[社説]ガザ所有で退去を迫るトランプ氏の暴論
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK056P00V00C25A2000000/
『2025年2月5日 19:05
共同記者会見に臨むトランプ米大統領㊨とイスラエルのネタニヤフ首相(4日、米ホワイトハウス)=AP
トランプ米大統領が、イスラエルの攻撃で荒廃したパレスチナ自治区ガザを「所有する」と主張し、住民を域外に恒久的に再定住させる案を示した。パレスチナ人の土地を奪い一層の犠牲を強いることになりかねない。ディール(取引)の手法だとしても暴論だ。
実効性に疑問は尽きない。パレスチナをないがしろにするもので、反発が広がる可能性がある。
2期目の就任後、初めて対面する外国首脳としてイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、共同記者会見でこの案を披露した。米国がガザで不発弾や破壊された建物を撤去し、経済開発を進めるという。イスラエルに都合の良い話だ。過度の肩入れを憂慮する。
ガザで1年3カ月を超えたイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘は、ハマスの越境襲撃から始まった。市民を殺害し人質に取ったハマスの凶行は許されない。しかし無関係のガザ住民まで根こそぎ追い出すのは筋違いだ。
イスラエル軍による過度のガザ破壊を看過しながら、住民の再定住で片をつけるのは不当だ。国際法違反の強制移住の疑いが強い。米国に何の権限があってガザの所有を主張するのかも疑問だ。
トランプ氏はガザ住民の受け入れ先にヨルダンやエジプトを挙げた。両国は反発している。何らかの譲歩を引き出す手段かもしれないが、再定住は人権や歴史を軽視した極端な発想だ。サウジアラビアも拒否する考えを示した。
1948年のイスラエル建国で大量のパレスチナ人が土地を失い、双方の対立が続いてきた。イスラエルは占領政策を強め、パレスチナは蜂起やテロを重ねた。
バイデン前米政権を含む国際社会は、将来のパレスチナ国家とイスラエルの「2国家共存」を求めてきた。パレスチナが住民の移住でガザの土地を失うなら、その前提は大きく損なわれる。米国の中東政策の転換となる。
イスラエルの極右勢力は歓迎するだろう。同国は軍がシリアで駐留を続けるなど、安全保障を理由に拡張主義を正当化している。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸での軍事作戦強化も気がかりだ。
トランプ氏の肩入れはネタニヤフ政権の強硬策を助長しかねない。日本は力による一方的な現状変更を批判してきた。中東の新たな火種となる行きすぎを黙認すべきではない。懸念を共有する国々とともに声を上げる必要がある。』