摘する。むしろ、欧米から孤立した政権が飢えた国民を抱えたまま中長期にわたって存続する「北朝鮮化」のリスクがあるとしている。

かつてロンドンで眼科医を務め、ロンドン大卒の妻を持つアサド氏には「国際派」としての期待もあった。だが、アサド政権下で民主化や対米関係の改善は進まず、自国民への毒ガス攻撃などの残虐行為で独裁者としての評価を決定的にした。20年前は中所得国だったシリアでは、今や国民の大半が貧困状態にある。』