「ロシアの弾は切れない」プーチン圧勝で戦争景気が続くか? 2024年のロシア経済を予測する
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33327
「軍事ケインズ主義」進めるプーチン 2024年のロシア経済
https://http476386114.com/2024/02/26/%e3%80%8c%e8%bb%8d%e4%ba%8b%e3%82%b1%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%ba%e4%b8%bb%e7%be%a9%e3%80%8d%e9%80%b2%e3%82%81%e3%82%8b%e3%83%97%e3%83%bc%e3%83%81%e3%83%b3-2024%e5%b9%b4%e3%81%ae%e3%83%ad%e3%82%b7/



『ロシア大統領選挙は3月17日に開票が終了し、プーチン大統領が87%を超える過去最高の得票率で圧勝。対立候補不在の選挙に、西側諸国からは不正を疑う声も上がっているが、2030年までの通算5期目の任期が決定した。
プーチンによる一層の強権発動が見込まれるロシアはこれからどうなっていくのか。「ロシアの弾は切れない」。その理由とは? データをもとに2024年のロシア経済を予測する。
2024年1月5日に掲載した『「軍事ケインズ主義」進めるプーチン 2024年のロシア経済』を再掲する。
ロシアのRIAノーヴォスチ通信は暮れに、2023年のロシア経済十大ニュースを発表した。それを整理すると、以下のとおりとなる。
- 経済の崩壊ではなく成長が生じた
- 記録的な失業率の低さ(それと裏表の人手不足)
- 物価沈静化に奔走も年末には卵が高騰
- ガソリン不足
- 為替安定のため対策に追われる
- 過去最大の財政歳出
- 冶金・化学の大企業中心に超過利潤税を課税
- 富豪YouTuberの課税逃れに対する取締強化
- 石油輸出国機構(OPEC)+の枠組みでの石油減産続く
- 対露制裁拡大、ロシアは友好国との連携強化 トップの項目にあるとおり、無謀なウクライナ侵攻を続け、国際的な制裁包囲網を敷かれながら、23年もロシア経済が崩壊することはなかった。23年に国内総生産(GDP)が3%前後のプラス成長を記録することは、確実視されている。プーチン大統領に至っては3.5%成長という見通しまで示している。
(Andrey Mitrofanov/gettyimages) 「プーチンの言うことは信用できない」という読者のために、コンセンサス予測というものを紹介しておこう。これは、ロシアの「発展センター」というシンクタンクが、内外の専門家を対象に主要経済指標の見通しに関するアンケート調査を実施し、それを平均して定期的に発表しているものなので、一定の信憑性がある。 表に見るのは、最新の11月2~14日の調査結果であり、これによれば23年の成長率は2.6%となっている。24年以降も、1%台半ばと決して高くはないものの、一応はプラスの成長が続くという見通しである。
出所:Консенсус-прогноз Института “Центр развития” 写真を拡大
ロシア経済に関する最近の論評を眺めていると、しばしば目にするのが、「経済の過熱」という言葉である。むろん、そこにはさまざまなひずみが潜んでいるにしても、今のロシア経済が「不況」から程遠いことだけは、認識しておくべきだろう。』
『ロシア軍の弾は切れなかった
もっとも、マクロ経済的に考えれば、ロシアが悪くない成長率を示しているのも、道理ではある。戦争は究極の景気対策とも言える。
今のロシアのように、財政赤字を厭わず、軍事支出を拡大すれば、目先の経済が成長するのは当然だ。経済を牽引する役割を意図的に戦争に託そうとする路線は、「軍事ケインズ主義」と呼ばれるが、プーチン・ロシアは確実にその道を歩み始めている。
実際、最新のロシア鉱工業生産統計を参照しても、伸びが目覚ましいのは軍需部門である。ある専門家によれば、現状で鉱工業生産の伸びの少なくとも3分の2は、軍需および関連部門によってもたらされているという。
そこで、鉱工業生産の中で、特に軍需と結び付いていると考えられる部門を選び、それぞれの生産水準がどう推移してきたかを、グラフにまとめた。選んだのは、「その他の完成金属製品」(砲弾などはここに含まれると思われる)、「コンピュータ・電子・光学機器」、「航空・宇宙機器」の3部門である。
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グラフに見るとおり、軍需関連部門は、きわめて特徴的な季節変動を示している。ロシアでは年初に経済活動が落ち込むのが通例だが、軍需関連部門はとりわけ1月、2月の生産水準が低調である。それが年の後半にかけて拡大していき、年末にピークを迎えるというのが、軍需のパターンとなっている。
ロシアの財政は1月始まり・12月終わりなので、国家発注を年度内に消化するために、年末に生産が急増するものと考えられる。23年はまだ11月の数字までしか出ていないが、12月の生産が再び顕著に伸びるのは確実だろう。というわけで、軍需生産は一直線に伸びているわけではなく、大きな季節変動を伴ってはいるが、その生産水準が全般的に高まっていることは歴然である。
12月19日にロシア国防省で恒例の拡大幹部評議会が開催され、プーチン大統領、ショイグ国防相が演説を行った。この席でプーチン大統領は、23年の国防発注は約98%達成される見通しだと述べ、軍需産業の成果を誇ってみせた。
ショイグ国防相はさらに具体的に、軍需産業の稼働状況について語っている。国防相によると、22年2月の開戦以来、ロシア軍需産業における生産は、戦車で5.6倍、歩兵戦闘車で3.6倍、装甲兵員輸送車で3.5倍、ドローンで16.8倍、砲弾で17.5倍に拡大したという。
むろん、これらの数字は慎重に吟味すべきであるものの、現時点でプーチン政権が軍需産業の面からの継戦能力に自信を深めていることは、間違いないと思われる。
』
『大砲とバターの両立
ロシアの国家財政も、意外にしぶとかった。一つには、ロシア財政の柱である石油・ガス歳入が踏みとどまったことが大きい。
エネルギー担当のノバク副首相が先日述べたところによると、23年の石油・ガス歳入は9兆ルーブルほどに達しそうということである。これは、上半期に価格が高騰した22年の11.6兆ルーブルには及ばないものの、21年の9.1兆ルーブルにほぼ匹敵する規模である。さらに、最近のロシア政府は、超過利潤税、新たな輸出税など、非石油・ガス歳入の確保にも余念がない。
23年の連邦財政の歳出は、過去最大の32.2兆ルーブルに膨らむ見通しである。それでも、上述のとおり歳入が確保できているので、屋台骨は揺らいでいない。
23年のロシア連邦予算は元々、対GDP比2.0%の赤字で編成されていた。しかし、実際にはそれよりも良好に推移しており、先日シルアノフ財務相が述べたところによると、対GDP比1.5%程度の赤字で済みそうということであった。かくして、財政が破綻しプーチンが戦争を続けられなくなるというシナリオもまた、遠のきつつある。
24年のロシア連邦予算では、前年をさらに上回る36.7兆ルーブルの歳出が計上されている。とりわけ、物議を醸しているのが、国防費の大幅増である。
24年の国防費は10.8兆ルーブルに上っており、これはGDPの実に6.0%に相当する。ロシアの国防費は22年まではGDPの3%程度だったから、そこから倍増する形だ。しかも、軍事関連の歳出は他の費目の中にも隠れており、実際の国防費はもっと多いはずという指摘もある。
それでは、軍事費が肥大化している分、国民生活にしわ寄せが及んでいるかというと、これが必ずしもそうなってはいないのだ。少なくとも、大統領選が終わる24年3月までは、国民にそれを実感させないように配慮している。その典型例は公共料金の光熱費であり、23年はずっと据え置きで、次回の値上げは24年7月に決まっている。
18年5月にスタートした現プーチン政権において、国民の支持率がガクっと下がった出来事があった。同年6月、受給年齢を10年間かけて段階的に5歳引き上げるという年金改革を決定し、国民の大反発を食らったものである。サッカー・ワールドカップ開幕のどさくさに紛れて発表したにもかかわらず、それでも国民の反発はすさまじかった。おそらくプーチン政権のトラウマになっていると思われる。
最近、プーチン政権が神経質になっているものに、卵の値上がりがある。23年に卵は59%ほど値上がりし、国民の不満が募っている。政府は慌ててトルコやアゼルバイジャンから関税を免除して卵を緊急輸入することを決めた。ウクライナ侵攻や反体派弾圧では情け容赦ないこわもてプーチンが、卵ショックにはうろたえているというのは、興味深い現象である。
ナワリヌイは北極送り
プーチン大統領は12月8日、24年3月の大統領選に出馬する考えを表明した。ウクライナでの戦況という不確定要素はあるにしても、再選に向け、これといった死角は見当たらない。公正な選挙をやっても、プーチンは過半数くらいとれるはずであり、ましてや公正な選挙ではないのだから、80%以上を得票して圧勝するのが既定路線である。
暮れになり、反体制派のリーダーであるナワリヌイ氏が、西シベリア北部のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されたことが明らかになった。政治犯をシベリア送りにするのはロシアの伝統だが、今回は北極送りである。
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『ナワリヌイ氏は、必ずしも絶大な人気を誇るわけではないが、獄中からでもメッセージを発し、ロシア政治を流動化させる触媒的な役割を果たすポテンシャルは秘めている。プーチン政権としては、そうしたリスクの芽を摘んでおくために、北極圏の監獄で厳重に監視することにしたのだろう。
筆者には、ウクライナ侵攻に反対する運動や、ナワリヌイ氏解放を求める大規模なデモが近い将来にロシアで巻き起こることは、想像できない。しかし、ロシア国民も、自分に身近な社会・生活の問題で怒りを覚えれば、立ち上がることもある(さすがに上述の卵では無理かもしれないが)。しかも、政治デモなどと異なり、プーチン体制は生活に根差した庶民の要求を弾圧はしにくい。
気になるのは住宅市場
そうした観点から、筆者が注目している分野に、住宅市場がある。ロシア国民は持ち家志向が強く、無理な借金をしてでも、住宅を買いたがる傾向がある。目下、それが過熱し、住宅バブルが発生している。
ただ、不思議に思う読者もいるだろう。ロシアでは、年末に政策金利が16%にまで引き上げられている。そんな高い金利で、ローンを組み住宅を買う人がいるのだろうか、と。
実はそれにはからくりがあり、プーチン政権は数年前から、持ち家促進政策として、一定の条件を満たした住宅購入者には、国の補助で優遇金利を利用できるようにしている。その制度を使えば、新築住宅を買う人は年利8%で、幼い子供がいる家庭は6%で、ローンが借りられる。
ウクライナ侵攻開始後、ロシアの住宅市場はしばらく不活発だった。それが、23年半ば頃から、急にバブル的な様相を呈するようになった。優遇ローンの利用条件が段階的に厳格化される見通しとなり、ルーブル下落が進み、市場金利が急上昇したため、ロシア国民特有の「すぐにでも不動産に換えて資産を守らなければ」という心理が働いた結果であった。
当然のことながら、上昇する一方の市場金利は敬遠され、国の補助による優遇ローンに申し込みが殺到した。23年の前半まで、新築住宅購入のローンに占める優遇ローンの比率は3分の1くらいだったが、同年暮れには85%程度を占めるまでになった。なお、現時点では、国の補助による優遇ローンが利用できるのは24年6月までとされており、これがさらに特需に拍車をかけている。
当局も住宅市場の過熱は問題視しており、優遇ローンの利用条件を厳格化するため、頭金の比率を段階的に引き上げ、12月には30%とした。それでも、消費者金融で頭金の資金を借り、優遇ローンに申し込むような者もいるという。ロシア中央銀行は、こうした状況が金融市場の健全性を損なうリスクを、強く警戒している。
思えば、08年のリーマン・ショックも、発端となったのは米国のサブプライム住宅ローン問題だった。ロシアの住宅バブルがすぐにはじけて、春の大統領選を左右するとまでは行かないだろうが、この問題が今後プーチノミクスのアキレス腱になっていく可能性はある。』
服部倫卓 (はっとり・みちたか)
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授
1964年静岡県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程(歴史地域文化学専攻・スラブ社会文化論)修了(学術博士)。在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員などを経て、2020年4月に一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所所長。2022年10月から現職。 』






