[FT]「トランプ関税」反米の種 欧州・中南米、中国と接近も
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『2025年2月7日 0:00 [会員限定記事]
「我々の関税の戦略は、まず撃ち込んでみる。そして質問は後で聞くというものだ」――。
昨年末、トランプ米大統領の主要な経済政策立案者の一人が筆者にこう語った。
こうしたふんぞり返って威張った感じの態度が今、米政府内ではやっている。だが、トランプ氏が深く考えもせずに繰り出す戦術は、関税の標的となった国々だけでなく米国自身にとっても極めて危険だ。
中国、ロシアにとっては夢のような展開
米国への輸入品に…
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『しかし、この関税が米国の国家戦略に及ぼす影響は、経済面への打撃に匹敵するほど深刻なうえ、経済的な打撃以上に長引く可能性がある。トランプ氏の関税をかけるという脅しにより、西側諸国による同盟の結束が崩れる恐れがあるからだ。
トランプ氏は、米国から新たな脅威を感じている多くの国々が、米国に対抗すべく新たな集団を形成するよう種をまいているようなものだ。
こうした国々の協力関係は最初は非公式なものであったとしても、関税戦争が長引くに従い強固なものになるだろう。』
『西側諸国の結束が崩れることは、ロシアと中国にとっては、まさに願ってもない展開だろう。トランプ氏はロシアのプーチン大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席にしばしば称賛の意を表してきただけに、そんなことは自身は気にしていないかもしれない。』
『そうだとしたら、トランプ氏が中国とメキシコ、カナダに追加関税を課すのは非常に愚かなことだ(編集注、同氏は3日にメキシコのシェインバウム大統領とカナダのトルドー首相と個別に協議し、関税の発動を1カ月延期することで合意した)。
そんなことをすれば、彼はこの3カ国、ならびに次の関税の標的と言われている欧州連合(EU)との間に利害が一致する状況をつくり出すという危険を冒すことになる。』
『西側諸国は再び中国と接近することも
2021年にバイデン政権が発足したとき、EUは中国との新たな投資協定を成立させんとしていた。だが、米政府からの圧力と中国政府の失策によりEUはそれを断念した。
バイデン政権の終盤には、米国とEUの執行機関である欧州委員会は、中国との貿易に伴うリスクを低減し、かつ重要な技術の中国への輸出を制限するなど緊密に連携するようになっていた。
バイデン政権の中核にあった考え方は、米国が世界の覇権を巡り中国と対立している以上、ほかの民主主義の先進諸国を説得して米国に協力させることができれば、勝てる可能性は大いに高まるというものだった。』
『トランプ氏は対照的に、米国と敵対する国々よりも同盟各国にはるかに厳しい要求を突きつけるという方針だ。それは米国の同盟各国に、再び中国に接近させることにつながる。
というのもEUの政策立案者たちは、中国産の電気自動車(EV)や電池、太陽光パネルなしには、温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「グリーン移行」の達成という野心的な目標は達成できないとすでに理解しているからだ。
米国市場を失う恐れがあるのなら、中国市場の必要性は今にも増して高まることになる。
筆者は1月下旬、あるEUの政策担当の高官にEUが再び中国に歩み寄る可能性について尋ねたところ、彼女は「実はその議論はすでに始まっている」と答えた。
EUの有力者たちの中には、米国と中国のどちらが今、自分たちにとって直接的な脅威なのかを問う者も出てきている。ほんの2カ月前は、これはばかげた質問だった。』
『中国にとっては南米含め仲間増やすチャンス
しかし、独立した国家で北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるカナダに自国の51番目の州になるべきだと話しているのは、習氏ではなくトランプ氏だ。そして、欧州の極右勢力を後押ししているのも中国政府ではなく、トランプ政権とイーロン・マスク氏だ。
中国とEUの関係を改善しようにも、中国の重商主義と、ウクライナと戦争するロシアを支持する中国政府の姿勢が依然として大きな障害だ。
だが、もしトランプ政権がウクライナを見捨てる一方、中国政府がロシアに対してより厳しい態度を取るとすれば、EUが中国寄りに傾く可能性は開かれるだろう。』
『中国は、米国によるパナマやメキシコへの脅しに憤慨している中南米にも新たなチャンスを見いだすだろう。パナマ運河の支配権を取り戻し、メキシコの麻薬カルテルを徹底して取り締まるというトランプ氏の決意を考えると、米国がこれらの国々に対し軍事力の行使を含め、かなり強硬な行動に出る可能性は十分にある。
しかし、トランプ氏のメキシコへの攻撃的な姿勢は、逆効果になる可能性が高い。関税によりメキシコが深刻な不況に陥れば、必死の思いで米国を目指す人々の流れは増加の一途をたどり、麻薬カルテルの勢力も強まる一方だろう。カルテルの輸出品は関税の影響を受けない。
カナダとメキシコは、米国との貿易戦争で自分たちが不利な状況にあることを痛感している。それでも彼らは報復措置を取らざるを得ない。どの国の指導者も、米国からのいじめに対して弱腰だと見られるわけにはいかない。
そして、トランプ氏に反撃することは、恐らく戦略的に正しい。ある欧州の外相は筆者に最近、「もしトランプに殴られて殴り返さなければ、彼はまた殴ってくるだけだ」と語った。』
『西側同盟の破壊は米企業にとっても大惨事
英国や日本など、まだ関税の標的にされていない国は「ほっ」とため息をついているかもしれない。だが、目立たないようにしていれば関税を免れると考えているなら甘い。トランプ氏が最初に仕掛けた関税戦争がうまくいったと判断すれば、間違いなく新たな標的を探す。
米産業界も目を覚まし、米経済に「アニマルスピリッツ」が戻ってきたなどとおべっかを使うのはやめるべきだ。トランプ氏が自国に提案しているのは、実質的には経済的自立と西側の同盟を破壊することだ。
それが現実になれば、米企業にとっても、米国全体にとっても経済的、戦略的に大惨事となる。
By Gideon Rachman
(2025年2月3日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』