サウジ皇太子就任3年 「脱石油」に危うさ
ライバル振り切り、収益化急ぐ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60638380S0A620C2FF1000/



『皇太子の絶大な力を支える資産は4つある。石油、イスラム教聖地、対米関係、国民の人気。いずれもが揺さぶられる。
コロナ危機で頼みの石油価格が急落。ロシアなどライバルの産油国を振り落とす増産戦略は米国の不信を買った。世界の信者を聖地に受け入れる7月のハッジ(大巡礼)は、コロナ感染で縮小や中止が取り沙汰される。』
『34歳の若き皇太子はサルマン国王の死後も長く指導者として君臨する可能性がある。だが、皇太子の改革は時間との戦いでもある。
プリンストン大学のバーナード・ハイケル教授は「原油資産のマネタイズ(収益化)を皇太子は急いでいる」と指摘する。石油市場の安定を担う調整役の役割を降り、しゃにむに利益を追う戦略に転じたという説だ。』
『「ピークオイル(石油時代の終わり)」は埋蔵資源の枯渇ではなく、需要の消失で起きるとの見方が強まっている。再生エネルギーの技術革新は石油離れを早め、ピークはコロナ危機前の2019年だった可能性すらある。』
『サウジがねらうのは、原油が「座礁資産」に転じる前の最終局面で、市場の支配者としての利益を最大化することだ。圧倒的に低い生産コストを誇るサウジは、高コストのロシアやシェール企業を振り切ることができる。原油安は再生エネや電気自動車の開発投資を遅らせる効果もある。』
『戦略遂行の武器は国営石油会社サウジアラムコと、政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の2つだ。皇太子は信頼する元投資バンカーのルマイヤン氏に両組織のトップを兼務させる。
アラムコに国営石油化学のサウジ基礎産業公社(SABIC)を買収させ、石油の上流から下流までを支配する巨大企業へと脱皮させた。PIFには1~3月期に、コロナ危機で大きく値下がりした英BPなどの石油株を取得させた。
「脱石油の看板とは裏腹に、現実は石油への依存を強めている」と在米のサウジ専門家、エレン・ワルド氏はいう。』
『石油に頼らない国づくりをめざした国内改革は誤算続きだ。期待した娯楽や観光事業の育成はコロナ危機で打撃を受け、産業多角化の道筋はみえない。
コロナ対策で各国が財政出動するなか、サウジは7月1日から付加価値税を3倍の15%に引き上げる。改革の利益が遠のくなか「痛み」ばかりが広がる。民主化は置き去りにされたままだ。
国際的な孤立も深まる。米民主党の大統領候補バイデン氏は18年のサウジ人記者殺害事件への皇太子の関与を指摘。「パーリア(嫌われ者)」という異常に強い言葉で批判した。隣国イランは、安全保障上の深刻な脅威となった。同じアラブのカタールへの一方的な断交通告は同国のイランへの接近をまねいている。』