『マルジャーナの知恵』(岩井克人)もっと深くへ !

『マルジャーナの知恵』(岩井克人)もっと深くへ !
https://j-trainer.blogspot.com/2020/07/blog-post_99.html

『日付: 7月 21, 2020

??多くは高1で取り上げられる評論文です。いきなり読んでも意味不明になるおそれがあります。このあとまず、「マルジャーナの知恵」を読み取るための前提となる知識が解説してあります。少し頑張ってinputしてみてください。これから文章を読んだり、社会事象や将来の進路について考えたり、小論文対策等々、いろいろな場面で役に立つ知識になりますよ??

経済制度とは ?

 「経済制度」とは、私たちの社会が「モノやサービスをどうやって作り、どうやってみんなに分け与えるか」を決めるための「ルール」や「仕組み」のことです。例えるなら、社会全体で「お金やモノをどう動かすか」を示した「ルールブック」のようなものです。
 たとえば、具体的には次のようなことです。

 電気製品や農産物やゲームを、どれくらい作るのか?それを誰がどうやって作るのか?それを誰が手に入れるのか?ということについてのルール・しくみということです。

 主に二つの大きな経済制度があります。

資本主義(しほんしゅぎ):個人や会社がお金や資産を持って自由に活動できる仕組み。アメリカや日本の社会がこれに近い。

社会主義(しゃかいしゅぎ):国やみんなで協力して財産や資源を分け合う仕組み。今は崩壊したソ連(現ロシアなど)や一部の国で行われてきました。

 ただし、現実にはほとんどの国は、この二つを組み合わせた「混合経済」を採用しています。市場経済(売り手や買い手が自由に商品の売買を行い、商品の需要と供給がバランスよく行われ、物やサービスとお金が効率よく流通するような経済のしくみ)をベースにしながらも、政府が医療や教育、年金などで関与し、誰もが最低限の生活を送れるよう支えようとしています。

 経済制度が変わると、私たちの生活も大きく変わります。例えば、どんな仕事があるのか、必要なものやサービスが適切に提供され手に入れられるか、収入が増え生活は豊かになるのか、中国のように土地は多額のお金を支払っても利用はできるが私有はできない??、などが大きく変わってきますよ??

資本主義とは何 ?

一言でいうと、「個人や会社が、自由にお金を儲(もう)けてOK!そのために競争しよう!」という仕組みです。

 もう少し詳しく見てみましょう。資本主義には3つの大切な主役がいます。

 ● 資本家(しほんか):「元手(もとで)」となるお金や、工場・機械などを持っている人      や会社のことです。この「元手」のことを「資本」と言います。資本家は、この資本を使って新しい商品を作ったり、お店を開いたりして、もっとたくさんのお金(=「利益」)を稼ごうとします。

 ● 労働者:資本家が持っている工場などで働いて、そのお返しに「お給料」をもらう人たちのことです。多くの人は労働者として働いて、生活をしています。

 ● 自由な競争:これが資本主義のエンジンです。例えば、A社とB社が同じようなスマホを作っているとします。A社は「もっとカメラの性能を良くしよう!」、B社は「もっと値段を安くしよう!」と競争します。この競争があるから、私たちはより良い商品を、より安く手に入れることができるのです。

 会社は利益を得て、また新しい商品を作るのです。これが資本主義の基本的な仕組みです。

 一方で課題もあります。富の偏在や格差拡大、環境問題、不安定な景気循環などです。
例えば、経済格差は1%の人が富の90 %を占有することもあり得ます。世界一の経済大国のアメリカの貧困率(所得が集団の中央値の半分にあたる貧困線に届かない人の割合)は 18.10 %で世界で4位の貧しい人々の割合が多い国であり、GDP世界3位の日本の貧困率は15.40 % で世界で10位の貧しい人々の割合が多い国という現実があります(こちらを)。
 現代の資本主義国家では政府による市場への介入や福祉制度によって、問題に対処しようとしています。その一方、政府の介入や対処を批判するリバタリアン(こちらを)もいます。

資本主義の歴史

 資本主義の前には、「封建主義」という制度が多くの国でありました。封建主義では、王様や貴族が土地を持っていて、大多数が農民で、農民がその土地で働くことで生活していました。農民は収穫の一部を地代として貴族に渡していました。

 16~18世紀に、航海技術の進歩や産業革命などによって、資本主義制度が次のように発展していきました。

  1. 商業資本主義(初期資本主義) 16世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパで発展しました。この時期は「商業革命」とも呼ばれ、貿易が拡大し、商人が主要な経済活動を担いました。大航海時代の影響で、海外との取引が活発になりました。詳しくはこちらを。
  2. 産業資本主義 18世紀後半から19世紀にかけて、産業革命によって工場制生産が始まりました。蒸気機関などの技術革新が生産を大規模化し、工場主(資本家)と労働者という新しい社会構造が生まれました。この時期、資本主義は急速に発展しました。

3.修正資本主義(福祉資本主義)

 資本主義の欠点を補うために政府が積極的に経済に介入する経済体制のことです。市場の自由な競争に任せるだけでなく、政府が介入することで、貧富の差の拡大や失業、恐慌といった問題を解決しようとする考え方です。

 その他、金融資本主義とかグローバル資本主義などと名づけられている資本主義のあり方もあります。詳しくはこちらへ。??

「マルジャーナの知恵」(岩井克人)の結論は ?

 ??本文に記号や数字など書き入れたりマークしながらすすめてみましょう。脳をフル回転してたどってみましょう??

 筆者自身が4段落に分けています。「筋トレ国語サイト」(こちらです)と同じように、各段落を「1」 、「2」 、「3」 、「4」 として各段落の形式段落・第何文目にあたるのかを算用数字で示すことにします。教科書などの本文にも同じように、記号・数字を書き入れたりマークして、読みすすめて下さいね。

(a.b.c) ? aは段落、bは何段目、cは何文目。

「1」では、現代の資本主義が、『モノを生産する産業から、技術や通信、さらには広告や教育といった「情報」そのものを商品化する産業へと、資本主義の中心が移動しつつある』(1.1.3)として、「それがどういうことであるかを述べ」(1.2.3)ようとしています。
 ここのキーになるのは、「情報を商品とする」ということです。

「2」では、『アリババと四十人の盗賊』の登場人物マルジャーナが、盗賊がアリババの住んでいる家の扉につけた印を無効にした、という例話が語られています。

「3」では、情報の本質とは、物理的な素材・形式的な記号の違いは関係なく、ほかとの違い(=差異)にあることを、「2」の『アリババと四十人の盗賊』の登場人物マルジャーナのおはなしを例に主張していることとなります。

 ここのキーになるのは、「情報の本質は、ほかとの差異である」ということです。

「4」を整理しましょう。理解が難しかったり誤読する怖れがある段です。「資本主義」を三段階でとらえて論じられています。よく読み込み思考しましょう。

 ①商業資本主義

 「差異から利潤を創りだす」(4.3.1)原理が、「外部的な関係として作用」(4.3.2)してきたとしています。

具体的には、「遠隔地と…国内市場の価格の差異を媒介して利潤を得る」(4.3.3)(=安い所から買ってきて、利益の出る値段で売る)という、利潤が得られるからくり(「外部的な関係」)が見えやすいと暗に言っているのです。

 わかりやすい例をあげると、フィリッピンでバナナひと箱30000円で買い付けて、日本のスパーで60000円で小売りに出すと、運送費や人件費などの経費を差し引くと1800円の利潤をあげられる、と言うようなことです。

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 ②産業資本主義

 「差異から利潤を創りだす」(4.3.1)原理が、「隠された構造として作用」(4.3.1)するとしています。

具体的には、「農村における過剰人口」(4.3.4)を利用して、労働力の価値と生産物の価値の差異から利潤を得る、つまり、利潤が得られるからくりを「隠された構造」と表現して、それが見えにくいとしているのです。

(利潤を上げるため、また、競争に勝つために労働者の賃金はできる限り下げたい=搾取が資本主義の本質だということをほのめかしているのです。)

 たとえば、労働者が1日で1万円分の価値を生み出す機械を動かしても、その労働者に支払われる賃金が5千円だったとします。このとき、労働者が生み出した価値(1万円)と、支払われた賃金(5千円)の差額である5千円が生まれます。この差額は剰余価値と呼ばれ、資本家はこれを無償で手に入れるようなことです。

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 ③現代の資本主義

    「遠隔地も農村の過剰人口も失いつつある現代の資本主義」(4.4.1)は、「資本主義が資本主義であり続けるためには、いまや差異そのものを意識的に創りだしていかなければならない」(4.4.2)。

「それが、情報の商品化を機軸として、われわれの目の前で進行しつつある高度情報社会、脱工業化社会、あるいはポスト産業資本主義と呼ばれる事態にほかならない。」(4.4.3)と結論付けているのです。

 わかりやすい例をあげると、社会貢献をしたり、オリンピックへ資金提供をしたりして、自社のブランド価値を高めることで、類似する競争他社の商品よりも高価で販売する、というようなことです。

 結論は、

『「その様相を変貌させている」(1.1.1)現代の資本主義も、「差異が利潤を創りだすという資本主義の基本原理そのものを体現している現象である」(4.5.1)』
となります。??

タイトルに「初心者におすすめのランニングシューズ」とした、あるサイトの画像。消費者に選んでもらえるように、メーカーはさまざまな観点から〈差異〉を創りだしています。

差異を創りだすとは ?

 HP問題の問4Dにもの「差異そのものを意識的に創りだしていかなければならない」とあります。

 差異は、次のようにして作り出されています。

 ①イノベーション(技術革新)によって機能や品質を高める。

 ②ブランド・イメージをを高める。

 ③情報商品では情報の質・信頼性・速報性・希少性などの価値を高める。

それぞれ具体的には次のような方法がとられています。

 ①では、より薄い、高機能、高品質のスマホを製造して販売する/他社製品と同じ機能を持つが、より低価格の機器を開発して販売することなど。

 ②では、社会貢献をしたり、オリンピックへ資金提供をしたりして、自社のブランド価値を高めること/比較広告によって自社の商品が他社のものより優れている点を視聴者に印象付けること/季節や期間限定を謳った商品/有名シェフ監修を謳った食品・飲料などがよく使われる方法…など。

 ③では、限定された人だけが知ることのできるプレミアム情報の提供を謳(うた)う有料メルマガ・ブログ/ニュースだけではなくブログ・SNSなど関連するコンテンツに相互リンクできるニュースサイト…など。

 企業は、技術革新や商品のイメージ操作やブランド価値の向上によって類似する他の商品(モノ・サービス・情報)との「差異」を創り出し強調し購入消費に導こうとしていること、知っておきましょう。??

現代資本主義が直面している問題

 ここからは発展的な内容となります。とばしてもいいです。

 現代資本主義は、需要(モノやサービスなど、何か望んでいる消費者の欲求)を上回る供給(モノやサービスを市場に出すことやその数量)過剰のしくみに直面していると言われています。

今以上のモノやサービスは必要と感じないというマインドが支配的。

さらに、我が国はここ30年以上賃金が漸減(ざんげん)しつつあり、先行きへの不安から消費することを抑制するということもあります。

企業は「差異」を創りだし消費者の購入を促(うなが)そうとするが、効果が現れない…長年続く不景気・デフレ、そういうスパイラルに陥(おちい)っているといわれています。

世界中で金利を下げたり・紙幣をたくさん印刷して供給したり(=お金の価値を下げ、人に物を買わせようとする政策)、企業活動を活発にするため規制を緩和したりしています(2015.2月現在)。

もはや資本主義は資本を投下して増殖するという資本主義本来の運動が不可能になっている、新しい時代のビジョンとそれへの備えが必要となっている局面を迎えているという経済学者〔例えば、水野和夫(こちらを)さんや斎藤幸平(こちらを)さんなど〕もいます。

そんな観点も知っていれば、今の生活、勉強、卒業後の進路を考えたりする時、また、小論文対策などに有益だと思います。

 高1の皆さんには、例話を除くと、中学の教科書レベルとの難易度が違いすぎてちょっと難しい評論だと思います。

大人でも、ふだん文章を読む習慣がなければ難しいと思うレベルの評論です。語句の意味を正確に理解し、脳をフル回転して読み込んでみてください。

★ 「資本主義」の対極にあるのが「社会主義」。でも、上の図には要注意です。潔癖で正義心の強い若い人たちは、ついつい「社会主義」にひかれてしまいます。

「社会主義」を看板にして、実は人類史に逆行する理不尽な国家(「赤い繭」)(こちらを)の現実も知っておく必要があります。2019.9.19
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??解読??岩井克人「マルジャーナの知恵」(こちら)?より完璧に理解し、高得点を !

評論??筋トレ国語式??勉強法はこちらへ

「マルジャーナの知恵」は『二十一世紀の資本主義論』(筑摩書房)におさめられています。こちらを。』