アメリカに期待される役割から、断固として降りる。

アメリカに期待される役割から、断固として降りる。
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『20253月19

1942年に、ナチス・ドイツと日本のプロバガンダに対抗する為に設立されたボイス・オブ・アメリカ(VOA)の組織を縮小する大統領命令に署名しました。設立目的は、大戦中の反プロバガンダ放送を海外へ向けて行う事でしたが、戦後は冷戦中の共産国のプロバガンダに対して、自由主義国の正当性を喧伝する為の放送になりました。70年以上の歴史を持つ連邦政府が資金提供をする放送局であり、共産圏の情報統制された社会の中で、他人に知られないように(密告されると投獄されるか、国によっては死刑だったので)自由主義体制の声を伝える役割を果たしてきました。特に、革命が起きる前の東欧諸国や、中東、東南アジアで、国家体制との戦いの中で、聞いていたという元レジスタンスは多いです。

多国語で世界に向けて放送されており、全世界のリスナー数は、数億人と言われています。自由主義社会の宣伝ツールとして機能してきたわけですが、現在、従業員1300人が休職扱いになっています。ホワイトハウスの声明では、「過激なプロパガンダから納税者を開放する」とあり、VOAの放送内容に問題があるかのように言っていますが、恐らく資金的な問題や放送内容の問題というより、アメリカが自由社会の旗手のように振る舞い、それを無条件に保障するかのような立場を代弁する存在を閉じるという事だと思います。つまり、「今後、アメリカは無条件に自由を保障しないし、それは各国で自分の問題として扱うべき課題だ」という方針変更に伴う処置と推測します。

共産主義と資本主義の戦いが激しく火花を散らしていた時代には、こちらの体制の有益性を宣伝する必要があったのですが、ほぼ経済では決着が付き、あとは、「事実上の独裁体制」と自由主義体制の戦いになっています。そして、これは、思想の対立でもあるので、宗教や伝統的な価値観との絡みもあり、経済システムほど合理的に処理できない問題です。短い言葉で言ってしまうと、払うコストや結果として背負う責任に対して、効果が薄いという事ですね。必ずしも、そうは思いませんが、トランプ大統領の中では、「アメリカに無条件に期待されていた役割から、断固として降りる。個々の事情については、当事者が真剣に考えろ」という流れの一つなのでしょう。

1976年にフォード元大統領が、VOAの編集独立性を保護する憲章にサインするなど、必ずしもアメリカ政府の出先機関としてのみ存在しておらず、政府にとって都合の悪い事を発信する事もあったかも知れませんが、組織の運営そのものを停止させられる程の事があったとも思えません。つまり、存在が暗示する「自由社会の旗手」という役割から、降りるという事だと思います。背景には、それを維持するのにかかるコストが大きく、アメリカ一国が担うには荷が重く、危機的な状況にならないと、各国は自分でリスク管理を担おうとしないという判断があると思われます。実際、フランスもドイツも、バンス副大統領が、喧嘩を吹っ掛け、関税攻勢に出てから、「アメリカに頼るのをやめる」として、軍事費の増額に乗り出しました。GDPの5%まで、NATO各国の軍事費を上げろと言う主張は、以前からトランプ大統領が主張した事であり、結果として、その方向に向いつつあります。

一言で言うと、アメリカが孤立主義に、言葉遊びではなく、本気で向かっているという事です。もちろん、反対するアメリカ市民は多く、それは恐らくは国民の半数に達すると思われますが、少なくても、トランプ大統領は、選挙で訴えたことを、強行するつもりです。「公約は公約だから。選挙の為の方便だから、別に守らなくても良い」という考えは、今のところ無いように思います。

また、アメリカが国費で行っている「ウクライナから連れ去られた2万人とも言われる児童の追跡」を記録するプロジェクトも終了するようです。これは、国際司法裁判所から逮捕状が出ている戦争犯罪なのですが、その痕跡を追跡し、証拠として記録を残す事を停止した模様です。また、捜査機関が情報にアクセスする事も禁止しました。これに支出している費用は、日本円で39億円程と言われていますが、緊縮財政策の一貫として止めるとされています。しかし、これも、ロシアに対する「太陽政策」か、もしくは、「当然のようにアメリカが犯罪立証の責任を負う有り様」から、アメリカが降りるという事だと思います。つまり、国益にならない事はしない、やる事には必ずリターンを求めるという事ですね。特に思想が絡む、客観的な責任を伴わない義務から、明確に手を引くように思います。この一方で、貿易に影響の出る、フーシ派の拠点には、攻撃を仕掛けているので、国益に反する場合には、手を出すという事です。

まぁ、このアメリカの態度に、感情的に憤慨する人は多いですし、実際、浴びる返り血も多いです。かなり欧州では怒ってるし、カナダはナショナリズムを煽って反目しています。つまり、結果として国益を損じている事も多いです。ただし、戦後体制のアメリカの世界における位置づけを、変えるという明確な意思を持って、それを覚悟でやっている事は理解しておくべきでしょう。単に、「指導者の頭がおかしい」、「大統領がバカだから」と思考停止してしまうと、今後の世界で正しいポジションを取れなくなる可能性があります。

今の政権の一つの特徴として、やたら「感謝しろ」と発言する点があげられます。ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談でも、横にいたバンス副大統領は、「ウクライナは、アメリカに感謝するべきだ」から、あの喧嘩別れが始まりましたし、欧州がアメリカの態度に不満を述べている事に対しても、あの若い報道官が「フランスがドイツ語を話していないのは、アメリカのおかげだ」と、第二次大戦にアメリカが参戦した功績を持ち出して、「感謝しろ」と言っています。つまり、「過去に、これだけの事に貢献してきたじゃないか。いい加減、こっち見るのを止めろ」というのが、トランプ政権の基本的な態度という事です。』