G を生成系とする R-係数の形式的な(「有限」)線型結合の全体(G 上の R-自由加群、特に R が体のときは自由ベクトル空間)を R[G] と書く(RG とも書かれる[1])。即ち、任意の元 x ∈ R[G] は
x
∑ g ∈ G a g g ( a g ∈ R ) {\displaystyle x=\sum {g\in G}a{g}\,g\quad (a_{g}\in R)} の形に書ける。
ただし、右辺の和において有限個の例外を除く全ての g に対して ag = 0 でなければならない。G の元と R[G] の元との区別を明確にする場合には、各元 g ∈ G に対応する生成元を eg などと書いて
x
∑ g ∈ G a g e g {\displaystyle x=\sum {g\in G}a{g}\,e_{g}} のようにも書く[2][注 2]。この集合 R[G] 上に項ごとの和
( ∑ g ∈ G a g g ) + ( ∑ g ∈ G b g g ) := ∑ g ∈ G ( a g + b g ) ⋅ g {\displaystyle (\sum {g\in G}a{g}\,g)+(\sum {g\in G}b{g}\,g):=\sum {g\in G}(a{g}+b_{g})\cdot g} を加法とし、G の積を線型に拡張した
( ∑ g ∈ G a g g ) ( ∑ g ∈ G b g g ) := ∑ g , h ∈ G ( a g b h ) ⋅ g
h
∑ g ∈ G ( ∑ h ∈ G a h b h − 1 g ) ⋅ g {\displaystyle (\sum {g\in G}a{g}\,g)(\sum {g\in G}b{g}\,g):=\sum {g,h\in G}(a{g}b_{h})\cdot gh=\sum {g\in G}(\sum {h\in G}a_{h}b_{h^{-1}g})\cdot g} を乗法とする環を成し、さらにスカラー倍
r ⋅ ( ∑ g ∈ G a g g ) := ∑ g ∈ G ( r a g ) ⋅ g {\displaystyle r\cdot (\sum {g\in G}a{g}\,g):=\sum {g\in G}(ra{g})\cdot g} により R 上の多元環(線型環)を成す。この多元環 R[G] を G 上の R-係数の群環、G で生成される R 上の群環などと呼ぶ。
(離散位相に関して)群 G 上の R-値コンパクト台付き連続函数全体の成す空間 Cc(G; R) の元 f は、群 G から可換環 R への写像 f: G → R であって、有限な台を持つ(つまり有限個の例外を除き f(g) = 0 (g ∈ G) となる)ようなものである。点ごとの和 ( f + h ) ( g ) := f ( g ) + h ( g ) ( g ∈ G ) {\displaystyle (f+h)(g):=f(g)+h(g)\quad (g\in G)} と畳み込み ( f ∗ h ) ( g ) := ∑ γ ∈ G f ( γ ) h ( γ − 1 g ) {\displaystyle (f\ast h)(g):=\sum _{\gamma \in G}f(\gamma )h(\gamma ^{-1}g)} およびスカラー倍 ( r f ) ( g ) := r ( f ( g ) ) ( r ∈ R ) {\displaystyle (rf)(g):=r(f(g))\quad (r\in R)} のもと Cc(G; R) は R 上の多元環となる。 G の各元 g に対して、一点集合 {g} の R-値指示函数(ディラックのデルタ函数)
δ g ( h ) := {
1
1 R (
h
g )
0
0 R ( h ≠ g ) {\displaystyle \delta {g}(h):={\begin{cases}1=1{R}&(h=g)\0=0_{R}&(h\neq g)\end{cases}}} を考えるとき、Cc(G; R) は R 上の標準基底として {δg | g ∈ G} を持ち、
R [ G ] → C c ( G ; R ) ; ∑ g ∈ G a g g ↦ ∑ g ∈ G a g δ g {\displaystyle R[G]\to C_{c}(G;R);\;\sum {g\in G}a{g}\,g\mapsto \sum {g\in G}a{g}\delta _{g}} は多元環の同型である。しばしばここでいう Cc(G; R) を(1. の場合と同じく) R[G] などとも書き、G の R 上の群環と呼ぶ[2]。
G が有限群ならば、この Cc(G; R) は G から R への写像全体の成す空間 RG (= R(G) = Hom(G, R)) に他ならない。これは無限群の場合には一般には成り立たないが、それでも以下に示すような意味で群環 R[G] と写像空間 RG は互いに双対の関係にある:
群環の元
x
∑ g ∈ G a g g {\displaystyle x=\sum {g\in G}a{g}\,g} と R-値写像 f: G → R の対に対して、内積
( x , f
)
∑ g ∈ G a g f ( g ) ∈ R {\displaystyle (x,f)=\sum {g\in G}a{g}f(g)\quad \in R} が矛盾なく定まる(右辺が実質有限和であることに注意せよ)。
例 位数 3 の巡回群 G = ⟨ g | g3 = 1 ⟩ を取り、ω = exp(2πi/3) とおく。 このとき
e 1 C G ⊕ e 2 C G ⊕ e 3 C G ≅ ( C 0 0 0 C 0 0 0 C ) {\displaystyle \mathbb {C} G=e_{1}\mathbb {C} G\oplus e_{2}\mathbb {C} G\oplus e_{3}\mathbb {C} G\cong {\begin{pmatrix}\mathbb {C} &0&0\0&\mathbb {C} &0\0&0&\mathbb {C} \end{pmatrix}}} 群環上の加群 →詳細は「群上の加群」を参照 環 K 上の群環 K[G] を環と見るとき、環 K[G] 上の加群は、群 G 上の加群と呼ばれる。群 G の表現は G-加群の言葉で読みかえることができる。特に
単純 G-加群は G-既約表現のことである。 G の表現空間が K-加群 V1, V2 であるとき、表現の間の準同型は、G-加群 V1, V2 の間の K-線型準同型のことであり、その全体は HomG K(V1, V2) などで表される。 古典的な結果として、もともとは係数環 K が複素数体 C で、群 G が有限群の場合に得られたものだが、そのような条件のもとで群環 K[G] が半単純環となることを示すことができて、それは有限群の表現において深い意味を持つ事実である。より一般に、マシュケの定理と呼ばれる以下の定理が成り立つ:
定理 (Maschke) 有限群 G の位数が体 F の標数と互いに素なとき、あるいは標数 0 のとき、群環 FG は半単純である。 特に、群環 C[G] が半単純であることは、それが C に成分をとる行列環の直和として理解することができることを意味する。
G が有限アーベル群ならば、群環は可換環であり、その構造は 1 の冪根を用いて容易に記述することができる。係数環 R が標数 p の体で、その素数 p が有限群 G の位数を割るならば、群環は半単純でなく非自明なジャコブソン根基を持つ。このことは、そのような条件下でのモジュラー表現論における対応する主題において重要な意味を示す。
性質 基本性質 環 R が乗法単位元 1 = 1R を持つとき(群 G の単位元は 1 = 1G と書くことにする)、群環 R[G] は R に環同型な部分環を持ち、またその単元群は G に群同型な部分群を含む。実際、
R → R [ G ] ; r ↦ r ⋅ 1 G ( or r ↦ r δ 1 G ) {\displaystyle R\to R[G];r\mapsto r\cdot 1_{G}\quad ({\text{or }}r\mapsto r\delta {1{G}})} は単射環準同型であり、同様に
G → ( R [ G ] ) × ; g ↦ 1 R ⋅ g ( or g ↦ δ g ) {\displaystyle G\to (R[G])^{\times };\;g\mapsto 1_{R}\cdot g\quad ({\text{or }}g\mapsto \delta _{g})} は乗法群に関する単射群準同型になる。特に、1R⋅1G は R[G] の乗法単位元である。
R が可換環であり、かつ G がアーベル群であるとき、群環 R[G] は可換多元環である。 H が G の部分群ならば、群環 R[H] は R[G] の部分環である。同様に、S が R の部分環であるとき、群環 S[G] は R[G] の部分環である。 群環の中心 →「類函数」も参照 環 K[G] の積の定義の仕方から、その環としての中心は G 上で定義されたK-値類函数(つまり、G の各共軛類上で定数となる函数)の全体に一致する。これは配置集合 KG の部分線型空間で、各共軛類 c ∊ C の指示函数の族 (1c)c∊C を標準基底に持つ(これらの指示函数は KG の標準基底によって1c = ∑s∊cδs と分解できる)。
また、KG 上の非退化な対称双線型形式(内積)を
( f ∣ h
)
1 g ∑ s ∈ G f ( s ) h ( s − 1 ) {\displaystyle (f\mid h)={\frac {1}{g}}\sum _{s\in G}f(s)h(s^{-1})} で定義することができる。
既約指標の全体はこの類函数の空間の正規直交基底を成す これにより、(この部分空間の次元を考えて)
既約表現の(同型類の)総数は、群の共軛類の数 h に等しい ゆえに、群 G の K 上の既約表現 (S1, ρ1), … (Sh, ρh) が(同型を除いて)存在して、それらの指標 χ1, …, χh が群環 K[G] の中心の基底を成す。
アルティン–ウェダーバーンの定理 前節の記号を引き続き用いて以下の基本的な定理が直接的に示せる。
群環 K[G] は群 G の h-個の既約表現 Si の K-自己準同型環 EndK(Si) の直和に同型である: K [ G ] ≃ ⨁
i
1 h End K ( S i ) . {\displaystyle K[G]\simeq \bigoplus {i=1}^{h}\operatorname {End} {K}(S_{i}).} さらに K が代数閉体と仮定すれば、有限次元半単純環に関するアルティン・ウェダーバーンの定理から同じ結果が得られる。 群環 K[G] は KG の部分空間であるから、各Si の次元を di とすれば、群環自身の次元は
g
∑
i
1 h d i 2 {\displaystyle g=\sum {i=1}^{h}d{i}^{2}} で与えられる(K が正標数の場合はfr:Représentation régulière#Identités remarquablesを見よ)。 K[G] の元 f が中心に属するための必要十分条件は、その成分が Si 上の相似拡大 (homothety) となることである。さらに類函数に関する結果を用いれば、その Si における相似比 λi が λ
i
1 d i ∑ s ∈ G f ( s ) χ i ( s ) {\displaystyle \lambda {i}={\frac {1}{d{i}}}\sum {s\in G}f(s)\chi {i}(s)} で与えられる。 正則表現 →詳細は「正則表現 (数学)」を参照 群 G の正則表現 λ は、既に述べた対応により自然に群環 K[G] 上の左 K[G]-加群の構造に対応する。前節で述べた群環の分解に従えば:
G の正則表現は G の既約表現 ρi をその次数 di と同じ数だけ重複したものの直和 ( K G , λ ) ≃ ⨁
i
1 h d i ( S i , ρ i ) {\displaystyle (K^{G},\lambda )\simeq \bigoplus {i=1}^{h}d{i}(S_{i},\rho _{i})} に分解される。即ち、この λ に付随する半単純加群の等型成分(英語版)は d i ( S i , ρ i
)
( S i , ρ i ) ⊕ ⋯ ⊕ ( S i , ρ i ) ⏟ d i summand ( d
応用 フロベニウス相互律 →詳細は「フロベニウス相互律(フランス語版)」を参照 群環の構造を用いるよい例としてフロベニウス相互律を挙げられる。これは G-加群の誘導表現(英語版)を構成する方法とも理解される。有限群 G の部分群 H と K[H]-加群 W に対して、W から誘導される G-加群とは
V ≃ K [ G ] ⊗ K [ H ] W {\displaystyle V\simeq K[G]\otimes _{K[H]}W} のことを言う(⊗K[H] は K[H]-加群としてのテンソル積である)。この誘導表現は、H-加群 W の(環 K[H] から K[G] への)係数拡大に対応する。H が G の正規部分群のときは、この誘導表現は H による半直積に同値である。
フロベニウス相互律は、誘導表現の指標に関する内積を計算するための便法を与える。ψ を H の表現 θ としての H-加群 W の指標とし、χ を G の表現 ρ の指標とする。ψ の G への誘導表現の指標を Ind ψ、ρ の H への制限の指標を Res χ とすれば、フロベニウス相互律とは
⟨ Ind H G ψ ∣ χ ⟩
G
⟨ ψ ∣ Res H G χ ⟩ H {\displaystyle \langle \operatorname {Ind} {H}^{G}\psi \mid \chi \rangle {G}=\langle \psi \mid \operatorname {Res} {H}^{G}\chi \rangle {H}} なる関係が成り立つことを主張するものである。これはそれぞれの付随する K-多元環準同型の空間の同型 HomG(Ind θ, ρ) ≅ HomH(θ, Res ρ) を構成することで(次元を見れば)示される。
代数的整数 →詳細は「整元」を参照 u ∈ K[G] の標準基底に関する座標成分が全てℤ 上で整ならば、u は ℤ 上整である。 実際に標準基底としての G の元 δs は ℤ 上整であり、これらの生成する有限生成 ℤ-加群は実際には ℤ-多元環を成す。
前節からの記号を引き続き使用して、以下が成り立つ:
u が K[G] の中心に属する元で、その座標成分が ℤ 上整ならば以下の K の元 λ
i
1 d i ∑ s ∈ G u s χ i ( s ) {\displaystyle \lambda {i}={\frac {1}{d{i}}}\sum {s\in G}u{s}\chi _{i}(s)} もまた ℤ 上整である。 実際、上記の節によれば、この数は Si 上での相似比 ρi(u) である。先に掲げた命題によりこの相似比は ℤ 上の整元であり、相似拡大の結合は多元環の準同型となるから、もとの数もそうである。
K が標数 0 ならば以下の性質が導かれる:
既約表現の次数 di は群の位数 g を割り切る。 可換群上の調和解析 →詳細は「有限可換群上の調和解析」を参照 有限群 G がアーベル群ならば、その双対群もまた有限で G に(自然でない)同型である。故に(複素係数)群環上の調和解析の道具は有効で、フーリエ変換や畳み込みを定義し、パーシヴァルの等式、プランシュレルの定理、ポントリャーギン双対性などの定理を適用することができる。
注釈 ^ これは少々紛らわしいが、任意の群環は係数環の中心上の群多元環となるから、その文脈で何を係数環としているかが明らかならば混乱の虞は無いであろう。 ^ 特に群 G が加法的に書かれている場合、群環における乗積表は eg⋅eh = eg+h から得られるが、群の元 g を生成元 eg と同一視する記法では、群の演算と群環の形式和の区別が紛らわしい。 出典 ^ Polcino Milies & Sehgal 2002, p.129 and 131. ^ a b Polcino Milies & Sehgal 2002, p. 131. 参考文献 Alperin, J. L.; Bell, Rowen B. (1995). Groups and Representations. Graduate Texts in Mathematics. 162. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-1-4612-0799-3. ISBN 0-387-94525-3. MR1369573. Zbl 0839.20001 N. Bourbaki, Éléments de mathématique, Algèbre, chap. VIII Curtis, Charles W.; Reiner, I. (2006) [1962]. Representation Theory of Finite Groups and Associative Algebras. AMS Chelsea Publishing. doi:10.1090/chel/356. ISBN 0-8218-4066-5. MR2215618. Zbl 1093.20003 Hall, Marshall, Jr. [in 英語]. The Theory of Groups (英語). Lang, Serge. Algèbre. Passman, Donald S. (1985) [1977]. The Algebraic Structure of Group Rings. Robert E. Krieger Publishing. ISBN 0-89874-789-9. MR0798076. Zbl 0654.16001 Polcino Milies, C.; Sehgal, Sudarshan K. (2002). An Introduction to Group Rings. Kluwer Academic Publishers. doi:10.1007/978-94-010-0405-3. ISBN 1-4020-0238-6. MR1896125. Zbl 0997.20003 Serre, Jean-Pierre. Représentations linéaires des groupes finis. 関連項目 モノイド代数 フロベニウス代数 外部リンク A. A. Bovdi (2001), “Group algebra”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4 Weisstein, Eric W. “Group Ring”. mathworld.wolfram.com (英語). Barile, Margherita; Moslehian, Mohammad Sal; Weisstein, Eric W. “Group Algebra”. mathworld.wolfram.com (英語). group ring – PlanetMath.(英語) group algebra in nLab カテゴリ: 群の表現論調和解析多元環論数学に関する記事 最終更新 2021年10月12日 (火) 00:18 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。 テキストはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承ライセンスのもとで利用できます。追加の条件が適用される場合があります。詳細については利用規約を参照してください。』
環 R 上の左 R-加群もしくは R-左加群とは、アーベル群 (M, +) とスカラー乗法と呼ばれる作用 R × M → M の組であって、その作用(通常は、r ∈ R と x ∈ M に対して x のスカラー r-倍を単に文字を併置して rx と記す)は、r, s ∈ R, x, y ∈ M は任意として、条件
r ( x + y
)
r x + r y , {\displaystyle r(x+y)=rx+ry,} ( r + s )
x
r x + s x , {\displaystyle (r+s)x=rx+sx,} ( r s )
x
r ( s x ) , {\displaystyle (rs)x=r(sx),} 1 R
x
x {\displaystyle 1_{R}x=x} を満足するものでなければならない
(最後の条件は R が乗法単位元を持つときで、それを 1R で表している。環が単位的であることを仮定しない文脈では、R-加群の定義においてこの最後の条件も課されず、特にこの条件をも満足することで定まる構造を単位的左 R-加群、単型 R-左加群などと呼んで区別する。本項では用語の一貫性を図るため、特に断りの無い場合は環も加群も単位的であると仮定する)。
しばしば、スカラーの作用を fr のような形に書くこともあり、もちろん fr(x) = rx なのだが、このように書くと f を R の各元 r を対応する作用素 fr へ移す写像とみることもできて、たとえば先ほどの加群の公理の最初の条件は fr が M 上の自己準同型となることを述べていて、残りの条件は f が R から自己準同型環 End(M) への環準同型となることを要請するものになっている。
通常は演算を省略して、単に「左 R-加群 M」とか、係数環を明示するために RM のように記す。環の作用の向きだけ右からに変更して(つまり M × R → M の形のスカラー乗法があって、左加群の公理でスカラーを左に書いていたところを、スカラー r や s を x, y の右側に書くようにして)、同様に右 R-加群 M, MR が定義される。
R を勝手な環とし n を自然数とするとき、直積 Rn は成分ごとの演算で R 上の左および右加群となる。
したがって特に n = 1 のとき R 自身は環の乗法をスカラー乗法として R-加群であり、これを(左/右)正則加群と呼ぶ。n = 0 とすれば、R の加法単位元のみからなる自明な R-加群 {0} が得られる。
これらの加群は自由加群と呼ばれ、R が(たとえば可換環や体のような)不変基底数を持つ環ならば、直積の個数 n が自由加群の階数となる。
S が空でない集合で M が左 R-加群、MS を写像 f: S → M 全体の成す集合とするとき、MS における加法とスカラー倍を (f + g)(s) = f(s) + g(s) および (rf)(s) = rf(s) で定めると MS は左 R-加群となる。
右 R-加群の場合も同様。特に R が可換ならば R-加群の準同型 h: M → N の全体は R-加群になる(実は NM の部分加群となる)。
X が可微分多様体のとき、X 上の実数に値をとる滑らかな函数の全体は環 C∞(X) を成す。X 上で定義される滑らかなベクトル場全体の成す集合は C∞(X) 上の加群を成す。
X 上のテンソル場の全体や微分形式の全体についても同様である。
もっと一般に、任意のベクトル場の切断の全体は C∞(X) 上の射影加群であり、スワンの定理により、逆に任意の射影加群はあるベクトル束の切断全体の成す加群に同型になる。 すなわち、C∞(X)-加群の圏と X 上のベクトル束の圏は同値である。
成分が実数の n-次正方行列の全体は環を成す。
それを R とし、n-次元ユークリッド空間 Rn(元は縦ベクトルで考える)に対して行列の乗法によって R の作用をさだめれば、これは左 R-加群となる。
R を任意の環、I を R の任意の左イデアルとすると、I は R 上の左加群である。もちろん同様に右イデアルは右加群である。
R を環とし、環 Rop を R から台となる集合と加法はそのままで乗法だけを逆にして得られる環(反対環)とする。つまり、R において ab = c ならば Rop において ba = c である。このとき、任意の左 R-加群 M はそのまま右 Rop-加群と見ることができ、R 上の任意の右加群は Rop 上の左加群と考えることができる。
部分加群と準同型
M を左 R-加群、N を M の部分群とするとき、N が M の部分加群 (submodule) あるいはより明示的に R-部分加群(または部分 R-加群)であるとは、任意の r ∈ R と n ∈ N に対して積 rn がふたたび N に属するときに言う。M が右加群の場合は nr が N に属するとき同様に部分加群という。
与えられた加群 M の部分群全体の成す集合は、ふたつの二項演算 “+” および “∩” に関して束を成しモジュラー法則
M の部分加群 U, N1, N2 で N1 ⊂ N2 が成り立つとき、 (N1 + U) ∩ N2 = N1 + (U ∩ N2) が成立する を満たす。
M および N が左 R-加群のとき、写像 f: M → N が R-加群の準同型であるとは、任意の m, n ∈ M, r, s ∈ R に対して
f ( r m + s n
)
r f ( m ) + s f ( n ) {\displaystyle f(rm+sn)=rf(m)+sf(n)} が満たされるときに言う。ほかの数学的対象に関する準同型が対象の構造を保つのと同じく、加群の準同型も加群の構造を保つ。
有限生成加群 加群 M が有限生成あるいは有限型であるとは、M の有限個の元 x1,…,xn で、それらの R-係数線型結合によって M の任意の元が書き表されるときに言う。 巡回加群 加群が巡回加群であるとは、それが唯一つの元で生成されるときにいう。 自由加群 自由加群は基底を持つ加群である。これは係数環 R のいくつかのコピーの直和に同型である加群といっても同じである。自由加群はベクトル空間とかなり同じように振舞う。 射影加群 射影加群は自由加群の直和因子であり、自由加群とよい性質をたくさん共有している。 入射加群 入射加群は射影加群の双対として定義される。 平坦加群 平坦加群はテンソル積で単射が保たれるような加群である。 単純加群 単純加群 S とは {0} と S 自身しか部分加群を持たないような {0} でない加群のことである。単純加群はしばしば既約加群とも呼ばれる[1]。 半単純加群 半単純加群は単純加群の直和である。 直既約加群 直既約加群とは、{0} でないふたつの部分加群の直和に書くことができない加群のことをいう。任意の既約加群は直既約加群だが逆は必ずしも成立しない。 忠実加群 忠実加群 M とは、R の 0 でない各元 r に対して r の M への作用が自明でない(すなわち、M の元 x で rx ≠ 0 となるものがある)ときに言う。これは M の零化域 (annihilator) が零イデアルであるときといっても同じである。 ネーター加群 ネーター加群は任意の部分加群が有限生成となる加群である。同じことだが、ネーター加群の部分加群からなる任意の昇鎖列は有限の長さで止まる。 アルティン加群 アルティン加群とは、その部分加群からなる任意の降鎖列が有限の長さで止まるような加群をいう。 次数加群 次数付き加群とは、直和分解 M = ⊕x Mx を持つ、次数付き環 R = ⊕x Rx 上の加群であって、任意の添字 x, y に対して RxMy ⊂ Mx+y と成るようなものを言う。
表現論との関係
M を左 R-加群とすると、R の元 r の作用が x を rx へ(右加群の場合は xr へ)うつす写像として定まり、その写像はアーベル群 (M, +) 上の群の自己準同型となる必要がある。EndZ(M) で表される、M の群自己準同型の全体は、加法と合成に関して環となるが、R の元 r にその作用を対応させることにより、R から EndZ(M) への環準同型が定義される。
このような環準同型 R → EndZ(M) は M における R の表現 (representation) と呼ばれる。左 R-加群を定義するもう一つの同値な方法は、アーベル群 M にその上の環 R の表現を考えることである。
表現が忠実 (faithful) であるとは、写像 R → EndZ(M) が単射となることをいう。加群の言葉で言えば、これは R の元 r が M のすべての元 x に対して rx = 0 を満たすならば r = 0 と成ることを言っている。任意のアーベル群は有理整数環または適当な剰余類環 Z/nZ 上の忠実加群である。
一般化
任意の環 R をただひとつの対象から成る前加法圏と看做すことができる。この観点で言えば、左 R-加群とは R からアーベル群の圏 Ab への共変加法的函手に他ならない。右 R-加群は反変加法的函手である。このことが示唆するのは、任意の前加法圏 C に対し、C から Ab への加法的函手は C 上の一般化された左加群と考えるべきであるということである。このような函手の全体は、環上の加群の圏 R-Mod の一般化となる函手圏 C-Mod を成す。
可換環上の加群は別な方向に一般化することができる。まず、環付き空間 (X, OX) をとり、OX-加群の層を考える。これらの全体は代数幾何学のスキーム論的取り扱いで重要な圏 OX-Mod を成す。 X がただ一点からなるならば、これは可換環 OX(X) 上の通常の意味での加群の圏である。
MILTERMでは認知戦(cognitive warfare)について、warontherocks.comに掲載された現役自衛官の二つの記事、「新しい技術、新しい概念:中国のAIと認知戦争についての計画 (War on the Rocks)」、「中国の「認知戦」の将来:ウクライナ戦争の教訓 (War on the Rocks)」を紹介し、更にフランスの武官の記事「戦争の前に戦争に勝つ?:認知戦に関するフランス人の視点 (War on the Rocks)」、「神経認知戦:ノン・キネティックな脅威で戦略的インパクトを与える (smallwarsjournal.com)」を紹介してきたところである。ここで紹介するのはNational Defense University Pressが季刊として発行して「Joint Force Quarterly 108」に掲載された「America Must Engage in the Fight for Strategic cognitive terrain」である。この記事は、認知的不協和理論(cognitive dissonance theory) とそれに関連する精神力動的なコンセプト(psychodynamic concepts)を紹介し、社会的知覚(societal perceptions)が比較的容易に操作されることを説明し、これらのコンセプトは、ロシアの戦略的認知地形(strategic cognitive terrain)をめぐる闘いに適用され、ライバルが国家安全保障の狙いを実現するために社会を操作する方法を示すものとしている。知覚操作(perceptual manipulation)がどのように行われるかを理解する一助になると考える。(軍治)』
『米国は戦略的認知地形をめぐる闘いで交戦しなければならない America Must Engage in the Fight for Strategic cognitive terrain
By Daniel S. Hall
JOINT FORCE QUARTERLY 108
1st Quarter, January 2023
ダニエル・S・ホール(Daniel S. Hall)大佐(米国)は、テキサス州エルパソの北方統合タスク部隊のインテリジェンス部長である。
2022年3月26日(土)、ポーランド・ワルシャワのロイヤルカステルで、ウクライナ戦争に関する発言をするジョー・バイデン大統領(The White House/Cameron Smith)
撮影監督ゼップ・アルゲイヤー(Sepp Allgeier)と共に大型カメラを覗く、ドイツ人映画監督レニ・リーフェンシュタール(Leni Riefenstahl)1934年9月5日から8日までニュルンベルクでのナチ党大会で、『意志の勝利(Triumph of the Will)』の撮影中(Everett Collection)
記事「プロパガンダ:言葉で戦争は決められるか?(Propaganda: Can a Word Decide a War?)」デニス・マーフィー(Dennis Murphy)とジェームズ・ホワイト(James White)は、統合参謀本部による「プロパガンダ」の定義を「直接的または間接的にスポンサーを利するために、任意のグループの意見(opinions)、感情(emotions)、態度(attitudes)、または振舞い(behavior)に影響を与えるためにデザインされた国家目標を支援するためのコミュニケーションの任意の形式」[7]と言及している。。
ロバート・チャルディーニ(Robert Cialdini)は、受け手の振舞い(behavior)を送り手の利益になるように意図的に誤解させる非対称なナラティブ(narratives)を「影響力の武器(weapons of influence)」と呼び、「影響力の武器」は説得力があり、人がその魅力的な力に抵抗することは困難であると主張している。
ゲラシモフの21世紀の戦争に対する考えは、ロシア参謀本部に人間の知覚(human perception)を重心(center of gravity)に置いた間接的なアプローチを発見させ、自由民主主義の規範や制度を自らに反するような社会の断層を開かせるものであった[34]。
クリミア併合の条件を整えるために、ウクライナ社会の既存の亀裂を拡大させたロシアのグレー・プロパガンダ(gray propaganda)の猛攻と、2013年のキーウのユーロマイダン・デモに続いてドンバスに「リトル・グリーン・メン(little green men)」を登場させたことは、クレムリンの知覚操作(manipulating perceptions)の専門性が高まっていることを浮き彫りにしている。
この勧告は、別の戦闘司令部の創設を提唱していないが、統合参謀本部が米国サイバーコマンドの再旗揚げと、サイバー戦(cyber warfare)、電子戦(electronic warfare)、軍事情報支援作戦(military information support operations)、民事(civil affairs)、および他のすべての統合情報機能を米国認知支配コマンド(U.S. Cognitive Dominance Command)の下に統合することを検討するよう奨励することを意図している[45]。
たとえば、欧州戦闘軍(European Combatant Command)の計画担当者は、北大西洋条約機構(NATO)戦略的コミュニケーション・センター・オブ・エクセレンス(Strategic Communication Center of Excellence)と協力し、人気のあるソーシャル・メディア(social media)プラットフォームを活用することができる。
[8] Bishop, “Elements of U.S. Informational Power.”
[9] Truda Gray and Brian Martin, “Backfires: White, Black, and Grey,” Journal of Information Warfare 6, no. 1 (2007), 7–16, available at https://www.bmartin.cc/pubs/07jiw.html.
[10] Bishop, “Elements of U.S. Informational Power.”
[11] Robert Cialdini, Influence: The Psychology of Persuasion (New York: Harper Business, 2007), 11.
[12] Adamsky, “From Moscow with Coercion”; Bishop, “Elements of U.S. Informational Power”; Murphy and Kuehl, “The Case for a National Information Strategy”; Christopher Paul and Miriam Matthews, The Russian “Firehose of Falsehood” Propaganda Model: Why It Might Work and Options to Counter It (Santa Monica, CA: RAND, 2016), available at https://www.rand.org/pubs/perspectives/PE198.html; Peter Singer and Emerson Brooking, LikeWar: The Weaponization of Social Media (New York: Houghton Mifflin Harcourt, 2018).
[13] Murphy and Kuehl, “The Case for a National Information Strategy,” 73.
[15] Leon Festinger, A Theory of Cognitive Dissonance (Stanford, CA: Stanford University Press, 1957), 9.
[16] Ibid., 17.
[17] Nicholas Levy, Cindy Harmon-Jones, and Eddie Harmon-Jones, “Dissonance and Discomfort: Does a Simple Cognitive Inconsistency Evoke a Negative Affective State?” Motivation Science 4, no. 2 (September 2017), 95–108.
[18] Festinger, A Theory of Cognitive Dissonance, 18.
[19] Sebastian Cancino-Montecinos, Fredrik Björklund, and Torun Lindholm, “Dissonance and Abstraction: Cognitive Conflict Leads to Higher Level of Construal,” European Journal of Social Psychology 48, no. 1 (May 2017), 100–107.
[20] Sebastian Cancino-Montecinos, Fredrik Björklundt, and Torun Lindholm, “Dissonance Reduction as Emotion Regulation: Attitude Change Is Related to Positive Emotions in the Induced Compliance Paradigm,” PLoS One 13, no. 12 (December 2018), 3, available at https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6296533/.
[22] Jason Stephens, “How to Cheat and Not Feel Guilty: Cognitive Dissonance and Its Amelioration in the Domain of Academic Dishonesty,” Theory Into Practice 56, no. 11 (March 2017), 1–10. Locus of control is the degree to which people believe that external forces have control over event outcomes. Attributions are assigned causes for behaviors.
[23] Nye, “What China and Russia Don’t Get About Soft Power.”
[27] Clausewitz, On War, 91. Insights into how people’s passion makes societies susceptible to dissonance reduction manipulation were developed with public affairs expert Colonel Elizabeth Mathias, Ph.D., USAF.
[28] Andrew Chisholm, “Disrupt, Coerce, Legitimize, Attract: The Four Dimensions of Russian Smart Power” (thesis, Joint Advanced Warfighting School, June 27, 2018), 5.
[29] Gerasimov, “The Value of Science Is in the Foresight,” 24.
[30] Norbert Eitelhuber, “The Russian Bear: Russian Strategic Culture and What It Implies for the West,” Connections 9, no. 1 (Winter 2009), 5.
[31] Ibid., 11.
[32] Ibid., 13.
[33] Gerasimov, “The Value of Science Is in the Foresight,” 27.
[43] Todd Schmidt, “The Missing Domain of War: Achieving Cognitive Overmatch on Tomorrow’s Battlefield,” Modern War Institute, April 7, 2020, available at https://mwi.usma.edu/missing-domain-war-achieving-cognitive-overmatch-tomorrows-battlefield/2020; Nye, “What China and Russia Don’t Get About Soft Power”; Bishop, “Elements of U.S. Informational Power”; Singer and Brooking, LikeWar; Matisek, “Shades of Gray Deterrence”; Paul and Matthews, The Russian “Firehose of Falsehood” Propaganda Model.
[44] Joint Publication 1, Doctrine for the Armed Forces of the United States (Washington, DC: The Joint Staff, March 25, 2013, Incorporating Change 1, July 12, 2017), I-19, available at https://irp.fas.org/doddir/dod/jp1.pdf.
[45] Schmidt, “The Missing Domain of War.”
[46] Murphy and Kuehl, “The Case for a National Information Strategy,” 72.
[47] Svante E. Cornell and S. Frederick Starr, The Guns of August 2008: Russia’s War in Georgia (Oxford: Routledge, 2009), 195.
脚注 ^ Prasad, J. (1950). A comparative study of rumours and reports in earthquakes. British Journal of Psychology, 41(3-4), 129-144. ^ Knox, R. E., & Inkster, J. A. (1968).Postdecision dissonance at post time. Journal of Personality and Social Psychology, 8(4), 319-323. 参考文献 作田啓一・井上俊 編 編「10 認知的不協和の理論(L・フェスティンガー)」『命題コレクション 社会学』筑摩書房、1986年6月6日。ISBN 4-480-85292-1。 Leon Festinger (1957) [1954]. A Theory of Cognitive Dissonance. California: Stanford University Press. ISBN 0-8047-0911-4 レオン・フェスティンガー『認知的不協和の理論 社会心理学序説』末永俊郎 監訳、誠信書房、1965年9月。ISBN 4-414-30210-2。 Leon Festinger; Henry Riecken; Stanley Schachter (2009). When Prophecy Fails. Martino Fine Books. ISBN 978-1-57898-852-5 レオン・フェスティンガー、S・シャクター・H・W・リーケン『予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』水野博介 訳、勁草書房〈Keiso communication〉、1995年12月。ISBN 4-326-10106-7。