ゼレンスキー氏、平和維持軍「20万人」 欧州に高い要求

ゼレンスキー氏、平和維持軍「20万人」 欧州に高い要求
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『2025年1月22日 2:29

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岩間陽子さんの投稿
岩間陽子

ダボス会議で講演するウクライナのゼレンスキー大統領(21日、スイス東部ダボス)=AP
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアの侵略を受けるウクライナでの停戦案として浮上している欧州の平和維持軍の展開規模について「20万人が最低限だ」と語った。トランプ米大統領との会談準備も進めていることも明かした。

スイス東部ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)の講演後、記者団に語った。2月にも想定される停戦協議を前に、有利な条件を引き出すために高い要求を突きつけた格好だ。

ゼレンスキー氏は講演で、ロシアのプーチン大統領が将来、再侵略するためにウクライナに軍の規模の5分の1への削減を要求するだろうと指摘。「我々はこれを許さない」と強調した。

中長期の和平の実現のためには、信頼できる強い安全保障の約束が必要だと指摘。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟の必要性も重ねて訴えた。

トランプ氏がNATO加盟国に対し、GDPに占める国防費の割合の目標を従来の2%から5%に引き上げるよう要求していることを念頭に「国内総生産(GDP)比5%の額が必要なら、5%投資すべきだ」との見解を表明。「欧州の全ての国が、本当に必要なだけ防衛に投資すべきだ」と注文を付けた。

一連の発言には、欧州各国に大きな負担を求めるトランプ氏に寄り添い、停戦協議で実効性の高い安全保障の枠組みを確保しようとするゼレンスキー氏の戦略が透ける。

欧州有志国による平和維持軍の派遣は、米欧やウクライナで浮上している停戦案の柱となっている。NATOへのウクライナの加盟を当面先送りする代わりに、欧州から停戦ラインを警備する兵員を送り、侵略の再開の抑止力とする構想だ。

ただ、ウクライナ東部と南部の約1千キロメートルにも及ぶ前線で実効性の高い平和維持活動に当たる場合、10万人超の兵員が必要になるとみられていた。長期の兵員派遣の負担を抑えたい英仏など有志国は数万人規模の派遣を想定しているとみられ、ゼレンスキー氏の要求とは乖離(かいり)がある。

同氏は講演で、ウクライナの安全保障は「欧州の安全保障だ」と述べ、支援継続の意義を訴えた。米国にとって欧州は十分に重要性を示せていないとの危機感を示した。

トランプ氏の圧力を利用して、欧州からさらに軍事支援を引き出す狙いとみられる。トランプ氏が20日の就任演説でウクライナへの言及を見送るなど、欧州への米国の関心の低さへの危機感ものぞかせた。

米ロによるウクライナや欧州抜きの和平交渉を警戒するゼレンスキー政権は、トランプ政権との停戦に関する協議入りを急いでいる。ウクライナメディアによると同国の与党幹部は21日、ワシントンで両政権の代表者による協議が開かれるとの見通しを示した。

(スイス東部ダボス=北松円香、ブリュッセル=田中孝幸)

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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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分析・考察 今回のゼレンスキー演説は、敢えてトランプ米政権への言及を避け、欧州対してもっと防衛に投資して、世界の中で発言権のある存在になれと呼びかけています。ロシア130~150万人の兵力に対し、欧州側は仏の20万、独の18万という少なさ。これまで旧ユーゴやアフガニスタンに出してきた平和維持軍も、数千人規模がせいぜいでした。現状で20万人の平和維持軍を出すのは全く非現実的です。しかし、ウクライナ側は、防衛費5%使ってでもロシアを抑止できるだけの防衛力を持て、ということでしょう。欧州への要求を吊り上げるという意味では、トランプ政権とウクライナの利害が一致するのであり、その辺りも計算したアプローチでしょう。
2025年1月22日 8:44 』