トランプ氏が探る非常事態宣言 不法移民送還に軍隊動員
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『2024年11月28日 5:03 [会員限定記事]
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小野亮さんの投稿
小野亮
メキシコとの国境沿いを視察した際のトランプ次期米大統領(2024年2月)=ロイター
【ワシントン=飛田臨太郎】トランプ次期米大統領が不法移民を強制的に国外に送還するために国家非常事態宣言を発令する意向を表明した。移民問題をテロ攻撃などと同様に有事として扱い、軍隊の利用に道を開く狙いがある。
トランプ氏は18日、就任後に国家非常事態を宣言し、軍隊を動員すると自身のSNSで示唆した。次期政権で国境対策の責任者となるトム・ホーマン氏は26日、メキシコとの国境沿いを視察した。
何が非常事態かは大統領次第
米国内の不法移民の数は1100万人を超え、このうち5分の4は10年以上、米国に滞在している。トランプ氏は選挙戦で「就任初日に、史上最大の強制送還作戦を開始する」と公約した。
新政権の最優先課題に掲げるが、具体的な計画は明らかになっていなかった。トランプ氏は大統領に広範な権限を与える国家非常事態宣言を発令して、ヒト・モノ・カネの集中的な投入を目指すとみられる。
国家非常事態宣言は1976年成立の国家非常事態法に基づく。米国は独立以来、国家の存続に関わる危機的な事態に大統領に強力な権限を与えており、同法はあまりにも強大な大統領権限を抑制しようと議会が成立させたものだ。
ただ、それでもなお緊急時には約135の権限を選択できると定めた。銀行口座の凍結やインターネットの遮断なども含む。
何をもって非常事態とするかを決めるのは大統領自身だ。2001年の米同時多発テロや20年の新型コロナウイルス対応、敵対国への経済制裁の導入などで、歴代の大統領が発令した。30以上の宣言が有効な状態が続くとされる。
トランプ氏は第1次政権の19年2月、「国境の壁」建設に国防予算を転用するために宣言を出した。第2次政権でも再び、移民政策での利用をもくろむ。
強制送還を実行するうえで、米政府の体制は脆弱だ。
所管する米移民税関捜査局(ICE)の担当部門は6000人の捜査官と、4万人分の収容施設しかない。そこでトランプ氏が目をつけたのが100万人を超える軍だ。
他国への送還に軍用機や国内の軍事施設を使う狙いがある。国家非常事態宣言を出せば、軍が国境沿いの捜査官を後方から支援することも可能になる。
1807年制定の反乱法を適用か
一方、連邦法は移民の逮捕や国外追放を含む国内法の執行に軍を使うことは原則、禁止している。宣言を出しても、実現できるか法的には微妙だ。
トランプ氏の側近は1807年に制定された「反乱法」の適用なども探る。同法では、国内の騒乱や連邦法に違反する行為を鎮圧する目的で大統領が陸軍や海軍を投入できると定められている。
リンカーン大統領が南北戦争でこの法律を利用した。国家非常事態宣言でまず国家の有事を宣言し、同法の必要性を訴える二段構えになる可能性がある。
資金の確保も宣言の目的の一つだ。米国移民評議会によると、年間100万人の強制送還にかかる費用は年平均880億ドル(約13.3兆円)にのぼり、国土安全保障省の年間予算(約600億ドル)を上回る。
米国防総省が2025会計年度(24年10月〜25年9月)の予算教書で要求した国防費は8952億ドルに達する。トランプ氏は宣言を通じて、流用を可能にし、資金不足の解消を狙う。
トランプ氏「できるだけ早く追い出す」
バイデン政権下で急増した不法移民に不満を抱いた米有権者は多い。米大統領選で物価高と並び、民主党から共和党に票が流れた大きな要因となった。
トランプ氏は選挙戦で「侵略された都市や町を救い、悪質で血に飢えた犯罪者を刑務所に送り、できるだけ早くこの国から追い出す」「初日だけ、独裁者になる」などと過激な言葉を使った。
強制送還は米有権者が投票を通じてトランプ氏に手形を与えた形だが、危うさも抱える。人種差別の助長や働き手の減少は米経済の下押し要因となりうる。長期的には米国の国力を落としかねない。
すでに米国内に定着し、安定した暮らしをしている人々の生活を奪うことにもつながる。人権侵害との批判の声がある。民主党や人権擁護団体は訴訟する構えで、最終的に司法の判断に委ねられる可能性もある。
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みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル
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ひとこと解説ニューヨークやラスベガス、ロサンゼルスなどの大都市に米軍が出動し、不法移民の摘発に動くなど想像できない。アメリカの終わりです。ともあれ、これから本格化するアメリカの年末商戦への影響が気がかりです。法的地位の有無に関わらず、移民は消費者ですから。
2024年11月28日 8:11 (2024年11月28日 8:14更新)
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