ウクライナ停戦、米国でNATO加盟凍結案 交渉は難航か
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『2024年11月28日 5:00 [会員限定記事]
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鶴岡路人渡部恒雄岩間陽子
トランプ氏がめざす大統領就任後24時間以内の停戦実現に懐疑的な見方が出ている=ロイター
【ワシントン=坂口幸裕、ウィーン=田中孝幸】米国でトランプ次期米大統領が早期終結を目指すウクライナ紛争の停戦案が焦点に浮上してきた。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の一定期間の凍結や、戦線での非武装地帯(DMZ)設定などが取り沙汰される。同国とロシアのいずれの主張とも隔たりがある内容で、厳しい交渉が想定される。
ウクライナNATO加盟、10〜20年凍結も
「(就任後)24時間以内に終わらせる」。トランプ氏は大統領選の期間中に繰り返し、2025年1月の大統領就任前を含む早期停戦に自信を示してきた。ロシアのプーチン大統領と良好な関係にあり、ウクライナのゼレンスキー大統領との仲介に意欲的だ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、米国が停戦交渉の一環として、ウクライナに今後20年間はNATO加盟を見合わせるよう求める可能性があると報じた。ロシアによる再侵攻の抑止に向けた軍事支援を継続するための条件とする。
トランプ氏が27日にウクライナ・ロシア担当特使に指名したキース・ケロッグ氏もNATO加盟を長期間延期すべきだと唱える。
NATOは全加盟国の同意を前提に各国の判断で加盟できる「門戸開放」政策を採ってきた。この案が採用されれば、ウクライナの加盟阻止を求めるプーチン氏の要求を取り入れる事実上の修正になる。
NATO欧州連合軍の最高司令官を務めた元米海軍大将のジェームズ・スタブリディス氏は20日に米ブルームバーグ通信への寄稿で、ウクライナの欧州連合(EU)加盟を5年間、NATO加盟を10年間それぞれ先延ばしする折衷案を主張した。
トランプ次期大統領が大統領補佐官(国家安全保障担当)に指名したマイク・ウォルツ氏は24日、米保守系FOXニュースで「責任ある形で終結させなければならない」と述べた。応酬が激化する現状に警鐘を鳴らし「トランプ氏はどう抑止力を回復し、平和をもたらすか懸念している」と話した。
非武装地帯設定、朝鮮戦争の休戦協定ベースに
スタブリディス氏は1953年の朝鮮戦争の休戦協定に倣いDMZを設けて停戦につなげるよう提起する。ロシアとウクライナの双方が支配する領土から8〜16キロメートルの場所への設置を促す。
DMZは軍事活動が許されない地域で、北緯38度付近の韓国と北朝鮮の軍事境界線から南北に2キロメートルずつ、面積にして900平方キロメートルの地帯が該当する。新政権で副大統領に就くJ・D・バンス氏はウクライナの現在の前線に沿ったDMZの設置を唱えてきた。
DMZではロシアとウクライナ軍に加え、どの国の軍隊が警備にあたるかが停戦合意の実効性を左右する。朝鮮半島のDMZでは韓国軍、北朝鮮軍に加え、米韓などの国連軍が警備に関与している。海外派兵に消極的なトランプ氏がDMZへの米兵の展開に踏み切るかは懐疑的な見方もある。
ウクライナ、NATO加盟棚上げには反対
ウクライナはNATO加盟が棚上げされたままで、ロシアによる全土の2割の占領状態が続くことは容認しない立場を鮮明にしている。NATOの抑止力がないままでの停戦はロシアが戦力を立て直し、再侵攻するための時間稼ぎに使われかねないとみているためだ。
一方で、加盟への何らかの道筋が用意されれば、交渉において領土面での妥協も辞さない姿勢をみせている。
ゼレンスキー大統領は20日のFOXニュースのインタビューで、ロシアが14年から占領を続けるクリミア半島について「取り戻すために何万人もの国民を犠牲にすることはできない。外交的に取り戻すことができる」と語った。
武力で全土奪回を目指す方針を修正した背景には、前線での窮状が深まっていることがある。ロシア軍は人海戦術を続けることで昨年春以来、最速のペースで進軍している。
ウクライナ軍とつながりがある同国の戦況分析サイト「ディープ・ステート」によると、今月だけで同国東部のロシア軍は600平方キロメートルを超える領土を奪取した。このペースで領土を失い続けると、来年には中部地域の防衛も危うくなりかねない。
厭戦(えんせん)機運も徐々に広がる。米ギャラップが8月と10月にウクライナ国民を対象にした世論調査によると、52%ができるだけ早期に停戦交渉すべきだと回答した。27%だった23年10月からほぼ倍増し、半数は領土割譲を容認する。
ただ、10年といった長期の加盟棚上げには世論の反対が強く、ゼレンスキー氏が停戦案の受け入れにあたり想定する国民投票で否決されるのは必至だ。一方、ロシアはウクライナのNATO加盟の可能性を残す停戦案は受諾しない立場だ。
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鶴岡路人
慶應義塾大学総合政策学部 准教授
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ひとこと解説さまざまに言及されるトランプ政権の停戦案の多くは、ウクライナと同時にロシアにとって受け入れが困難である点が、この問題の認識として重要だ。そのため、ウクライナに圧力をかけるだけでは停戦合意が難しい。この点、トランプ政権移行チームは徐々に認識を強めている印象だ。NATO加盟棚上げ論は、実際の加盟までにはいずれにしても一定の時間が必要であることを考えれば、程度の問題と解釈することも可能だが、その場合でも従来の「門戸開放」原則との整合性は問われることになる。米国もロシアへの一方的譲歩は避けたいはずである。
2024年11月28日 8:54
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渡部恒雄
笹川平和財団 上席フェロー
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ひとこと解説異論の多いウクライナ戦争の停戦案ですが、ロシアにとってはウクライナのNATO加盟は絶対に受け入れられない条件であり、ウクライナにとっては自国の安全保障なしの停戦は絶対に受け入れないという矛盾があります。ですので、スタブリディス氏などの多くの停戦案は、この二つの条件の間で落としどころを探っています。同時に、ロシアにとってもウクライナにとっても、それぞれに戦争継続は楽ではなく、トランプ次期政権はこれ以上のウクライナ支援は継続したくないために停戦を望む、という立場ですので、停戦交渉のための環境は、それなりには整いつつあると考えられます。
2024年11月28日 6:09
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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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ひとこと解説キース・ケロッグ氏の特使任命の記事にもコメントつけましたが、私はこれはかなり本気だと思います。ケロッグ氏がAFPIに書いた論考を読んでも、バイデン政権のウクライナ政策批判は非常に的を得ています。このままだらだら戦争を続けても展望がない、ということは多くのヨーロッパ人も認識しています。ケロッグ氏は、米は孤立主義にはならないと言っており、欧州安保アーキテクチャーに無関心でいるつもりではないようです。うまくいくとは限りませんが、アメリカが停戦に本気になっているということは、それだけで十分重みがあります。また、資源を必要なところに集中させることを説いており、日本にとっても重要なことです。
2024年11月28日 11:04
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広瀬陽子
慶応義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説ロシアにとってウクライナのNATO加盟は時限的凍結も含めて許容できない一方、ウクライナはNATO加盟ないし、それに準ずる国際的な安全保障の確保無くして和平を受け入れる事はできない。スタブリディス氏はじめ、朝鮮半島シナリオが終結案として欧米では議論されるも、「朝鮮半島シナリオこそ最悪のシナリオ」だと、筆者はウクライナ高官から幾度となく聞かされてきた。他方、「停戦」と言っても、ウクライナは単に戦闘を止めるだけの ceasefire は受け入れられず、公式な合意に基づき戦闘状態を停止させる armistice でなければ受け入れられないとも述べている。両国が受け入れられる妥協点の模索は極めて困難だ。
2024年11月28日 9:09
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