民主国家としての未熟さが露わに…「韓国の戒厳令」は5カ月前に予言されていた

民主国家としての未熟さが露わに…「韓国の戒厳令」は5カ月前に予言されていた 朴正煕政権のデジャブ
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/12041700/?all=1

『2024年12月04日

12月3日午後10時半、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は非常戒厳を宣布、全ての政治活動の禁止とメディアの検閲に動いた。翌4日未明に国会がその解除を決議すると、大統領は受け入れ軍も撤収したが、韓国民主主義の未成熟さが露わになった。韓国観察者の鈴置高史氏は戒厳令を予測していた1本の記事に注目する。

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尹大統領も“畳の上”では死ねない…?「韓国歴代大統領の悲惨な末路」

保守政権でも日本との溝はなぜ広がる?世界最悪の人口減少をなぜ放置?…韓国を観察して40年余り“朝鮮半島「先読みのプロ」”による韓国論の決定版
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「畳の上」で死ねない大統領
――民主主義国と思われていた韓国で、戒厳令とは……。

鈴置:韓国人も驚いています。国会はもちろん、与党「国民の力」の代表も批判し、大統領室の側近が一斉に辞意を表明しました。国民のほとんどが今回の戒厳令が異常事態と見たのです。

――なぜ、そんな非常識なことを。

鈴置:尹錫悦大統領が非常識と言うほかありません。ただ、韓国の
民主政治自体が崩れ始めていたのも事実です。1987年に民主化したものの21世紀に入った頃から左右対立が激化し、政権を握った側は相手側の政治家、官僚、はては裁判官までも投獄するようになりました。

 現在は保守政権ですが、次は左派政権に交代する可能性が高い。そうなったら尹錫悦大統領はもちろん、その取り巻きも起訴されるのはほぼ確実です。

 それを防ぐためには戒厳令を敷いて、次の大統領候補を含む左派の政治家を起訴・収監するしかない、と尹錫悦氏側が判断したと思われます。

 左派の野党は今回の戒厳令を理由に尹錫悦大統領の弾劾に動く構えです。与党議員の8人ほどが賛成すれば成立します。今回の戒厳令は藪蛇になる可能性が高い。

 図表「韓国歴代大統領の末路」をご覧ください。韓国の大統領は建国以来「畳の上」で死ねません。民主化後も、それは変わりません。

韓国に民主主義は育たない

韓国歴代大統領の末路(他の写真を見る)

――韓国の民主主義はそれほどにおかしくなっていたのですか……。

鈴置:今年9月に上梓した『韓国消滅』の第2章「形だけの民主主義を誇る」に詳述してあります。もっともこの本を読んだ人からも「韓国は日本と同じように民主主義を享受しているはずだ」との反論が寄せられました。

 思い込みとは恐ろしいものです。韓国が民主化したと聞いて、あるいは韓国人から「我が国は日本以上の民主主義国だ」と聞かされてそう思い込んでしまっている日本人が多い。

『韓国消滅』で豊富な事例を挙げて韓国の危うさを説いたのに、それに気づかない。今回の戒厳令騒ぎを見て「あの本に書いてあることは本当だったのですね」と、ようやく言ってくる人もいて、考え込んでしまいます。

 韓国には欧米・日本型の民主主義は根付かないのだと思います。法治の意識に乏しいので、権力を握ると司法を使ってやりたい放題。これでは国内対立がエスカレートするばかりです。

――なぜ、法治意識に乏しいのでしょうか?

鈴置:李氏朝鮮以来、骨の髄まで儒教国家だったから、というのが定説です。「人間の修養によって国を治める」儒教は法による統治と相容れないところがあります。

 日本人は平気で国家間の約束を破る韓国人を見て首を傾げます。しかし、韓国の「無法ぶり」は日本に対してだけではなく、国内でも同様なのです。』

『「尹錫悦の暴走」を言い当てた
 実は戒厳令を予言していた記事があります。ハンギョレのキル・ユンヒョン論説委員のコラム「韓国の核武装論と朴正煕の10月維新」(7月10日、日本語版)です。結論部分を引用します。

・最後に言及したいのは、来年以降、尹錫悦政権が暴走する可能性だ。南北和解を主張した朴[正煕]元大統領がわずか数カ月後に選んだ道は、結局「10月維新」(1972年10月17日、朴元大統領が「大統領特別宣言」を発表し、国会の解散や政党・政治集会の中止などを決定したうえ、韓国全土に非常戒厳令を発し、独裁色を強めた一連の宣布)だった。
・様々な面で窮地に追い込まれた尹大統領も、在韓米軍撤退の論議が本格的に始まれば、安保危機を掲げ、権威主義的統治を強化する可能性がある。独自の核武装論も、与党「国民の力」の政権維持のために乱用されるだろう。

 「尹錫悦の暴走」をピタリと言い当てています。時期は「来年以降」ではなく「年内」に早まりましたが。

 5か月前にこの記事を読んだ時は、眉に唾したものです。いくらなんでも21世紀の韓国で戒厳令などあり得ない。左派系紙のハンギョレだから「盛って」書いているな、と思ったのです。

 この記事が優れているのは、国際情勢から「暴走」を予言した点です。「トランプ再臨で“損切り“される韓国…焦って中国側に走るのか」で書いたように、韓国は孤立し安全保障上の危機に直面しています。』

『1972年、再び
 尹錫悦政権は対北強硬策を採用しました。その北朝鮮はウクライナ戦線への派兵と引き換えに、ロシアに軍事同盟を結んでもらいました。

 ロシアは韓国に対し怒り心頭に発しています。米国の圧力でウクライナに大量の155ミリ砲弾を供与したからです。米国経由の形ですが、韓国製砲弾を撃ち込まれるロシアは連日、韓国を威嚇しています。

 冷戦時代の再現です。ただ、その時代には米国が後ろ盾になってくれていた。ところが11月5日の選挙で当選し、2025年1月から大統領に返り咲くトランプ(Donald Trump)氏は、韓国との同盟に極めて消極的です。

 今回の大統領選挙では「韓国の防衛分担費用を9倍に引き上げさせる」が公約でした。1期目の終わり頃「2期目になったら真っ先にすべての在韓米軍を撤収する」との意向を周辺に漏らしていました。

 当時、国防長官だったM・エスパー(Mark Esper)氏が退任後に書いた『A Sacred Oath』の548-549ページで明かしています。

 中国との関係はすでに悪化しています。バイデン(Joe Biden)政権によって、対中半導体包囲網に引きずり込まれたからです。次期トランプ政権が対中圧力を増すのは確実です。

 来年以降、韓国は「四面楚歌」に陥ります。1972年の朴正煕(パク・チョンヒ)政権の置かれた状況と似ています。当時の韓国は中ソとは国交もなく敵対国のまま。北朝鮮とは南北会談を通じて関係改善を探りましたがうまく行かない。そこに米国が在韓米軍の撤収に動いたのです。

 朴正煕大統領は安保危機が政権基盤を揺らすと懸念し、戒厳令による強権政治に乗り出しました。

核武装も後追い
――なるほど、今と実に似ている。

鈴置:朴正煕大統領はもうひとつ取り組みました。核開発です。米国から見捨てられる以上、自分で核を持つしかない、との判断です。

――尹錫悦政権も?

鈴置:それも似ています。韓国の保守の言説からは、核武装の兆しが読みとれます。日本は、ここを見据える必要があります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部 』