『日本の出版業界における再販契約(正式には「再販売価格維持契約」)のそもそもの趣旨は、「全国どこでも、誰でも、同じ価格で多様な本(文化的資産)を手に入れられるようにし、国民の知る権利と文化の水準を保障する」ということにあります。
日本には、独占禁止法で原則として禁止されている「メーカーが小売価格を指定する行為」を、書籍や雑誌などの「著作物」にだけ特例として認める「再販制度(再販売価格維持制度)」があります。
その本来の趣旨と目的は、主に以下の3つの柱から成り立っています。
- 知の地域格差をなくす(全国均一価格の維持)
もし本が自由価格(オープン価格)になってしまうと、輸送コストがかかる離島や地方都市では本が高くなり、人口の多い大都市圏では安売りされるという格差が生まれます。
再販契約は、「東京の大型書店でも、地方の小さな書店でも、日本全国どこでも同じ価格で本が買える」という環境を守り、住む場所による情報や教育の格差をなくすために作られました。
- 多様でマニアックな出版物を守る(文化の多様性の保護)
自由競争になると、本屋には「売れ筋のベストセラー」や「漫画」ばかりが並び、売れるスピードが遅い「専門書」「学術書」「詩集」「新人作家の作品」などは価格競争に負けて淘汰されてしまいます。
定価が保証されているからこそ、出版社は「売れるかは分からないが、社会的に価値のある本」を冒険して出版することができ、書店もそれを棚に並べることができます。これが日本の多様な出版文化を支えてきました。
- 書店の経営を安定させ、身近な「文化の拠点」を維持する
本は、中身を読んでみないと価値が分からない「経験財」という特殊な商品です。
もし近くのディスカウントストアや大企業がベストセラーだけを乱売(値引き販売)すると、地域のまじめな書店は経営が成り立たなくなります。
再販契約によって価格競争から守ることで、街の書店が「誰もがふらっと文化や知識に触れられる場所」として存続できるようにするという目的がありました。
今回のAI問題との「ズレ」はなぜ起きた?
このように、再販契約の本来の趣旨は「一般の読者が、文化に触れるためのルール」として作られたものです。
しかし今回のケースでは、買い手が一般の読者ではなく、「本をインフラ(データ)として大量消費する巨大IT企業」でした。
- 出版社から見れば:「文化や作家を守るためのルール(再販契約)なんだから、AIのデータにされるような例外的な一括売買は、事前に相談して止めるのが当たり前だ」
- 日販から見れば:「再販契約はあくまで一般流通(定価販売)のためのルール。今回は海外企業への特殊な大口取引(売却)なのだから、再販契約の範疇外だ」
というように、「文化を守るための精神」を重視する出版社と、「条文通りの契約の適用範囲」を重視する取次(日販)との間で、大きな認識のズレが露呈したと言えます。
再販制度の仕組みについて、さらに詳しく知りたい部分はありますか?
- 値引きができない代わりに本を返品できる「委託販売制度」とのセットの仕組み
- なぜ他の商品(家電など)はダメで、本だけが法律(独禁法)で例外として許されているのか
など、気になる点があればお気軽にお知らせください。
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