DeepSeekの衝撃 中国AIが変えたゲームのルール

DeepSeekの衝撃 中国AIが変えたゲームのルール
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM27BNR0X20C25A1000000/

『2025年1月28日 11:00 [会員限定記事]
中国の生成AI(人工知能)スタートアップ「DeepSeek(ディープシーク)」が米オープンAIの「ChatGPT」を超えるといわれる新モデルを発表した。圧倒的な低コストを誇る同モデルの登場でAI業界のゲームのルールは一変した。激化する米中AI戦争はこの先の世界の形すら変えようとしている。

「中国勢はAI時代の主役となった」「シリコンバレーはパニックに陥った」。世界の株式市場を「ディープシークショ…

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『開発の背景には、中国AIの現場における「2つの無い」と「2つの有る」が存在する。

「中国AI企業が米国に遅れている最大の理由は何か」。昨年、中国生成AI企業の幹部にこう聞いたところ、こんな即答が返ってきた。「あれほどの資金力が無いことだ」

AIモデルの開発でコストがかさむのは、模範解答をひたすら学習させる「トレーニング」過程にある。巨額のマネーを集める米テック企業はいくらでも資金をつぎこめるが、資金力が限られる中国スタートアップは学習の方向性を絞り込まざるを得ない。

「R1」はそのギャップを別の方法で埋めた。AIに人間のような推論・分析能力を持たせ、知らない問題でも思考の末に答えを導き出す「自己進化」を可能とした。これによりトレーニング過程の費用を大幅に削減した。

もう一つの「無い」は対中輸出規制を受ける高性能半導体だ。国産半導体も試用段階にあり、中国企業は効率のよいモデルの開発にしのぎを削っている。「R1」は半導体のメモリ使用量を大幅に減らすシンプルな機構設計にも特徴がある。つまり2つの「制約」の存在が革新を生み出した。

「2つの有る」は中国の「豊富な人材」と「自由」だ。

清華大学や北京大学など著名大学は相次ぎ生成AI部門を拡大している。米シンクタンクによると世界のトップクラスのAI研究者の半数近くが中国で教育を受けた。

ディープシークの約140人の開発チームはその象徴だ。梁氏はAI研究で知られる浙江大学出身。「経験よりも潜在力」を重視するため社員は20代中心で、博士課程の学生も多い。全員が海外経験を持たない本土人材だ。「天才少女」や数学オリンピックの勝者など有名人も多い。

一方、中国のAI業界は「逆説的な自由」を持つ。中国共産党の統制下、政治批判は厳しく監視されるが、政治以外はそれほど重視されていない。開発加速が国家の優先事項であり、知的財産保護や倫理の確保、軍事利用の制限といった規制は後回しとされている。

ディープシークの登場で、巨額マネーが左右する「強者のゲーム」は突然、持たざる者たちも入り乱れ低コスト・低価格を競う別のゲームに置き換わった。米テック企業は投資回収もままならなくなりかねない。』