英海軍の補助敷設艦『HMS Menestheus』は、1944年にビール醸造船に改装され、…。

英海軍の補助敷設艦『HMS Menestheus』は、1944年にビール醸造船に改装され、…。
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『Oliver Parken 記者による2023-5-5記事「This Minelayer Was Converted Into A Floating Brewery During World War II」。
   英海軍の補助敷設艦『HMS Menestheus』は、1944年にビール醸造船に改装され、1945秋から1946まで、太平洋域で連合軍兵士にビールをふるまった。

 このフネ、もともとは、英本国と太平洋域を往復する貨客船であった。1929年にベルファストで進水。
 WWIIが始まると、姉妹船の『アガメムノン』とともに海軍が徴用。英仏海峡の防備用に確保された。
 敷設艦への改装は1940の春よりも後。

 1940-10には、これら改装補助敷設艦は、フェロー諸島とアイスランドの間の海域に大量に機雷を敷設しはじめた。

 しかし1943後半には、英海軍が機雷で本国を防御しなければならない緊急性がなくなる。

 そこで、太平洋に薄く散開した英軍兵士のために新鮮なビールを供給するフネに再改装されることになった。英本土や豪州からえんえんとビールを運搬したのでは、途中で悪くなってしまうので。

 英海軍は18世紀から軍艦(帆船)内にラム酒を貯蔵するようになった。度数の低いビールは、それよりも前から軍艦内で供給されているが、いつからかは不明。

 ちなみにラム酒は1970-7に軍艦内から追放された。これは英国議会の議決による。軍艦の乗員が扱わねばならない機器類が高度に精巧なものになっていたので、それらを酔っ払いに扱わせるのはもう具合が悪いと判断された。

 17世紀と18世紀を通じ、弱いビールは、グロッグ(ラム+真水+レモンジュース)よりも頻繁に軍艦内で消費されている。映画などでは、グロッグばかりがしょっちゅう出てくるが、そんなのは嘘だ。
  ※「グロッキー」の語源は、この酒である。よって正確には「グロッギー」なのだ。

 英海軍の新編の太平洋艦隊のために補助艦のいくつかをアメニティ・シップに改装しろという命令はチャーチルが直接に出している。2隻の改装工事はカナダのヴァンクーヴァーですることになった。1944後半から。

 しかし『Agamemnon』の工事は1945-8に中止させられた。
 かくして『HMS Menestheus』だけがビール供給船に改装された。就役は9月からと考えられるが、9-2の日本の正式降伏には間に合っていない。

 アメニティシップとして同船は席数350の映画館、ダンスホール、大宴会のための厨房も備えていた。

 じつは英軍にとって太平洋での戦争は1945夏には終わらなかった。日本の降伏と同時に、インドネシアの独立戦争の鎮圧の仕事を命じられたからだ。

 また、太平洋に展開したおびただしい英軍将兵の召集解除・本国帰郷も、短時間では完結するものではなかった。

 『HMS Menestheus』は海水から真水を造ることができた。
 濃縮ホップと、モルト抽出液は、英本国から海送された。

 船内には銅製の、容量55バレルの醸造ポットが据えられていた。加熱はボイラーによる。
 発酵槽は6杯あった。

 1週間の醸造能力は、350バレル(英式だと250バレル)。度数は3.7度である。
 消費部隊へは、5ガロン入る鉄容器によって、送り出された。

 この船のその後は詳しくわかっていないが、1946に徴用が公式に解かれたあと、加州で船火事を起こして放棄され、1953にスクラップになったようである。

 2018年、英海軍は、艦上パブをオープンした。空母『HMS Queen Elizabeth』の内部に。その名も「Queen’s Head亭」という。
 いうまでもなく米海軍は「ドライ」なので、このようなフネも設備も、ありえない。

 ※海自の募集難を緩和するために、「アメニティ・シップ」があったって可いだろう。特に遠隔地派遣ミッション用に。それは真の近海有事には、補助補給船となるのである。』