資本主義の根幹をなすアングロサクソン・モデルとは何か?

資本主義の根幹をなすアングロサクソン・モデルとは何か?
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『2022/09/27
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侍留 啓介
MBAでは学べない、独学術と資本主義
侍留 啓介

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前回は『ビジネスパーソンも理解していない【理解しやすい政治・経済(経済編)】』を投稿しました。

https://newspicks.com/topics/capitalizm-mba/posts/24?ref=TOPIC_POST_MANAGEMENT_VIEW

記事の中でも触れたのですが、資本主義における私の最大の疑問は「証券市場(セカンダリー市場)はなぜ存在しているのか」ということです。このシンプルな疑問は本当に驚くほど誰も答えられません。経済学者、投資銀行員、そしてサラリーマン、誰一人として。

現在の資本主義は、「強欲資本主義」だと言われますが、その「強欲さ」ある意味正当化しているのがアングロサクソン・モデルです。このモデルを理解しない限り、「22世紀の民主主義」も「新しい資本主義」も構想することは難しいです。なぜならば新しい資本主義は、強欲さそしてアングロサクソンモデルを克服することによってのみ可能となるからです。

ただし、アングロサクソンモデルについてはその発生時期や過程、そして定義にいたるまで未だ統一された見解はありません。したがって、私の解釈には限界があります。またこの問題は資本主義問題全てを扱うことと同義ですので壮大です。何回かにわけて書こうと思っています。皆さんの思考を深める一助となれば幸いです。

偶然発生したアングロサクソン・モデル

多分資本主義と民主主義と呼ばれているものは、僕たちが社会を運営するために無理やりたまたま偶然つくりだされた2つの仕組みで、その2つの仕組みをうまく組み合わせそしてお互いの欠点を補いあうことでどうにかぎりぎりバランスをとっているのが現状なんです

Newspicks 「成田悠輔」が見据える資本主義と民主主義の未来【成毛眞】
成田氏の述べる「たまたま」というのはすごく重要です。我々が程度の差こそあれ、優れたシステムだと考える資本主義も民主主義も偶然の産物にすぎません。資本主義は必須のものではなく、皆がそう信じているという宗教に近いものです。逆に、優れたシステムをデザインすると、たとえばファシズムのような形態になります。ですので、資本主義を絶対化して信仰することも、逆に改良主義によってデザインすることもともに危険性を伴います。

もとはといえば、「アングロサクソン」は、アングル人とサクソン人のことでした。「西のサクソン王国」を意味するウェセックスの王が、9世紀に七王国を統一して覇権を樹立した国が、「アングル人」を意味する「イングランド」です。アングル人とサクソン人のM&Aによる結果が「アングロサクソン」なのです。

この「イングランド」で16世紀末に誕生したものが「市場原理」と「株式会社」です。当初の「アングロサクソン・モデル」は「市場原理」と「株式会社」によって成り立つ市場原理であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのです。仮に、ここではこの当初のアングロサクソン・モデルを「原始モデル」と名付けておきます。

もともとのアングロサクソン・モデルは何であったのか?

それではなぜ、アングロサクソンの原始モデルが誕生したのでしょうか?それは物の輸送と関係があります。

物は共同体の中においては使用価値しかもちませんが、その余剰品が市で取引されると交換価値をもちます。今手元にあるHKKBのキーボードも私にとってはキーボードの使用価値しかもちませんが、メルカリに出せば高い値段で取引される(交換価値)ことと同じです。

最近使っているHKKBのキーボード

欧州では14世紀頃になると職人や職人組合による製品技術が向上し、その製品価格が農産物価格を上回るようになりました。そうすると地産地消にむいている農作物ではなく、耐久性のある製品を運ぶ都市の市が次々に結ばれ、交易ロードが拡充しました。

さらに16世紀になると、こうした市が大市となりました。さらに17世紀には、新興のアムステルダムで取引所が開設されたり、ロンドンではコーヒーハウスなどの私設取引所が設けられるようになりました。この取引所では、使用価値が記号化した貨幣によって、万物の商品が記号化された証券が交換され、トレーダーの売り買いによって刻々とプライシング(価格付け)されるようになります。この取引が、「市場原理」(あるいは、神の見えざる手)として、「アングロサクソン・モデル」の教義となったわけです。

滅びかけた株式会社モデル

 ロンドンで本格的な株式会社が誕生するのは17世紀に入るころです。きっかけとなったのは東インド会社(1599年設立)などの特許会社でした。東インド会社は政府と商人が共同で設立したものですが、制度としては4つの機能をもっています。「共同出資」制度、「法人」格の成立、「有限責任」の制度化、「準則主義」、です。これらの機能は、現代の株式会社にもおおよそ受け継がれています。取引所による証券化商品の取引と、株式会社の整備、がイギリスによってつくられた最初の資本主義モデルであり、「原始モデル」であったわけです。

しかし、イギリスではじまった「原始モデル」は、一度滅びかかります。この事実は重要です。「新しい資本主義」を構想する遥か以前に、株式会社資本主義はいったん終わりかけたのです。フランスではジョン・ローによって、イギリスでは南海会社によってバブルがはじけたことで株式会社の問題が露呈したためです。そのため、イギリスを含む欧州では株式会社は衰退し、パートナーシップによる共同経営主義が流行しました。

実はこのパートナーシップによる共同経営を、ポスト資本主義の一つの基盤にすることも考えられます。実際、マッキンゼーなどの経営コンサルティング会社や、多くの弁護士事務所などは今でもパートナーシップの形態をとっています。20年ほど前までの投資銀行も、その多くはパートナーシップでした。

あいまいな「アングロサクソン・モデル」

いったん滅びかけた「原始モデル」が現代にいたるまで400年以上も世界システムとして機能しているのはなぜでしょうか?

私はそれはシンプルさと柔軟さにあったのではないか、と思っています。現代でも、アジアと西欧・米国のアングロサクソン・モデルのイメージはかなり異なります。米系投資銀行かヘッジファンドのことを「アングロサクソン」と呼ぶこともあれば、排他的で強欲な資本家や経営者を「アングロサクソン」と呼ぶこともあります。

ただし、米国の金融業界や金融人を「アングロサクソン」ということが多い印象はあります。これは次回述べますが、「アングロサクソン・モデル」が新興国アメリカに好都合なモデルであったことに起因するのではないかと、私は見ています。

「アングロサクソン」自体は、先にみたようにイギリス発祥です。「アングロサクソン・モデル」が新興国アメリカに好都合なモデルであったこと。「アングロサクソン・モデル」が「グローバリゼーション」と一体化したことについては、次回述べたいと思います。

・今回紹介した書籍等のリンク先→https://note.com/mba_learning/n/n1fdb5f8a1842

・本連載で紹介した書籍のリンク先→https://note.com/mba_learning/m/m91783b37733d

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