https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK081JG0Y6A001C2000000
『2026年10月9日 0:00
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「巨人の肩の上に乗る」。科学の世界でしばしば耳にするこの隠喩は、かのニュートンが使ったことで広まったという。先人の偉業をもとに新たな発見が生まれるという意味だ。2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんも本紙「私の履歴書」で紹介していた。
▼この人の成果もまた、幾多の科学者がつないできた歴史の末に生まれたのだろう。加えて本人の努力も。東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあいけんそう)さんに同賞が贈られることが決まった。日本人の化学賞は10人目、昨年の北川進さんに続く快挙である。ヘッドライトを灯(とも)しながらの歩みが世界に評価されたことを心から祝福したい。
▼物質には「右手型」「左手型」が存在する。一方だけを優先的につくるにはどうすればいいか――。研究内容を理解するのは難儀だが、医薬品製造などに役立つ可能性があるそうだ。なによりも「生命の起源に迫る」と聞けば胸が躍る。周囲の人物評からは忍耐強く誠実な人柄が浮かぶ。研究者に欠かせぬ資質ではないか。
▼「空振り」を厭(いと)わず前に進む姿は、実験に明け暮れる後進に向けた力強いエールとなるはずだ。76歳。「完全に解明できたわけではなく、まだまだ面白いことがあるはず」。おとといの記者会見でこう語っていた。あくなき探究心と旺盛な研究意欲に感服するほかない。テレビ画面に映る化学者の肩がずいぶん広く見えた。』