[FT]独裁者、失敗は必然の理由 「説明責任」のチェック不在
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB050ZC0V00C23A7000000/
『世界で最も人口の多い国に大国の後ろ盾など要らない。米政府関係者の中には、インドは米ソ冷戦時代の大半は(共産主義国とは親しくしたが西側諸国とは)「好意的に表現しても」同盟を結ばなかったと苦々しく振り返る者もいるだろう。
インドのモディ首相は権力の集中、宗教、国家について自分の考えを持っている。それらはかつてハミルトンらが米連邦制において権力と自由との均衡を確保することがいかに重要かを説いた古典「ザ…
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
『インドのモディ首相は権力の集中、宗教、国家について自分の考えを持っている。それらはかつてハミルトンらが米連邦制において権力と自由との均衡を確保することがいかに重要かを説いた古典「ザ・フェデラリスト」とは”少々”異なる。』
『したがって、インドが米国に傾くのは定められたことでも必然でもなかった。だが中国による何らかの行動が、対米関係では曖昧な態度に終始してきたインドを同盟とまではいかないものの、米国との理解を深める方向に押しやってしまった。中国にとって戦争を始めるという失策を除けば、これ以上に重大な過ちを犯すのは難しい。
別の言い方をすれば、6月に起きたロシアでの反乱は最近の独裁者による判断ミスという点では2番目に大きなニュースでしかない。モディ氏を強力な米国陣営に渡してしまったことは、今後100年の世界情勢を左右しかねない事態だからだ。
つまり、前者はロシアトップの国内の掌握力欠如の問題で、後者は中国外交政策の失敗だ。いずれも恥ずべき事態だ。西側の代々の指導者は、独裁者は一般的に(少なくとも時として)有能だとする考え方と闘わなければならない。その点で6月21日からのモディ氏の訪米とロシアでの反乱が起きた週は、特筆すべき週だったと言える。』
『何が問題かと言えば「独裁者は有能だ」とする神話がいつまで続くのかという話だ。
世界の最も豊かな国はほぼすべて民主主義国で、人々が移住したがるのもほぼこうした国々だ。米ソ冷戦時代の東側の軍事同盟ワルシャワ条約機構は32年前に消滅したが、北大西洋条約機構(NATO)への加盟国は今も増え続けている。
ノーベル経済学賞受賞のアマルティア・セン氏の飢饉(ききん)に関する見解(「機能している民主主義」では決して起きない)や、民主主義の平和理論(民主主義国同士は戦争をしない)を持ち出すまでもなく、独裁と民主主義の統治形態のいずれが優れているかと言えば、そこに議論の余地はないはずだ。
独裁国家が唯一、自慢できるのは国民を困窮から中所得国に導けるというものだが、独裁国に限った話ではない。1945年以降の日本をみればわかる。』
『民主主義の素晴らしい証拠がこれだけ存在してもなお、独裁主義政権の方が機能するとの見方は今も根強い。(白人で高収入の)テック業界の多くの男性がこうした地政学的見解を持っており、その見解はこうだ。
民主主義の指導者は次の選挙を気にするが、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は100年単位で物事を考える。西側は文化的流行に振り回されるが、独裁者は人間の本性について永遠の真理を認識している。リベラルなメディアはロシアのウクライナ侵攻は失敗したと勝ち誇ったようにみなすが、ロシアは戦争に勝ってこそいないが少しずつ戦略的成功を収めている。
こうした見方の背景には大抵、米ネット掲示板「レディット」などで聞きかじったロシアは南方の不凍港を手に入れたといった豆知識が影響している。』
『筆者はテック業界の男性の見方だと書いたが、こうした見方は古くからある。ラテン語の「エクス・オリエンテ・ルクス(光は東方から)」という格言がある。中世の時代、ビザンチン帝国とアラブの知識人らが古代からの文明を継承、繁栄させたという意味で、中東やアジアが高いレベルの文明を育んできた事実を物語っている。
一方、この格言は非リベラルな世界には特別な英知があるとするナイーブな見方が西側には多いことも示唆している。この見方が定着すると西側の有権者は民主主義への信頼を失う(事実、ミレニアル世代対象の調査では、若い人の民主主義への信頼は他のどの世代よりも低下していることが判明している)。』
『そのため独裁者が統治を誤るだけでなく、なぜ誤るのかその理由を説明することが重要だ。
まず彼らには協力するという概念がない。遠くから観察していても恐ろしく攻撃的な彼らは、どこかでほぼ確実に互いに対し攻撃的になる。ドイツのヒトラーもソ連のスターリンも中国も西側の存在を脅かす存在だったが、独ソも中ソも互いに対立し自滅するか危機に陥った。
同じことが体制内でも起こり得る。不思議なのはプーチン氏とロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏のような好戦的な人物が仲たがいした点ではなく、なぜ決裂するのにかくも時間がかかったのかという点だ。』
『独裁政権を崩壊させるのは経営学修士(MBA)用語で言う「フィードバックループ」、つまりチェック・アンド・バランスの機能が欠如しているからだ。
キャメロン元英首相は6月19日、ロンドン中心部のパディントン駅近くの地味な通りに面したビルで新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)戦略について2時間の聞き取り調査を受けた。同氏は危機発生の4年前に首相を辞していたのだから、その後継者らはもっと厳しい質問を受けるだろう。
身をよじったり、緊張してせき払いしたりする様子はライブ配信かオンデマンドで視聴できるうえ、この調査は2026年まで続く見通しだ。』
『ウクライナ侵攻の失敗やインドを対立陣営に行かせてしまうといった独裁による失敗がなぜ起きるかと言えば、それは彼らには説明責任が欠如しているからだという点に尽きる。
自らの権力に挑んでくる陰謀をチェックする以外に権力へのチェック機能がない場合は、その独裁者自身が天才でなければならない。だがそうした天才は歴史上めったに登場しない。』
『民主主義を道徳面から正当化するのは難しい。すべての市民に選挙権を与えた1世紀前を民主主義が誕生した時期と考えれば、民主主義が本来的に必要な制度だと説得するのも難しい。
西側指導者は人の心に訴えるのではなく頭に訴える必要がある。いかに混乱を最小にし、効率的に物事を進めていくかが必要かを説得するということだ。
2年前の夏、米国がアフガニスタンからの撤退で混乱を招き、新型コロナへの対応にてこずったことから死者数が増加するなか、独裁国は強権的ではあるが統治力があるかに見えた。だが直近の出来事は、彼らが特別な能力を備えているというより、普通の人間にすぎないことを浮き彫りにしている。
By Janan Ganesh 』