『Bertrand Benoit によるストーリー ? 1 時間 ? 読み終わるまで 5 分
ドイツの次期首相最有力候補のフリードリヒ・メルツ氏(左上)は、仏英の核抑止力の拡大について自国が議論を始めるべきだと述べた
ドイツの次期首相最有力候補のフリードリヒ・メルツ氏(左上)は、仏英の核抑止力の拡大について自国が議論を始めるべきだと述べた
【ベルリン】ドナルド・トランプ米大統領がロシアに接近する姿勢を示していることで、欧州は安全保障の再考を迫られており、米国が長年抑えようとしてきたドイツの核武装論が浮上している。
ドイツの新首相に就任することが有力視されている保守派のフリードリヒ・メルツ氏は、フランスと英国の核抑止力を欧州全体に広げる議論を自国が始めるべきだと考えている。独紙フランクフルター・アルゲマイネ(日曜版)とのインタビューで語った。
同氏はドイツが独自の核兵器保有を目指すべきかと問われると、否定はせず、「現時点では必要ない」と述べた。
この発言は長年のタブーを破るものであり、いかにドイツと欧州の安全保障の基盤が激しく揺らいでいるかを示す。冷戦終結からこれまで、ドイツの指導者が欧州における米国の核抑止力に代わる選択肢を呼びかけたことはない。
第2次世界大戦後、ドイツはソ連圏に対する防波堤として西側諸国の同盟に迎え入れられた。だがフランスや英国とは異なり、独自の核兵器追求を放棄し、代わりに米国の核の傘の下に入った。
トランプ氏は欧州からの米軍撤退に言及したことがある
トランプ氏は欧州からの米軍撤退に言及したことがある
ドイツ西部のビュヒェル空軍基地には現在、米国の戦術核が保管されており、米大統領が命令を下せばドイツ空軍が使用することになっている。
米政府は欧州から軍を撤退させる意向を示していない。ただトランプ氏は1期目にこれを試みた。同氏は現在、ロシアの独裁的指導者ウラジーミル・プーチン氏との緊張緩和を探っている。これが米国の抑止力に対する欧州の信頼を修復不可能なほど損なった可能性があると、一部アナリストは指摘する。
政治学者で米スタンフォード大学フーバー研究所客員研究員のマクシミリアン・テルハレ氏は、「欧州で紛争が激化したらトランプ氏が核で対応するとプーチン氏は考えるだろうか。トランプ氏のこれまでの言動は全てその反対を示唆している」と述べた。
米国が国外第2の規模の軍事的プレゼンスを保持するドイツでは、見捨てられるかもしれないという感覚が欧州で最も強い。
シンクタンクのベルテルスマン財団で「欧州の未来」プログラムを率いるクリスティアン・メリング氏は、ドイツには安全保障の空白を埋めるための選択肢が四つあるとし、「米国が核抑止力を維持すること、欧州が核抑止力を引き継ぐこと、この二つを組み合わせること、(核兵器以外の)通常戦力で補完すること。いずれもリスクを伴う」と述べた。
通常戦力に関しては、メルツ氏と連立政権に加わるとみられる党が先週、防衛費に厳格な財政ルールを適用しない考えを示した。事実上の政府借り入れ上限の撤廃で、早急に再軍備に着手できるようになる。
核戦力に関しては、抑止力再構築への最短の道は米国との枠組みを他国と作り直すことだと研究者や一部政治家は指摘する。フランスの核爆弾塔載機をドイツに配備して防衛するか、フランスの核兵器をドイツの爆撃機に搭載してドイツ軍が運搬し、フランス政府が使用許可を出す選択肢がある。
ドイツの軍事演習に参加したパイロット(2023年)。眼鏡に映っているのは米国のジェット戦闘機
ドイツの軍事演習に参加したパイロット(2023年)。眼鏡に映っているのは米国のジェット戦闘機
外交政策に詳しいドイツの保守派議員トーマス・ジルベルホルン氏は、「ロシアはわれわれに核攻撃の脅しをかけている」と述べた。「われわれ欧州人はこの核の脅威を真剣に受け止め、核抑止力で対抗すべきだ。これまでは米国が抑止力を提供してきたが、欧州レベルで構築できるかどうかを現在、英仏と議論している」
エマニュエル・マクロン仏大統領は先週のテレビ演説で、「将来の独首相の歴史的呼びかけ」を受け、自国の核抑止力を欧州の同盟国に拡大することについて「戦略的議論」を始めると述べた。マクロン氏は過去にもこうした議論を提唱したが、当時ドイツは一蹴していた。
フランスは米国への依存を減らすため、シャルル・ドゴール大統領(当時)の下で核開発を行った。核兵器の運用は北大西洋条約機構(NATO)から独立している点が英国と異なる。ただ、保有する核弾頭は英仏それぞれ200~300発程度で、6000発近くを保有するロシアに匹敵する規模ではない。
国際戦略研究所(IISS)の戦略・技術・軍縮部門責任者アレクサンダー・ボルフラス氏は、「フランスと英国はすでに信頼性のある最小限の核抑止力を保持しているが、後ろ盾となる米国と常に連携してきた」と述べた。
ドイツが安全保障をフランスと英国に委ねれば、両国の政治情勢に手足を縛られることになり、トランプ氏の気まぐれに振り回されている今と変わらない。
マクロン氏は、攻撃の決定は「これまで常に(仏)大統領の手中にあったし、今後もそうあり続ける」と強調した。世論調査によれば次期大統領となる可能性があるナショナリストのマリーヌ・ルペン氏は先週、自国の抑止力を「共有すべきではなく、まして委任すべきでもない」と述べた。
ドイツ西部のラムシュタイン空軍基地近くに建てられた米国の国旗
ドイツ西部のラムシュタイン空軍基地近くに建てられた米国の国旗
テルハレ氏は昨年、ドイツが米国から不活性化した核弾頭約1000発を購入することを打診すべきだと提言し、備蓄核兵器の保有を推奨してきた。
ドイツは東西再統一の際に核兵器を放棄し、核拡散防止条約(NPT)にも署名している。
もし核開発に踏み切れば、条約に違反するだけでなく、敵の攻撃の標的にもなりかねないため、秘密裏に行う必要がある。
IISSのファビアン・ヒンツ氏は、「ドイツのような成熟した工業国は、核兵器を拡散する可能性のある他国より短期間で弾頭を開発できるだろう」と述べた。ただ、おそらく法的・技術的な障害に直面する上、極秘で開発を続けるのも困難だろう。
ドイツは少量の兵器級ウランを保有しており、ミュンヘン工科大学が運用する民間研究用の原子炉で使用される。核兵器開発に必要な科学的・産業的基盤はすでにあると考えられている。それでも、十分な量の核物質の確保と兵器設計には、おそらく外部の助けが必要になる。
「米国は欧州から出ていけ」と書かれたプラカードを掲げるデモ参加者(2月、ミュンヘン)
「米国は欧州から出ていけ」と書かれたプラカードを掲げるデモ参加者(2月、ミュンヘン)
ボルフラス氏は「全く気付かれずに必要量の爆弾原料を生産できた国はない。今は情報収集や監視の技術がはるかに高度になっているため、一層難しくなっている」と述べた。
ドイツは核弾頭を開発しても、実験を行うのは無理かもしれない。欧州のように人口密度の高い地域で安全に実験を行うのは難しい。また、各国や国際機関が運用している衛星や地震計、放射線測定器の監視の目をかいくぐるのはほぼ不可能だ。
これは問題ではないという専門家もいる。核実験を行わないまま少量の兵器を開発し、抑止効果を期待する戦略もあるという。南アフリカはこれを選択し、実験していない弾頭を少数製造した後、核兵器プログラムを放棄した。
「核ヘッジ」と呼ばれる方法もある。核兵器開発の前段階にとどまりつつ、脅威を受ければ製造に踏み切る構えを見せる、一種の瀬戸際政策だ。
ボルフラス氏は、「ドイツがそれほど自信を持ち、国益追求に徹し、多くの規範を破る」というのは「かなり想像しにくい」と述べた。
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